心臓が跳ね上がる。
慌てて手の甲で目元を拭って顔を上げると、そこに立っていたのは、白いユニフォームの首元をパタパタとあおぎながら、首筋の汗を陽光に輝かせている東郷律だった。
同じ学年でクラスは違うけれど、私の隣の家に住む、幼馴染。
そして、サッカー部のエース。
涼しげで端正な目元に、すっと通った鼻筋。
学校中の女子から密かに憧れを寄せられている律は、ピッチの上では常にクールで圧倒的な存在感を放っている。
けれど、私の前でだけは、昔から変わらない、どこか間の抜けた等身大の姿を見せてくれる。
「律……。そっちこそ、練習は?」
「いやー、ちょっとあまりにも暑すぎて、屋内に避難」
律は屈託なくカラカラと笑いながら、私から一歩離れた床に、どさりと座り込んだ。
座る時にふいについた左手。
その手の甲には、黒い泥汚れがこびりついている。
天才エース。
誰もが彼をそう呼ぶ。
だけど、誰よりも居残ってグラウンドを走り回っている律の姿を、私は音楽室の窓からずっと見てきた。
「夏は始まったばかりだっていうのに、暑すぎだろ。こんなんで8月とかどうすんだよ。俺、道路の上で干からびて死んでるミミズみたいになるんじゃね?」
「あはは、ミミズって何それ。いつもあんなに走ってるクセに」
「いや、今日の暑さは次元が違うって。やっべー、水筒持ってくればよかった。なぁ、あおば。俺、このまま本当に干からびて死んじゃ……」
首の座っていない赤ちゃんのように、ユラユラと壁に頭を預けて、隣に座る私を力なく見つめる律。
その長い睫毛が、夕暮れの西日を浴びて綺麗な影を作っている。
