戦場の花は散らず、すべてを魅了する。

 全兵力を揃えた為、兵糧等の準備に五日必要であった。
 ようやく出陣の準備が整い、いざ出陣とういう段になって早馬が到着した。

「桔梗様が夜襲を仕掛け、高倉軍を壊走させる事に成功。高倉軍は這々の体で自領に逃げ込みました。桔梗様はそのまま佐山氏が敗退した時の為に後詰めをするとの事です」

 その報告を聞き、周囲から感嘆の声が漏れる。
 彦十郎も桔梗の無事を確認し、溜め込んでいた息を吐いた。
 これが事実であれば、もう兵糧を消費してまで現地に出向く必要は無い。北方領に穀物の余剰は無いのだ。それが分かっているからこそ、桔梗も小人数での出兵に拘るのだろう。

 既に出発の号令を下すのみではあるが、彦十郎は思案する。今回徴収した五百の兵を引き連れて出陣したとしても、戦場に到着する頃には決着している可能性が高い。何より、高倉軍を打ち破った事で当初の目的は達成されているのだ。
 すると、そこに、再び早馬が駆け込んで来た。慌てて下馬した兵が転がる様にして彦十郎の前で片膝を突いた。

「殿!!野田氏が攻めて参りました!!」
「何!?野田が?」

 野田氏は北方氏や周辺の小規模の領主とは違い、万単位の兵を指揮する本物の戦国大名である。この地域は主戦場となっている要衝とは違い、領地にした所で大して利用価値が無い。その為、中央や要衝で覇権を争う大名に見逃されてきた。しかし、後顧の憂いを無くす為、平定する事を目的として五千を超える兵力で攻め込んで来たのだ。

「何処からだ?」
 彦十郎の端的な問いに対し、兵が素早く答える。
「高倉氏の領地を通過し、佐山へと攻め込む構えを見せています。野田は三勢力の情報を察知した様です」
 彦十郎は一度天を仰いだ後、全軍に支持を出した。

「出陣!!」



 ―――――野田軍来たる!!
 の急報は、当然の事ながら桔梗の元にも届いていた。

「やはり、攻め込んで来るか」
 急報を耳にした桔梗は、高倉領の方向を睨んで唸った。この状況に陥る事は、ある程度想定していた。とはいえ、最悪の(・・・)予想である。野田氏にとって四氏が小競り合いを繰り返している土地は、犠牲を払ってまでどうしても手中に収めたい場所ではない。都に通じる道が通過している訳でもなく、都に近い中央付近の要衝でもない。その為、長らく放置されてきた。しかし、存在が鬱陶しい状況である事は間違いない。佐山、高倉、小川の三氏が潰し合いをしてくれるのであれば、それを座して眺めている理由は無い。

 野田軍の兵数は五千を超えているという。どんな奇跡があろうとも、たかが二百の兵では勝ち目が無い。せめて二千、いや、せめて千もあれば、危険を伴ってもいくらか方法が思い付く。只、今は一先ず、今は直ぐにやらなければならない事がある。

「未だに睨み合ったままの阿呆共に、野田軍に降伏するか、それとも徹底抗戦するのかを決める様に伝えろ」
 桔梗は二人の兵を呼び、直ぐに馬で走らせた。


 指示を出した桔梗は、周囲が見渡せる小高い山に登る。
 勝てないまでも、一泡吹かせたい。そう考えながら、桔梗は地の利が活かせる場所を探す。小人数だからこその戦法がある。しかし、今回は整った装備で身を固めた、戦い慣れた大名の正規軍が相手だ。しかも兵力差は二百対五千。間違い無く全滅する。

 桔梗は十町程離れた位置に隘路がある事に気付いた。狭い場所を進むには、どんな精強な軍勢であろうと必ず一列にならなければならない。
 桔梗はその場所を暫く眺めていたが、やがて、一人で納得して笑みを浮かべた。


 それは、死に場所を決めた者が見せる最後の強がりだったのかも知れない。