囁いて、熱っぽく見つめると、彼女は目元をじわりと赤くしてテーブルに視線を落とした。
その仕草ににじむのは恥じらいと、かすかな恐れ? それとも喜び? 分からない。それを雅芳は知りたいと思う。
佳穂がふるふると首を横に振って、手元のグラスを両手で握りしめた。
「あ、の……私、そんなふうに言われても、どうしたらいいのか……」
「ああ、分かっている。急にこんなことを言われても怖いだけだろう。だから、大事に大事に、ゆっくりと距離を縮めるつもりでいた。それが、まさか――」
雅芳は悔いるように目を伏せる。
「君を不安にさせているとは思わなかった」
「あ……」
雅芳の苦い述懐に、佳穂が瞠目して声を漏らす。自分たちのすれ違いの原因はそこにあったのか。そのことが、今ようやく腑に落ちたというふうに。
雅芳は黙って彼女の反応を窺った。
告げるべき想いは告げた。それでどんな反応が返ってこようとも受け止めるべきだと思う。やっぱり別れると言われたら――全力で説得はするけれども。
しばらく沈黙して考え込んでいた佳穂はやがて顔を上げる。眉を下げて、瞳を潤ませて。切なげなその表情に雅芳は目を奪われる。震える唇から紡がれるのは、こちらを責めるような言葉だ。
「そこまで思ってくれてるなら……どうして私にだけ言わせたんですか。好きだってこと。課長からも言ってほしかったです」
「――うん」
頷いて、雅芳は前髪をかき上げる。
「うん、そうだ。そのとおりだ。――でも言えなかった」
「どうして……?」
「言ってしまったら、想いが溢れてしまいそうだったから。君のペースなんて無視して、全てに触れて、暴きたくなってしまいそうだった」
好いた相手が、自分のことを好いてくれていた。
そんな展開は今までの人生でいくらでも経験してきている。
けれど、佳穂を相手にするとなにもかもが違った。湧き上がる喜びも、衝動も。自分でも思いもよらないほどにすさまじくて。
「だから抑えた。君を怖がらせたくなかった。大事にしたかった。……でも、抑えすぎたせいで、君には僕が本気じゃないように見えていたんだな……ごめん」
項垂れたように頭を下げると、正面からかすかに鼻をすする音がして、テーブルの上にある彼女の手に力がこもった。
