「白波、今のところ高音ぶら下がってる。……もう一回、頭から」
音楽室の生ぬるい空気を切り裂くように、顧問の乾いた声が響いた。
トランペット・ファーストの席に座る私に、セカンド、サードパートの部員たちの視線がチクリと突き刺さる。
言葉にはならない、けれど確実に温度を持ったその視線が、制服の白シャツ越しに嫌な汗をにじませた。
鹿児島、7月初旬。
つい一昨日、気象庁から例年より5日早い梅雨明けが発表されたばかりだった。
本格的な夏の太陽が容赦なく照りつける放課後の校舎。
窓の外には、この鹿児島という土地の象徴である桜島が、どっしりと重苦しく鎮座している。
今日の桜島は機嫌が悪い。
山頂から、薄い灰色の噴煙がうねるように立ち上り、気流に乗ってこの学区の空をうっすらと濁らせていた。
梅雨が明けたというのに、空気はどこか埃っぽく、窓を開ければぬるい湿気と、喉をわずかにチクチクと刺激する火山灰の気配が忍び寄ってくる。
アスファルトに落ちた灰が陽炎に揺れ、街全体が巨大な温室の中に閉じ込められたかのような閉塞感に満ちていた。
音楽室は、一応は冷房が動いているはずなのに、数十人の部員たちの熱気と、コンクールを前にした重苦しいプレッシャーのせいで、空気は淀んで熱を帯びている。
黒板の横に掛けられている、部員手作りの日めくりカレンダーが、その重さを何十倍にも膨らませていた。
『県大会まで、あと18日!!』
太い黒のマジックで大きく書かれたその数字を見るたびに、見えない誰かに心臓を直接掴まれたように胸が苦しくなる。
