あれから、美胡が体調を崩すことは無くなった。
後からわかったことだが、あの日倒した異形は昔、菜花家の治癒力を奪おうとした際に寿命が縮む呪いをかけていたらしい。清雅が退治したおかげでその呪いも解け、今では治癒力を使っても苦しくなることはなくなった。
「清雅さま、お呼びでしょうか?」
「あぁ、そこに座ってくれ」
向かい合わせに座った美胡の前に、清雅は紙を広げた。
「これは……」
「結婚の契約書だ」
「そんなもの書きましたね」
清雅が目を覚ました後、二人は契約書を書いていた。あくまで契約的な結婚で金を渡す代わりに治療をする。完治したら即治離婚をするという文面が載った紙。
契約書の内容を目で追っていた美胡は、今ここに呼びだされた理由を察した。
(そっか…… 清雅さまも良くなられたし、契約はおしまいということね)
異形を討伐してからは完全に傷が癒えるまで治癒力を注いでいた。しかし、完治した今、もう美胡の役目は終わったのだ。
契約的な婚姻だから、終わりが来ることは理解していた。互いの利益が満たされればそれで良いと思っていた。
しかし、少し、いや、とても寂しい。
もっとここに、清雅の隣にいたいと願ってしまう自分がいた。
(でも契約だもの。仕方ないわよね)
美胡は無理矢理笑みを作ると、清雅に頭を下げた。
「清雅さま、大変お世話になりました。傷も完治しましたし、私はこれで——」
「待て」
清雅は契約書を持つと勢いよく破いた。突然の行動に美胡は目を丸くする。
「初めにした契約は確かに果たされた」
「……はい」
「美胡、新しい契約をしてくれないか?」
「え?」
清雅は照れ隠しのように小さく笑いながら美胡の手を握った。
「次の契約は期限は設けないし、怪我の治癒も求めない」
「……?」
「ずっと互いの隣にいる、という契約を交わさないか?」
「それって……」
「美胡、これから先ずっと私の隣にいてほしい」
「清雅さま……」
「美胡、愛している」
真っ直ぐに愛を告げられて、美胡の心臓が速くなった。ほろりと涙が溢れる。
「……泣くほど嫌か?」
ぎょっとする清雅に、美胡は涙を拭いながら首を左右に振った。
「いいえ。とても嬉しいのです。これから先、清雅さまのお隣にいさせてください」
微笑む二人の間に新たに契約が交わされた。
永遠を誓う契約。
それは初めの契約とは違う、甘くて優しい、あたたかなものだった。


