桃色のユリと青いバラ



 「はやく、帰ろう。もう部活には入ってないんだから。」
 独り言をつぶやき、自転車をこぎ始める。今日も特に何か用事があるわけではない。ただ、もうテストまであと二週間程度だ。勉強をしなければいけないんだと自分に強く言い聞かせた。

 朝の時間に比べれば、まだ人は少なかった。時間もまだ16時にもなっていないころだ。当然、会社員は仕事をしている時間だし、中学生や高校生の多くは部活動に励んでいる時間だった。そんな道を使って帰るのだから、学校に向かうときよりもすいすいと問折れてしまう。どこか嬉しい気持ちと、どこかさみしい気持ちが入り混じっていた。
 
 友梨佳が帰宅しても、基本的にはまだ誰もいないことの方が多かった。両親は共に働いていて、帰宅するのは二人とも19時を過ぎることがほとんどだった。
「ただいま。帰って来たけど誰かいる?」

 当然返事はなかった。手を洗い、自分の部屋に荷物を放り投げる。母親が見たら、また怒るんだろうななんてことを考えながらも、ついつい癖でそういう行動をとってしまう。冷蔵庫を開けてお茶を飲んだら、自分の部屋に戻って部屋義に着替えた。Tシャツにショートパンツ。誰かに見られることのない環境では動きやすい服装が一番だった。

(試験近いし、勉強しなきゃね。)

 カバンから必要な道具を取り出し、机に向かう。スマホを見たい気持ちをぐっと抑えながら、友梨佳は足早に机に向かう。今日は数学だ。特に苦手な数学の参考書を開くだけでも、ため息が出てしまう。

 一人で勉強をする時間。学校にいる時間とは対照的で、とても静かでゆっくりとした時間が流れている。そこで向き合うのは自分自身だ。周りの世界を置き去りにして、自分のやるべきことに集中する。それが友梨佳の一人で過ごす時間だった。