治癒の花嫁 〜命を紡ぐ契約結婚〜



 鼻に届く柔らかな味噌の匂い。
 美胡が立ち去ると清雅は本を閉じて隣に置かれたお盆を見た。
 まだ湯気が沸き立つ朝食に、思わずため息が出る。

 自分が眠り続けていた間に、次々と話が進みすぎて理解が追いつかない。いや、理解したく無い。
 幼い頃に母が亡くなってからは父と男二人で過ごしてきた。そんな父は仕事が中心の人で、自分にはあまり興味がないことは幼い清雅も感じ取っていた。

(だからと言って、こちらが寝ている間に勝手に結婚の話を進めるだろうか、普通)

 鼓家を守るためにいずれかは結婚をしなくてはいけないとは思っていたが、あまりにも強引すぎる。それに、自分の妻となるあの娘だって、嫌なら断れば良いのになぜあんなに前のめりに承諾したのか、分からない。
 親に言われて仕方なく嫁いできたなら、本来もっと嫌そうに接するのでないか。それなのに、こんな丁寧に朝食を作り、良いと言っても強引に治癒力を注がれれば、彼女が何をしたいのか分からなかった。
 何か企んでいるのかと少し疑いの目も向けてしまう。

(まぁいい。今は早く治すことだけ考えるとするか。彼女の真意は分からないが、使えるものは使えば良い)

 一人で深く考えても埒が開かない。清雅は頭を振って巡らせていた思考を無理矢理止めた。
 お盆を自分の方に引き寄せ、味噌汁を飲む。

「……上手い」

 久しぶりの出来立ての食事だからだろうか。あたたかい味噌汁が身体に染み渡り、ぽかぽかと体温を上げる。

 涼子はこの家の家事全般をしてくれるが、出勤が早い清雅は朝は会わずにして家を出てしまう。朝食は前夜の作り置きを自分であたためて食べるか、食べないか。出来立ての朝食は久しぶりで、その美味しさに箸が進んだ。

 遠くから微かに人の笑い声がした。おそらく涼子が来て、美胡と話しているのだろう。

(本当に不思議な娘だな)

 鈴が転がるようにころころと笑う明るい笑い声は、清雅の心を落ち着ける耳触りの良い音だった、