縁側のコンサルタント、世界へ

「……驚きました。失礼ですが、地方の農家さんで、これほどまでにグローバルな視点と正確なデータを持ってプレゼンをされた方は初めてです。この数値の根拠は何ですか?」


鋭い質問。かつての美智子なら、ここで言葉に詰まっていただろう。
だが、今の彼女は違う。Feloが示してくれた「出典(ソース)」を、彼女はすべて自分のものにしていた。


「これは、イタリアの食科学大学が発表した根拠に基づいています。私の大根の成分は、彼らが定義する最高品質の基準を満たしているんです」


美智子は、さらにFeloと事前に「シミュレーション」しておいた想定質問への回答を、淀みなく繰り出した。


「でも、美智子さん」


古賀が身を乗り出した。


「データやトレンドは分かりました。でも、私が一番知りたいのは……なぜ、あなたがこれを守り続けているか、だ」
美智子は一瞬、言葉を失った。


AIがくれた言葉の隙間に、自分自身の「魂」を込める瞬間が来たことを悟った。


「……娘が、小さかった頃のことです」


美智子は、画面を消した。真っ白な画面の向こう側で、古賀と一対一で向き合う。


「この大根を離乳食にして食べさせたとき、あの子が初めて、声を出して笑ったんです。その笑顔を見たとき、私は決めたんです。どんなに形が悪くても、どんなに手間がかかっても、この『命の甘み』だけは、絶対に絶やしてはいけないって。それが、この土を守る私の、たった一つの誇りなんです」


静寂が、オンラインの回線を伝わって流れた。
美智子の家の縁側で鳴いている、のどかな鳥の声が、マイク越しに東京のオフィスへ届いている。
古賀は、しばらく黙って美智子の顔を見つめていた。


そして、ゆっくりと口を開いた。


「……参りました。美智子さん、あなたの勝ちだ。その大根、うちのメインディッシュに使わせてください。いや、それだけじゃない。あなたのその『プレゼン』を、僕の取引先の海外バイヤーたちにも見せてやってくれませんか?」


「えっ……? 海外?」


美智子は耳を疑った。
村から出たことのない、五十五歳の農家。


その自分の声が、AIという翼を得て、今、国境を越えようとしていた。