START☆MUSIC

「…ここか」
会場についた陶揮は眼の前にある巨大なビルに目を細めてしまった。
でかすぎる。
それが率直な陶揮の感想だった。
「はぁ…」
人前に出るのが好きではない陶揮はため息を付きながら会場へ足を踏み入れた。

(…何じゃあここは…)
異様にギッスギッスした空間。
まるで、獣が睨み合ってそこの視界に入るだけで食いつかれそうな、生々しい感じ。
陶揮はこういう系の雰囲気が超嫌いだ。
そんな方たちに一言申したい。
(「もっと楽にしましょ〜よ」…なんて、言ったら殴り飛ばされそーだな…)
なぜなら、陶揮以外のほとんどの方は本気でアイドルになるために来ているのだ。
陶揮はそんな方たちの邪魔する気ははなからない。
逆に、「わ〜みんな頑張ってぇ〜〜」と家でタブレットで眺めているので精一杯な陰キャだ。
そんなやつを表舞台に突き出し、家で悠々とタブレットでこの状況を見ている幼馴染を殴り飛ばしたくなる。
…したらやばいから、流石にやらないが。
(とりあえず、安全地帯探しを…始まるまでトイレに篭っとこうか…)
よくあることだ。
陰キャは大体、知らない場所に人がいっぱいいたら逃げ出したくなり、安全地帯探しをしてしまう。
陶揮はキョロキョロしながら比較的生々しい雰囲気がないところを探さす。
すると、後ろから肩を叩かれた。
「…‼‼‼」
びっくりし、後ろを振り向くと、背丈は陶揮と一緒ぐらいの美男子がいた。
(こ…こいつ、知ってる…‼‼酉水 晃介…っっ、、、)
酉水 晃介。
最近、ソロで活動し始めた若手歌手で、ものすごく整っているお顔をされているし、曲も一発で流行る。
『異次元歌手』とか言われている奴だ。
さらに、その超美男子パワフル異次元…いや、次元は一緒だけど、まあエグいやつだというこ___は口をひらく。
「…こんにちは?佐久間 陶揮くんだよね?」
「ア、ハイ。ソウデスガ、ナニカゴヨウデショウカ?」
動揺のあまり、片言の日本語でお返ししてしまう。
なぜか、そんな陶揮の様子を見て、酉水晃介は吹き出した。
その状況に驚き、ぽかんとしてしまった陶揮。
「…」
「く、ふっ…ふふ、ごめんね…ふっっ…いや、、な、なんでそんな片言なんだろうだなって…ふっ、ごめ…」
思わぬところで異次元歌手のツボを押してしまったよう。
けれど数秒して、落ち着いたようだった。
「…えっと…こんにちは?」
「こんにちは、僕は酉水晃介。今回、君とペアを組む相手だよ。よろしくね」
「…ぺあ?」
「そう」
何だそれは。
(おい花乃。それは聞いていないぞ)
何だペアって。
そんな制度があったのだろうか。
ぽかんとする陶揮を見て、晃介は優しく説明をしてくれる。
「このオーディションでは、基本的二人一組のペアで行動することになってるんだ」
説明をしてくれたおかげで、恥をかかずにすんだ。
とういうか。
(いつペア発表さててたんだよ…)
もともと花乃が知っていて黙っていたとも考えれる。
(おのれ、花乃許さん)
けれど、ここに来てしまっては状況は変わらないと判断した陶揮。
とりあえず晃介に向かいペコリとお辞儀する。
「えっと…お願いします」
「そんなにかしこまらなくてもいいよ、同い年だし」
「っ同い年…⁉嘘だろっ⁉」
思わず、口の悪い素が出てしまう。
それほどに驚く。
「ふふっ、だってまだ16歳だしね僕」
「ま、まじかっ…」
頬が引きつった。
絶対陶揮より年上だと思ったから。
そんな陶揮を見て再び吹き出す晃介。
「君、面白いね」
「あ、ありがとう?」
「ふふっ」
晃介は笑いながらも手を差し伸べてくる。
握り返すと、晃介は太陽のように笑った。
「よろしく。僕のことは晃介って呼んで」
「…よろしく、晃介。…自分のことは陶揮って呼んで」
「陶揮‼‼いい名前だね」
「…あ、ありがと」
褒められることは少なかったので慣れいなくて、少し嬉しくなった。
「よし、二人でデビュー目指して頑張ろう‼‼」
「お、おう…」
そんなガチ目な感じの晃介には言えない。
(言えるわけねぇよ…デビューする気なしって…)

『今から1分PRをしてもらいます』
そうアナウンスされ、周りはざわつき始めた。
このオーデションはネットで配信されるらしく、視聴者もアイドルを選ぶことができるという謎システムが発生するらしい。
「陶揮」
「あ、晃介」
合流した陶揮たちは、撮影場所へ行く。
「うっ」
「どうした⁉陶揮⁉」
「やべ…人に見られるの、苦手…」
「え⁉」
本番直前となり、陶揮の陰キャ本能が意気なく発揮されようとしていたのだ。
晃介は「じゃあなんでここ来た」と言いたげな顔をしている。
(しょうがないだろ…花乃に無理やり突っ込まれたんだから…)
晃介は何やらカバンをごそごそし始めた。
「はい」
「…?」
手に持たされたのは、小さな紙だった。
「これ__」
『次、酉水 晃介さん。一分PRお願いします』
「はいは〜い」
「これはなにか」と聞く前に晃介は順番で言ってしまう。
けど、振り向きざまにきれいなウィンクをお見舞いされた。
紙を開けば、どのような順に自己紹介をすればいいか、何を言えばいいか、と細かに記されていた。
困っていた陶揮にこのようにやれと気遣ってくれたのかもしれない。
思わず、晃介を拝みかけた。
すると、次のアナウンスが流れる。
『佐久間 陶揮さん、次の一分PRお願いします』
「あ、はい」
撮影されるところらしいところへつくと、ちょうど晃介が終わったらしいところだった。
撮影スタジオへ入れられる。
そして、息をつくヒマを与えずすぐ始まってしまう。
「行きまーす、3,2,……」
カウントダウンが0になった瞬間陶揮は肺の空気を入れ替えて、気持ちをスイッチする。
…アイドル候補生の陶揮へ。
「佐久間陶揮。趣味は作曲と歌。まぁ、他にも得意なことはあるけど時間がね。…俺のこと見ててね」
最後は、晃介がよくやってるキラキラした、王子様スマイルをした上げた。
そこで時間がカンカン、と終了を告げる。
…台本通りの演技。
まさしく完璧。
周りがざわりとした。
(ミスったか…?いやまて、それ以前に…なんで自分こんなちゃんとやってんの。落ちる気満々だったじゃねえか)
とか自己嫌悪に浸っていたらいつの間にか一日が終わっていた。


『今から、個人戦を開始します』
「…なぜ」
果てしなく、うなだれる陶揮。
あの自己紹介PR放映から3日
本当ならもう家に帰れていたはずなのに、あの自己紹介PRのせいで誰かさんが陶揮のことを推し始めたらしい。
結果、未だになぜか残ってしまっている陶揮。
「すっごかったね、陶揮。やっぱあのPRは、陶揮が一番に合ってるよ」
「はは、そりゃどうも…てか晃介、お前も結構人気あるみたいじゃんか」
「まぁねぇ〜〜」
ふふ、とお得意の王子様スマイルを浮かべながら晃介は答える。
そして移動だと言われ、前に人が集まってき、全員先頭へついていく。
「今残っているのは20人ちょっとだね」
「ん」
「僕、本当にアイドルになれるのかな」
「さぁ。実力だな」
急に真面目な話を始める晃介。
「今から始まる個人戦あるじゃんさ」
「ああ」
「もし、どっちが勝っても恨みっこなしだよ?」
「もちろん」
今からの個人戦は、一人ひとりの問題だ。
一人ひとり舞台に立ってパフォーマンスをする。
それまでの準備期間は基本的に大体の人は外へ出ない。
どれだけ完璧にしようが、本番何があるかわからない。
(…それも、自分にはなんにも関係ねぇけど)
そうだ。
最初から、陶揮はアイドルなんか目指してない。
瞳を薄く閉じ、眼の前の光景を見た。
そこにはキラキラしい少年たちがいた。
一生懸命取り組んで、自分を信じることができる、すごい人たちが。
(…自分は…場違いだな…)
そのまま、終始無言で自室についた。
「じゃ、また本番で」
「ああ」
音を立てながらドアが閉まった。