「陶揮くん、もうちょっとステップ軽くしたほうが良いかも」
「え、あ、はいっ…」
アイドル専攻の授業。
陶揮はダンスを練習中である。
士からの容赦ないダメ出しをすぐさま見直す陶揮は結構疲れが出てきていた。
「うん、じゃあ次動画撮ろうかな?」
「…っはい!」
頬から流れる汗を手で拭いタブレットのカメラの方へ行く。
「…へぇ、すごいじゃないっすか!あんなに大根だったのに!」
「うん。できるようになったね。…けどちょっとまだ気になるところがあるのは要求のし過ぎかな?」
「え゙、ま、まだあるの⁉」
取った動画を見返し、世辞も少なく瞬間で下された。
憐はうーん、というように顎を撫でた。
「どうした?憐くん?」
「そろそろ『アレ』しても良いんじゃなかなーっておもっただけっす」
「ああ〜、『アレ』ね。確かに最近は陶揮くんも結構できるようになったし、良いかもね」
「『アレ』って何のことですか?」
疑問を伝えると、憐をニヤリと笑った。
するとパンパンッと手を叩き、Aクラスの皆んなに大声で呼びかけた。
「皆んな〜、久しぶりに『焼き肉おごり争奪戦』やるぞ〜〜〜〜‼‼‼‼‼‼‼‼」
すると、憐の方へ皆んながどどどどどと、音を立てながら走り寄る。
「んじゃ、くじ用意したから引いてってね〜」
と、士がどこからともなくくじ箱を取り出した。
(ど、どういうこと…⁉いきなりなんか始まったんだけど⁉)
疑問で頭が一廃になり、その場から遥かに一人遅れている陶揮は戸惑う。
そんな陶揮に救いの手を差し伸べたのはマアイだ。
「この突然の争奪戦はぁ、くじで3,4人チームを作ってぇ、チーム同士で歌とダンスで争ってねぇ最下位だったチームがぁ、上位のチームに焼き肉奢るっていう謎の授業だよ」
「…そういうのあったんですね…、しかし、突然ですね色々と」
「そうだねぇ、この界隈の人たちは大体思いつきが突然だからねぇ、色々と。大変だねぇ〜こういう人たちを制御する人とかは」
(そう、和樹さんみたいな)
和樹はこの様子にはぁ…と、ため息を付きながら頭を抑えている。
やはりこのクラスでの一番の苦労人は和樹だ。
(今度個別でなんか奢ろう)
そんなことを陶揮が考えていると、くじの順番が来ていたようで士がくじ箱を両手で持って陶揮に差し出してきた。
「…」
「あ、まだ開けないでくださいね。一斉に開けますから。…はい、マアさんどうぞ」
「はいはいぃ…。どころで士さん、期間はいつですかぁ?」
「う〜ん、そうだね…2週間でいいんじゃないかな?」
マアイと士がのほほんと話しているのを聞いていた陶揮だが。
「じゃあ、皆んな紙を開いて書いている番号のところへ行ってください」
士が言い、ざわざわしながら移動する人が現れたので陶揮も紙を開いた。
「…『3』か」
紙には3と書かれてあって、陶揮は周りを見渡した。
「陶揮くんはどこだった〜?」
「あ、自分は…3ですけど…」
「あ〜、じゃああそこだねぇ。私は1だからぁ、離れちゃったけどぉ陶揮くんの歌きくの楽しみだなぁ〜。あ、3はあっちだよ」
そんな感じでふわふわと消えていった。
(相変わらず、不思議な人だな…マアイさんは)
そう思いながらも陶揮はマアイが指し示してくれた方へ行くと、ギャーギャーと言い争いをしていた。
「だ〜か〜ら〜、違うっす!この曲はジャズがあっていいんすよ!」
「ちげぇよ、シンプルにリズムが良いだけだろ。こういう曲はパワフル系ダンスが合うんだよ」
「落ちつてくださいぃ…ふ、ふたりとも、どっちでも、良いですからぁ…」
言い争いをしているのは、憐と樋坂だ。
そんな二人を止めながら、ヒンヒン泣いているのは光希だ。
(何をしてるんだろう)
陶揮がその様子を仲いいな…と見守っていると光希が陶揮を見つけ、必死に目で訴えてきた。
光希は涙目でもう今にも泣きそうだ。
「あの…」
ぎゃいぎゃいわーわーとうるさく言い争いをしている樋坂達へ足を向ける陶揮。
「「何⁉」」
「おぉ…」
二人は睨みを利かすようにぐりんと陶揮の方を見た。
(すっごい迫力…)
そんな二人に負けじとにこりと陶揮はニコリとぎこちない笑みで微笑んだ。
「仲良く、しましょう?」
「「…」」
ぎこちなく言えば二人の言い争いは止まり、光希は涙を流しながら「陶揮さん、神ですぅぅ…!!」と陶揮を崇め奉っていた。
「じゃ、気を取り直して、第3グループとしてよろしくな」
「っす‼」
「よろしく、お願い、しまふ…また噛んだぁぁぁ…」
「…よろしく??」
第3グループのメンバーは全四人、樋坂、憐、光希、陶揮だ。
「…で、さっき憐くんと樋坂さんは何で言い争いをしていたんです?」
「そう!それっすよ‼ちょっとこの曲聞いて下さい!!」
「え⁉」
いきなり憐にイヤホンを押し付けられ、とりあえず聞いてみた。
「…すごい曲ですね。ポップ感もありながらジャズもはいってます。…さながら、パワフル系も合いそうです。不思議ですね」
「一回聞いただけでわかっちゃうんだ…やっぱ天才作曲家は違うわ」
「です、ね…僕は何回聞いても一ミリもわからなかったのに…」
「さすがっすね!陶揮はやっぱ正義っすよ!」
フフンっと樋坂にマウントを取るように憐はにやりと不敵に笑った。
そしてムッとしてそっぽを向いた樋坂をよそに憐は仕切るようにパンっと手を叩いた。
「よしっ、ん〜じゃ〜練習しますっすか!課題曲はこれっすよ!」
またスマホとイヤホンを次は光希と陶揮の二人に押し付けてきた。
「俺と樋坂はもう聞いたっすから、二人でそのイヤホンで聞いてほしいっす」
「はあ…。あ、じゃあ…」
憐に言われ、光希にイヤホンの片方を渡そうとすると、肩がビクッと揺れ逃げるように部屋の端っこへ行った。
そして、頭を抱えぶつぶつとなにかを言い始めた。
「ほえっ⁉ぼ、僕と、陶揮さんが相合いイヤホンっです⁉む、無理ですぅぅぅ、そ、そんな…こ、恋人の、て、鉄板行為を…っっうぅ…」
そんな光希に少々引いてしまう陶揮。
しどろもどろになりながら憐に助けを求める。
「あの…光希さんは、何を…」
「いつものことっす。いちいち気にしてたら身が持たないっすよ」
「俺はほっとくことを進言するぜ。気にしたら終わりだ…ってかおい憐!俺のガム食うな、残してたのに‼」
ギャーギャーと相変わらずうるさい憐と樋坂をほっておいて陶揮は光希にイヤホンを渡した。
「…いい歌だね、タイプ的にはヒップホップだね。うん、歌うの楽しみだな。ね?」
「…そ…そうで、すね…うぅ、近いぃぃぃぃ…」
ボソボソと悲鳴が聞こえた気がしたが、樋坂の進言に従うことにした。
「課題曲とかあるんですね。…オーディションみたい」
「そうっすね。オーディション番組で使われることもあるっすね。そういやぁ陶揮の出てたオーディションでもチーム戦あったっすよね?」
「ああ…あれかぁ」
そう。
あのオーディションでも、一応チーム戦はあった。
(あのときはメインボーカル晃介だったしな…俺はほぼなにもしなかったに等しいし…)
陶揮はやはり、ダンスが苦手で晃介が比較的ダンスをなしにしてくれたのもいい思い出だ。
「と〜き?どうしたんっすか?上の空っすよ?」
「あ、ううん。何にもない。ところでこれ、誰が振り付けするの?」
心配してくれた優しい憐に笑いかけ、ふと疑問を口ずさむ。
「それはっす…うちのチームには強者がいるから大丈夫っす!その名は…じゃん!光希くんっす‼」
「ふぇぇ⁉ぼ、僕なんかが、ふ、振り付けなんて恐れが増しいですぅぅっぅうぅ…」
「それにっす、うちにはダンスの世界大会で優勝経験持ちの樋坂がいるから大丈夫っす。何なら行ったら、俺はダンスできないっす」
「え?」
追加されてきたびっくり発言だが、なぜ憐がダンスができないことになっているのだろうか。
「周りの人がうますぎて、俺が霞むんっすよお‼‼特に!ほらSNOW・SNOWってダンスメインなんすけど…周りがうまいんっすよ!ほんとダンスか歌かうまいならどっちかにしてほしいっすよ‼」
拳を握りながら悔しい思い出を語る憐。
確かに、この学園に入る時学園出身のアイドルはきちんと予習してきた。
その中にSNOW・SNOWもあって、確かにダンスがものすごい魅力を放っているグループだった。
「ってことなんで、俺はVocal行くっす。陶揮に歌上手くなる方法教えてもらうっすから。ダンスでこれだけ任されてるから、流石に歌ではこれ以上負けたくないっすよ‼‼」
「ええ⁉あ、自分教える感じですか、これ⁉」


