私ばかりが本気だと思って別れを告げたら、完璧上司の余裕が崩れました


「ごめん、なんて、そんなひと言で済ませないでください! 私、とっても、悩んだんですからね……!」

 再び――今度は一粒で収まりきらないほどの涙を溢れさせた姿を目にして、雅芳は思わず立ち上がり、その隣に行く。そうして、おそるおそるその華奢な身体を抱きしめた。すると、彼女のほうからも身を擦り寄せてぎゅっと腕を回され、たまらない気持ちになる。

「課長は軽い気持ちで偶然私を選んだだけなのかな、とか、しばらく恋人関係を楽しめたら捨てられちゃうのかな、とか、いろいろ悩んで……考えたらつらくて……私ばっかり好きなんだと思ったら苦しくてたまらなくて……」

 耳元で涙声の恨み言が次々とこぼれる。それだけ悩ませてしまったのだと知って、雅芳は胸が痛くなるほど己の振る舞いを後悔した。

「ごめん……何度でも言う。僕は君が好きだ。捨てるなんてありえない。君は――君だけが、僕をこれほど惹きつける。こんな気持ちになったのは初めてだ」
「課長……」
「名前を呼んで、佳穂」
「……雅芳、さん」
「ああ……」

 万感の思いで呻いた雅芳は、余裕のない仕草で周囲を窺うと、誰も自分たちに注目していないことを確かめ、そっと佳穂に顔を近づけた。
 こちらがなにを求めているかを察した彼女の瞳が大きくなる。

「嫌ならやめる」

 雅芳が声をひそめて囁くと、佳穂はわずかに逡巡し、ふるふると首を横に振った。そうして、恥じらいながらおずおずと瞼を下ろす。

 それらの反応は、まるでこちらに全てを委ねてくれているかのような素直な無垢さに満ちていて、雅芳の胸に愛しい気持ちがいっそう込み上げる。

 そして――二人は互いの唇をゆっくりと重ね合わせた。