頭や身体が痛い。
美胡はうっすらと目を開けた。
辺りからは何かが燃えた匂いがする。焦げ臭くて熱い匂い。
痛む首をゆっくり横に動かすと、すぐ隣に端正な顔があった。
「清雅……さま?」
清雅は目を閉じ、動かない。頬には擦り傷がついており、名を呼んでも動かなかった。
(何がどうなって……)
美胡はゆっくりと身体を起こし、辺りを見回した。そして絶句する。
一面が炎の海になっており、そこから覗くのは大きな異形だった。異形討伐特殊部隊の隊員と思われる人々が必死の形相で戦っている。その中には、以前会った事のある海堂もいた。
隣に倒れている清雅はうつ伏せのまま動かない。よく見ると、せっかく治った背中に大きな引っ掻き傷のようなものができ、血が流れ出ていた。
「清雅さまっ! 清雅さまっ…… 大丈夫ですか?」
肩を優しく叩いても清雅の目は開かなかった。一気に恐怖が美胡を襲う。
(このまま目を覚まさなかったらどうしましょう…… いや、それは絶対にいや……)
美胡の目から涙が溢れる。
清雅を失うのは怖い。
こんな自分にも優しく接してくれた清雅が死ぬのは嫌だった。
美胡は自分の手を見つめた。
(なんとなく分かる。私の治癒力ももう残りわずか。ここで力を使えば私はきっと……)
力を使い切れば美胡の命はもうないだろう。だが、それでも良い。自分の命よりも救いたい。助けたい。——幸せになって欲しいから。
(……最後に好きな人のお役に立てるなんて、私はとても幸せ者ね)
美胡は左手で清雅の背中を、右手で手に触れた。
そして目を閉じ、手に意識を集中させる。
(お願い…… 清雅さまを、助けて……)
ぽっと手に熱が集まり始めた刹那、美胡の右手に繋がれた清雅の手に力が入った。
「……み、こ。駄目だ」
掠れた声が耳に届き、美胡はゆっくりと目を開いた。清雅と目が合う。
「……力を使うな、美胡」
「何をおっしゃっているのですか? お怪我がひどくなってしまい……」
「お前を失いたくない」
「……!」
清雅は力なく笑った。美胡の目から次から次へと涙が溢れてくる。清雅は傷だらけの手をそっと伸ばし、美胡の頬に触れた。
「……泣くな美胡。私は大丈夫だ。自分を大切にしろ」
血の気を失ってきている手は徐々に冷たくなる。
「いやっ…… 清雅さまっ」
清雅の声がどんどん弱くなる。
「美胡……色々と、感謝している……」
そう呟いた清雅は目を閉じた。
(いやっ…… 駄目……このままでは本当にっ……)
美胡は清雅の傷口に手を当て、強く願った。
(私の命はどうなっても構いません…… お願い、清雅さまを助けてっ……)
美胡の手から治癒力が注がれていく。力が抜けそうになるが、なんとか踏ん張り懸命に注いでいく。
「……お願いっ。清雅さま……! 目を開けて……!」
『ウォォォォォォ』
「美胡さん……! 危ない!!」
力を注ぎ終わり、ガクンと全身の力が抜け切った美胡は微かに音を聞いた。
それは、異形が雄叫びを上げながらこちらに突進してくる音と海堂の叫び声だった。
(あぁ…… 私はもう…… 清雅さまのお役に立てて嬉しいです)
美胡は清雅のことを思いながら、目を閉じ、自分の運命を受け入れた。


