翌日、美胡は朝早くから炊事場に立っていた。
菜花家でも日が昇る前に起きて家族の朝食を使っていたから早起きも料理も苦では無い。しかし、この日の美胡はどこかそわそわしていた。
(この味付けで大丈夫かしら)
鍋の味噌汁を一口飲みながら首を傾げる。豆腐と油揚げとネギという素朴な具材で作られた味噌汁。
涼子は朝食後に来るので、今までも自分の朝食は自分で用意していたが、昨夜やっと目を覚ました清雅にも振る舞うとなると少し緊張した。
手際良く朝食を作り終えた美胡はそれらをお盆に並べると、いそいそと清雅の部屋へ向かった。
「失礼致します。清雅さま、美胡です」
「入れ」
襖の外から声をかけると短い返事が聞こえた。どうやら清雅の目覚めは早いらしい。襖を開けると布団の上に座り、本を手にする姿が目に入った。
「朝食をお持ち致しました。あの、お身体の方は……」
「まだ痛むがいつまでも寝てるわけにはいかない。身体もだいぶ鈍っているしな」
「そうですか」
一切こちらを見ようとしないし、言い方はぶっきらぼうだが、きちんと返答はしてくれる。そのことに少し安堵した。
「お口に合えば良いのですが」
お盆を清雅のそばに置くと、匂いにつられて顔をお盆に向けた。
「後で食べるから置いていて良い」
「承知しました。あの」
「まだ何かあるのか?」
立て続けに話しかける美胡にやや面倒くさそうに眉間に皺が寄った。美胡は手を差し出す。
「まだお身体は本調子ではありませんので、引き続き治癒力を注がせていただきたいのですが」
「目が覚めたし、もう必要ない」
「確かに目は覚めましたが、まだお身体は動かしづらいはずです」
「大丈夫だと言っているだろう」
「いえ……! 私にも責任がありますから」
美胡はきっぱりというと、強引に清雅の手を取った。清雅の大きな手を両手で包み込み、自分の方へ引き寄せる。
回復を願いながら手を握っていると、ぽかぽかとあたたかくなった。
「これで大丈夫です。また夜に来ますので」
少々強引かもしれないが、そうでもしないと治癒力を注がせてくれなさそうだ。
こんな中途半端な状態で治療が終わってしまっては心にもやがかかる。それに、いつまでも時間をかけていられないのだから。
「朝食、ゆっくり召し上がってくださいね」
圧倒されている清雅に、にこりと微笑むと美胡は部屋を後にした。


