北方の領地に住む者で、三代の当主を知らぬ者等いない。初代は不安定な地に安寧を齎す為に起ち、野党を駆逐し領地を広げ安心と安定を約束した。二代目は産業と農地の改革に乗り出し、生活を豊かにした。三代目は―――――
桔梗も同じく、幼い頃から初代と現在の二代目領主の話を聞かされて育った。特に、外政を任されていた小山家にとって、領主の功績と能力は重要である。その為、伝えられた内容も噂話程度ではなく、深くその裏側までも伝えられる。
その中で、桔梗が最も興味を示したのは初代の話だ。生まれ以っての性分と才能は、合戦でより発揮されるものだった。桔梗本人の希望もあり、幼い頃から木刀を振り、書き写された破損した兵法書を読み漁った。七歳を過ぎた頃には、刀の技量は大人と同等かそれ以上、
数百年前に唐から伝来した兵法書の内容については、つらつらと暗唱するまでになった。
いつか戦場で戦いたい。
その思いは強くなる一方であったが、父親には「女子如きが」と木刀を取り上げられ、母親には野蛮だと罵られ、兄や弟からは一族の恥だと蔑まれた。
ただ、戦場に立ちたかっただけだった。
領民の為に敵を討ち、生活を守りたかった。
策を巡らし、侵入者を撃退し、領地を守りたかった。
それに似合うだけの鍛錬をした。
誰にも負けない策謀も学んだ。
必死に努力をした。それなのに!!
―――――誰も認めてはくれなかった。
それでも、諦め切れなくて、毎日木刀を握った。
誰も起きていない早朝から、誰かが呼びに来るまで必死に振り続けた。
戦碁で兄と父を打ち負かした。
しかし、誰も認めてはくれはなかった。
「道は長くて険しい。それでも、その先には必ず光明が在る。継続こそが力だ。今は無理だとしても、我が代になれば必ず戦場に立たせよう。その時は、その力を存分に発揮してもらいたい」
汗まみれになって肩で息をしている桔梗に、偶然通り掛った彦十郎が掛けた言葉である。
桔梗が一番欲しかった言葉を、彦十郎が与えた。
気紛れに掛けた言葉だったのかも知れない。
今はもう、彦十郎自身は忘れてしまっているかも知れない。
それでも、桔梗は救われた。
心が解き放たれた。
どれほど感謝しても言い尽くせない思いがある。
その後、桔梗は城内に流れる噂を耳にする。
彦十郎が先々代と先代には遠く及ばない。いくら刀を振ろうが、いくら勤勉に努力しようが見劣りする。ただの凡人である、と。
それならば、自身が支えれば良い事だと。補える部分は自ら実行しようと、桔梗は天に誓った。
それから七年と少し後、父より桔梗の元に縁談が舞い込む。
「殿と結婚してもらう。異論は許さぬ。語りがけの婚姻になるかも知れないが、御前以外に適任者がいなのだ」
父の言葉は渡りに舟だった。幾年月ずっと心に秘めてきた約束を実現に移せる時が来たのだ。
逸る気持ちを抑え、ずっと心待ちにしていた彦十郎との面談を果たす。「契約結婚」という言葉は心に響くものの、それを圧し殺して続きを口にする。あの時の誓いを実現させる。契約結婚の条件。
それは―――――
「私を戦場に立たせて下さい」
桔梗も同じく、幼い頃から初代と現在の二代目領主の話を聞かされて育った。特に、外政を任されていた小山家にとって、領主の功績と能力は重要である。その為、伝えられた内容も噂話程度ではなく、深くその裏側までも伝えられる。
その中で、桔梗が最も興味を示したのは初代の話だ。生まれ以っての性分と才能は、合戦でより発揮されるものだった。桔梗本人の希望もあり、幼い頃から木刀を振り、書き写された破損した兵法書を読み漁った。七歳を過ぎた頃には、刀の技量は大人と同等かそれ以上、
数百年前に唐から伝来した兵法書の内容については、つらつらと暗唱するまでになった。
いつか戦場で戦いたい。
その思いは強くなる一方であったが、父親には「女子如きが」と木刀を取り上げられ、母親には野蛮だと罵られ、兄や弟からは一族の恥だと蔑まれた。
ただ、戦場に立ちたかっただけだった。
領民の為に敵を討ち、生活を守りたかった。
策を巡らし、侵入者を撃退し、領地を守りたかった。
それに似合うだけの鍛錬をした。
誰にも負けない策謀も学んだ。
必死に努力をした。それなのに!!
―――――誰も認めてはくれなかった。
それでも、諦め切れなくて、毎日木刀を握った。
誰も起きていない早朝から、誰かが呼びに来るまで必死に振り続けた。
戦碁で兄と父を打ち負かした。
しかし、誰も認めてはくれはなかった。
「道は長くて険しい。それでも、その先には必ず光明が在る。継続こそが力だ。今は無理だとしても、我が代になれば必ず戦場に立たせよう。その時は、その力を存分に発揮してもらいたい」
汗まみれになって肩で息をしている桔梗に、偶然通り掛った彦十郎が掛けた言葉である。
桔梗が一番欲しかった言葉を、彦十郎が与えた。
気紛れに掛けた言葉だったのかも知れない。
今はもう、彦十郎自身は忘れてしまっているかも知れない。
それでも、桔梗は救われた。
心が解き放たれた。
どれほど感謝しても言い尽くせない思いがある。
その後、桔梗は城内に流れる噂を耳にする。
彦十郎が先々代と先代には遠く及ばない。いくら刀を振ろうが、いくら勤勉に努力しようが見劣りする。ただの凡人である、と。
それならば、自身が支えれば良い事だと。補える部分は自ら実行しようと、桔梗は天に誓った。
それから七年と少し後、父より桔梗の元に縁談が舞い込む。
「殿と結婚してもらう。異論は許さぬ。語りがけの婚姻になるかも知れないが、御前以外に適任者がいなのだ」
父の言葉は渡りに舟だった。幾年月ずっと心に秘めてきた約束を実現に移せる時が来たのだ。
逸る気持ちを抑え、ずっと心待ちにしていた彦十郎との面談を果たす。「契約結婚」という言葉は心に響くものの、それを圧し殺して続きを口にする。あの時の誓いを実現させる。契約結婚の条件。
それは―――――
「私を戦場に立たせて下さい」



