桃色のユリと青いバラ



 とはいえ、入学してから待っていた高校の勉強というのは一筋縄ではいかなかった。内容が高度である上に、進学校に特有の授業の速さ。毎日目まぐるしいくらいに授業は進み、次々と新しい知識が自分に降りかかってくる。
「ここは点と直線の距離をもとめなければならないから、どうすればいいか考えて見なさい。」
「関係代名詞のうち、どれを使うのかは、前の語句、すなわち先行詞によって決まりますから、よく確認するように。」
「古文単語『むげなり』の意味は、漢字で覚えるのが大事です。しっかりと復習しておきましょうね。」

 うまく咀嚼しなければ、すべて吐き出しそうになってしまうくらい、たくさんの情報が頭の中に押し寄せる。その環境を自由にたゆたうことのできる生徒がほとんどだったが、少なくとも、友梨佳にはできなかった。それゆえの孤独感もあったのだろう。周囲のクラスメイトができていることが自分にはできない。その事実が胸の痛みを増幅させていた。

 毎日授業が終われば、基本的には家に帰っている。高校1年生の頃は部活動にも所属していた。毎日会ったわけではなかったが、所属していた合唱部の活動はとても活気があり、部活動がある日は午後7時までは部活だった。
当然、部活から帰ってくれば勉強をしなければならなかったが、慣れない高校という環境とハードな部活動が同時に押し寄せ、制服のままソファーで寝てしまうこともたくさんあった。
「友梨佳、スカートのままでそんなところに寝転ばないの。女の子なのにはしたないでしょう。せめて着替えてからゆっくりしなさい。」
「友梨佳、勉強はしたのか。中学生の頃から言ってきてるだろ。毎日の復習が重なってくると、学力が伸びてくるんだから。」

 母親は大抵、女子である自分がだらしないことをしていることを怒り、父親は大抵、勉強に手を付けられていない自分を見かねて、またアドバイスをしてくるのだ。特段、この環境に対して不満があって、この家から飛び出してやる、なんて考えられたらむしろいいのかもしれない。少なくとも、そんなことを考える心の余裕はなかった。