涼子に呼ばれた美胡は屋敷の一室で再び清一郎と会うことになった。
なぜかそこには父もいて一気に美胡の緊張が高まる。
相変わらず無の表情で高価そうな椅子に腰掛ける清一郎の圧に縮こまりながら、美胡は清雅の様子と対応の仕方を説明した。
「……すぐには治らないか」
「はい。清雅さまの全身は、かなり傷付いていらっしゃいますし、異形の力が入り込んでいる可能性もあります。ですので、すぐに完治させるのは難しいかと思われます」
「それは困るな。あいつは隊長としての務めがあるから早めに復帰してもらいたいんだが」
清一郎はため息混じりに呟いた。
「一日一回、もしくは二回、治癒力を注がせて頂ければ治りは早くなると思います」
話を聞いた清一郎は一つ頷くと父の顔を見た。
「菜花殿、私に一つ案があるのだが」
「なんでしょう?」
「この娘を息子の嫁として迎えたいと言ったらそちらはどうだろうか? もちろん結納金や他の金は弾む」
「……よ、め?」
清一郎のとんでもない発言に美胡は一瞬呼吸の仕方を忘れかけた。口元に手を当て、目を見開く。
「清雅も良い歳だが、なかなか嫁を迎えようとしなくて困っていたのもある。娘に治してもらうために毎日通わせるのも大変だろう。なら、嫁として鼓家に入り、清雅を支えてもらう。互いに不利益な話ではないだろう?」
「……確かに、そうですな。ただ、こんな娘でよろしいんでしょうか? 器量もあまり良くない娘ですが」
「構わん。清雅の怪我さえ治れば良い。もし不都合があれば完治したら離婚でもなんでもすれば良い」
当の本人たちの意見を聞くこともなく、話は進んでいった。ここで話を聞いていた美胡はまだ良い。しかし、寝たままの清雅は良い思いをしないだろう。自分が寝ている間に勝手に婚姻が結ばれているのだから。
「あ、あのっ……」
美胡は絞り出すように声を上げた。二人の視線が美胡に突き刺さる。
「あの、清雅さまはよろしいのでしょうか? 恋人がいたりとか……」
「それはない。だが、一つだけ忠告しておこう。あいつは部隊の隊長で仕事中心の人間だ。あいつの妻になったからと夫婦らしいことは望まない方が良い。これはあくまでも契約的な婚姻だからな。今後の清雅のことを考えれば、治癒力を持つ君がそばにいてくれれば安心だ。だが、まあ今回の怪我が治ればあとは契約を取り消し離婚しても構わない。あとは二人で決めれば良い」
「美胡、こんなお前を嫁に迎えてくれるという鼓さまに感謝するんだぞ」
途端に父が優しくなった気がした。邪魔者だった美胡がいなくなり、反対に金が入る。父が喜ばない訳がない。
契約結婚。
清雅の怪我を治すために結ばれた本人たちの意思とは関係ない、愛のない婚姻。
生家にいても良い扱いをされないし、都合よく扱われるだけ。
嫁いだ先の鼓家でも同じ扱いをされるかもしれないし、力を使い果たし、美胡自身が倒れる可能性だってある。
でも、それでも私の力が誰かの役に立つのなら——
美胡は唇を結び、手を硬く握った。
「不束者ですが、よろしくお願い致します」
美胡の鼓家での生活はこうして静かに幕を開けた。


