START☆MUSIC

客席の明かりが消え、人の声が少なくなった。
そして、その最初の一音で陶揮はこころを奪われた。
『そのばっかりな笑顔見せてよ 揺るぎないその言葉と』
そのメロディーとともにぱっと明かりがついた。
センターはマアイだった。
『いつも過ごしたこの街で 歩いて行った夕日』
横から出てきて、慣れたようにピースする士。
『新しい世界を祝福し 君の傍に行きたいんだよby you』
また手を伸ばし、ウィンクして人気をかっさらう和樹。
一般客の入場が許可されている今回の戦いは、観客へのファンサも加点に影響する。
和樹とマアイが見合って手を合わせる。
その後ろから士が出てきて和樹とマアイとハイタッチする。
それに観客が歓声を上げる。
その姿はさながら____
(__アイドルだ…)
誰も何も言いようがない、正真正銘の。
その眩しさに…目がくらんだ。
『かぞえるたびに 重なる未来へ』
『リスタートする 無数の色を塗って』
和樹と士がハイタッチして見合った。
『yey yey your foget sumil!』
続けて出てきたマアイがバッチリファンサする。
『たそがれる 夕日の中で』
『君に優しく キスをしようか』
覚えているのはそこだけで、陶揮はあっけにとられ、殆ど忘れてしまっていた。
いつの間にか終わっていて、樋坂の声で我に返った。
「佐久間?どうした、目ぇ開けたまま寝てんのか?」
「…、もしそれなら目乾燥して寝るどころじゃないでしょ…」
「あ、生き返った。おはよう」
「だから寝てないって…」
珍しい樋坂のボケに陶揮は乗っかってやる。
樋坂は満足したように笑みを浮かべる。
「この次が俺等の出番だ。行くぞ」
「うん」
樋坂にひょこひょこついていく陶揮。
これではどちらが主人公かわからない、と樋坂は密かに肩を落とした。
「うわぁ、アイドルだ…」
衣装室に連れて行かれた陶揮葉、憐から差し出された衣装を見て思わず感動を発してしまう。
「そりゃそうっすよ。逆に忘れてそうだから言うっすけど、オレ達の本業一応アイドルっすからね?」
憐はその感想に少し呆れたように補足する。
(…確かに…、今芸能界での売れっ子たちだよね…この人たち)
何と言っても天下の『COUNT』がいるとは。
「その当の本人は、ヒスってほとんど動けていないけどね」
「…ほんとに光希さん、大丈夫そうなんですか?」
「大丈夫、大丈夫っす‼舞台の上では性格変わるっすから」
「えぇ?」
内心疑問もありなあらも、無理やり納得しようとする。
「メイク、メイクしようっす!」
憐がニコニコしながらメイク用品を持ってくる。
「ひーさか!やってくださいっす!」
「お前は一人でできるだろ。終わったら光希手伝っとけ」
「むぅう…!わかりましたっす、そのかわり今日の食堂奢ってくださいっすね!」
憐はメイクバッグを抱え、むぅ…と拗ねるように、とたとたと光希の方へ行ってしまった。
樋坂はそんな憐を見て、ふぅ…と一段落置くように息を吐く。
「今からメイクの仕方を教えるから、忘れるなよ」
「あ、うん、ありがとございます」
メイクなんてものは生まれてこの方一度もしたことがなかった陶揮は少し緊張しながら返事をした。
「じゃ、まずファンデ塗るな」
「はい」
樋坂が陶揮の顔にファンデを塗る。
「次はおしろい。色は…白っぽくするか?」
「あ、お願いします」
自分が何されてるかがわからない陶揮だが、とりあえず頷く。
そして暫くまに、陶揮の前から離れた。
「ほら、完成。目、開けていいぞ」
「…っ…」
恐る恐る目を開く。
そして、鏡に写った自分を見て目を見開いた。
「…すごい…」
「ああ、すごいだろう。俺がやったメイクなんだからな」
樋坂はフフンと得意そうに笑った。
鏡に写った陶揮は彩ったまぶたをしている。
いつもの自分とは、かけ離れた『誰か』だった。
「この自分に、命を吹き入れろ。それが、アイドルとしての『佐久間陶揮』の完成形だ」
「命…」
樋坂はニッと笑い、立ち上がった。
「さてと、行くぞ」