桃色のユリと青いバラ



 とはいえ、友梨佳はこの「つながりちゃっと」を好きで使っていた。高校1年生の冬ごろ、ちょうど部活をやめて暇になった頃に使い始めた。始めこそ、手探りでいろいろな機能を使っていたが、気づけば、暇な時にはアイコンをタップして「つながりちゃっと」を開き、誰かと他愛もない会話をしていた。話すこと自体は嫌いではなかった。時には趣味の会話をして、時には学校の話をして、そんなふうに過ごしていた。

 この日も、友梨佳はベッドに寝そべりながら、「つながりちゃっと」のアプリをひらいていた。匿名でのチャットの場合でも、気に入ったチャットがあれば、保存しておける。それを時々見返して、また話したいなと思うことがあった。

『The rain好きなんですか?そのバンドめっちゃいいですよね!』
 バンドの話をしていた時のチャットだ。どこの誰だったかはわからないけど、すごく熱を持って応援している人だった。何度もライブに行ったことがあったと言っていた。グッズもたくさん持っていたそうだ。

『三角比って難しいですよね。でも、丁寧に手順を追って理解していけば、わかりやすく処理できますよ。』
 これは、理系の大学生と名乗る人と話した時のチャットだった。この時は、数学の授業が本当にわからなくて、ダメもとで教えてくれないか頼んだのだ。すると、すごく丁寧に教えてくれた。こういう、誰かに優しく勉強を教えられる人になってみたいと思ったのと同時に、きっと自分は理系で勉強を続けていくことは無理なのだろう、そんな風に感じた記憶がよみがえる。

 ただ、この「つながりちゃっと」も一回限りの会話を繰り返すことがほとんどだった。タイムラインを眺めていると、時々、ここで彼氏ができたとか、何年もつながっている友達がいるんです、という投稿を見ることがある。
(こんなの、都市伝説でしょ。そんな人そうそういないよ。)

 そんなことを内心思っていた。リアルな環境でさえ、友達をつくることが得意じゃない。まして、匿名から始められるチャットで何日も、何カ月も、話し続けられる人なんていたら、それはきっと運命の人だ。