START☆MUSIC


「焼き肉合戦一日前!いえいっす!」
「うおりゃあああっしゃい!やったるぜ!」
憐、亮もとい、うるさい組は拳を振り上げていた。
「いい加減公共のマナーを知りましょうか⁉君たちいくつなの‼‼」
和樹は頭を抱え身悶える。
「12歳っす!かわいがってくださいっす!」
「80だ!敬え〜〜」
「年齢を偽るんじゃない!16歳と18歳!」
(おー…いつにましてツッコミが激しい…)
陶揮は舞台準備しながら和樹のツッコミの速さに感心する。
「うん!いい感じかな?」
「はい〜、去年よりもいい出来ですねぇ〜」
舞台を眺め、うん、と頷く士。
マアイもいつもより楽しそうにるんるんしている。
うなずき合っている二人に声をかけてくる人がいた。
「つっかさ〜、これ何処おきゃいい?」
「それは右側で」
「オッケ〜」
そう言ってちょこまか動いているのは圭だ。
その他もろもろに手伝いに来てるのは、生徒会からの派遣メンバーだ。
「叶先輩と流歌くん、圭さんもお手伝いありがとうございます」
士はそんな人達にお礼をいう。
「も〜、先輩後輩やとしても敬語はいらない言っとるじゃけん〜、相変わらず礼儀正しい子やね津葉木兄くんは〜」
「そうですよ!オレ達は会長から派遣されてるんですよ!むしろこんな伝統行事に関わることができるなんて光栄です」
「まぁ、上下関係も大事だけどな」
手伝いに来ているのは流歌に圭だった。
まんざらでもない様子の圭は少し冷や汗をかいている。
(…何故冷や汗??)
その原因はすぐに現れる。
「わぁ〜、圭くん〜会いたかったよぉ〜〜」
「うげっ…おっ俺照明の方見てくるな‼‼‼」
「待ってよぉ〜」
圭はずどどどど、と音がするぐらい高速で逃げる。
マアイがそれを追いかけていった。
(あれ?なんかこの光景前も見たような…)
陶揮が首を傾げていると士が舞台上の人を集めて仕切り直しをしていた。
「今日はこれくらいにしましょう!Aクラスの皆さんは各自明日に備えて自室へ戻ってください」
ぞろぞろとかえっていくみなさんを眺めながらさあ帰るかと陶揮も出口に足を向けたところだった。
「佐久間くんはこのあと用事?ないならこのままここ残ってほしいんだけれど」
いきなり圭にはなしかけられ、びっくりするが、このあとは別に用事というものはないから了承する。
「いいですけど…なにするんですか?」
「会長が来るから良かったらあってみるといい」
「ほら、陶揮生徒会のこと気になってたじゃないっすか」
憐が補足するように付け足した。
(たしかに気になってはいたけど、流石に学園の主導権をほぼ握ってるという学園長と同位置に座っている人と対面できる自信がないんだがっ…!)
陶揮は青い顔でもんもんと唸りながら居残りメンバーの顔ぶれを見る。
亮、光希、士、憧人、流歌に圭、和樹、マアイだ。
(…いやいや)
マアイはともかく、すごいメンバー揃いすぎだ。
世界進出アイドル『COUNT』のメンバー二人
Z世代大人気、バライティー番組出演数双子で独占している『T&M』のメンバー一人
クラシック界で知らないものはいない超級で有名アイドル『CLOSEWord』のメンバー一人
今最も可愛いアイドルの集まりであり、コミュ力異次元、目の癒やし集団『PHASS』のメンバー一人
メンバーが出たドラマが流行らなかったことはない、ミステリアスなキャラを売りとしている『DRAW』のメンバー二人。
(改めて見なくてもこんなところに凡人がいていいのか…)
簡単に言えば、すごい人たちはいわゆるきれいな花で、自分はもはや雑草さえ生えない干からびた土に埋まっているだろう。
「何、陶揮君、緊張しとるの?大丈夫じゃけ、澪は優しいけん」
「そうだよ陶揮!会長は怒ると怖いけどめっちゃ優しいんだよ、もはや惚れる!」
「…そ、そうだといいけど…」
励ましてもらっているところ、楽しそうな声がドアから聞こえた。
「ふふ、何々?みんなそんな待ち構えて、僕を待っていたのかい?」
「会長‼‼おっひさしぶりっす‼‼」
そこには背丈の多角、まるで絵本の中の王子様みたいな美男子が立っていた。
真っ先に反応した憐が澪のもとへ駆け寄る。
クスクスと笑いながら神秘的な黄色の目を細める。
「やあ憐。久しぶりだね。前あったのは2ヶ月ぐらい前かな?身長伸びたね。いいね、若者は成長が早いんだね」
「会長にはまだ全然追いつけないっすよ‼‼‼」
「亮と光希は…ふふ、つい昨日あったばかりだね。士は久しぶりだね」
「はい。会長さんは何かと忙しいようで。お体に気をつけてください」
「ありがとう、士はあったときからずっと優しかったからね」
澪はあっという間にその場の雰囲気を変え、そこの中心に立つ。
「…ふふ、和樹は…ああ、また眉間のシワが増えたかな?」
「やめてくださいよ…事実ですけれども」
「マアイ君も久しぶり…あれ?はじめましてかな?」
澪は陶揮きを見つけ、首を傾げる。
そこに素早く士の説明が入る。
「最近転入してきた、前お話した例の生徒です」
「ああ、言っていたね。名前は…そう、佐久間陶揮君だ」
「…あ…さ、佐久間陶揮ですっ!よろしくお願いしますっ」
陶揮は中に浮かんでいた思考を取り戻して、バッと頭を下げながら慌てて挨拶をする。
そんな余裕のない陶揮に澪はものすごくきれいな笑顔を見せる。
(…か、顔がいいっっっっっっ…同じ人間なのにこの人はなぜこんなに発光してるんだ…⁉ホタル⁉)
陶揮は少し後ずさりながら澪と喋ることになる。
「君のことは士から聞いてるよ。君のことは期待しているよ」
「え、あ、こ、光栄ですっ?」
澪は、褒められ慣れていなくて声が上ずってしまう陶揮を見てクスクスと笑う。
そこにヒョコリと憐が頭を突っ込む。
「そういや会長、海外行ってたんじゃないですか?オーディション番組審査員で。韓国でしたっけ?」
「うん、そうだよ。けど今丁度長期休暇中だし、学園の生徒会長として今の現状を知りたくてね」
(お、オーディション番組の審査員やってんのこの人⁉やばいだろおい)
さらっと繰り出された驚くような発言に陶揮以外誰も反応しない。
やっぱりヤバい人しかいない…と冷や汗をかく。
「熱心っすね…」
「ふふ、けど千早ほどじゃないかな。僕がいない間、学園のことは千早に頼んでいるからね。佐久間くんも学園のことでわからない所があれば千早に聞くといい」
「はい」
(そういえば、この笑顔は晃介似だな…王子様系統というか…)
ふとそんなことを考えるが、今は考えることじゃないと持ち直す。
「…その、初風千早…副会長って今どこにいらっしゃるんですか?」
「あ、そういえば見ねえな〜〜、最近。叶先輩は知ってる?確か仲良かったよな?」
「ん〜、げっちゃなぁ〜、色んな所おるから特定の場所は知らんねで…ま、そのうち見つかるっちゃ、大丈夫やけん‼‼」
「意外と叶さんって適当な人だから…」
ははは、と苦笑いをしながら士が答える。
その後もべらべらと喋る。
そして終止符を打ち、それぞれの寮へ帰っていく。
陶揮もみんなの後を追おうと澪に会釈し、帰ろうとするが呼び止められた。
「佐久間君ちょっといいかな?」
「あ、はい」
呼び止められ戸惑う陶揮。
(…なんかしたっけ…)
少し恐れながらも澪に近づく。
「君は歌が好き?」
「……わからない、です」
少し間が空いたが、これは事実だ。
澪が驚いたような顔をするので慌てて陶揮は訂正する。
「けど!歌うのは嫌いじゃない、んです…けど、好きとは思えません…」
「そうなんだね。うん、及第点だよ、佐久間くん」
「え?」
いきなりの回答にびっくりする陶揮。
澪は一人ながら納得したようにウンウンと頷いている。
「今ここで、『歌が好き』って断言する人ってね、私の経験上すぐやめてしまうんだ。自分の才能に気づいてね。逆に『嫌い』と回答すれば自分の才能を信じれない、臆病な人間。むしろ、芸能界から消えてくれたほうがありがたいね」
「…っっ」
陶揮が驚く暇もなく澪のきれいな口から吐き出される毒舌が恐ろしい。
(こわっ…毒舌?いや怖い!)
密かに顔を青くする陶揮。
そんな陶揮を気にせず澪はズバズバと笑顔に続ける。
「君はAクラスにいいスパイスになってくれると思うんだよね。訳アリの子も多いからね、期待してるよ、佐久間陶揮くん」
「あ、はい、ありがとうございます?」
澪に褒められて思わず語尾にはてなマークがついてしまったではないか。
そうして澪は「そういえば」と続ける。
「君、すごいよね。記録によれば音楽を本格的に始めたことがないんだってね」
「…」
「君の父は『GodBring』の明津 恭さんじゃないのかい?」
「…っっ」
自分でも声が出なくなったのがわかった。
(やっぱ、り、あいつの名前が出てくるんだ…。自分だけの音楽を、汚される気持ちになる…)
そして唇に鈍い痛みが走った。
陶揮は無意識のうちに唇を噛んでしまっていたのだ。
「…佐久間くん?どうしたのかい?」
「す、みませ、ん…体調が、悪い、ようなの、で、帰らせても、らって、もいい、ですか…っ…」
「そうなのかい⁉引き止めてしまって申し訳ないよ。くれぐれも体調には気をつけなよ」
「…しつれ、いします」
カタコトいなった言葉とともに陶揮は逃げるように澪の前から去る。
そして走って寮へ戻る。
「…」
ドアを開ければしんとした空気が陶揮の体を包みこんだ。
(…一人なのかな)
陶揮の瞳が光をなくしかけた瞬間。
『パチッ』
そんな音とともに電気がついた。
そして部屋の扉が開き、顔をのぞかせたのは巳だった。
「…部屋、入りなよ」
「…!」
巳から声をかけてもらうことは殆どなかったため、陶揮はびっくりして目を見開いた。
巳は相変わらず表情、もはや眉一つ動かさない整った顔で部屋へ入れてくれる。
「…座って」
「み、巳くん…?どうしたの?」
なにかしたかと疑う陶揮に巳は首をゆるく振る。
そして陶揮の前にカップを一つおいた。
中身はココアだった。
「巳くん、これ…」
「…」
巳は無言で自分のココアを啜った。
その姿を見て、自分もカップを持ち上げると、じんわりと手のひらに広がる温かみと同時に鼻腔をくすぐる甘い匂いを感じた。
口に含むと甘い味とともに何故か安心がこみ上げてきた。
(…巳くんがなにしたいのかはわからないけど…)
今は無性に、この無言の時間が心地よく感じた。
「…ありがとう」
「そ」
巳はそっけない返事をしながら口にコップを運んだ。