「清雅さま…… 私がやりますからっ……!」
「いいから座っていろ」
最近の清雅は前以上に美胡に関わるようになっていた。
美胡の体調が弱っていることを知ったや否や元気な時にこなそうとしていた家事を率先してやってくれようとしたり、今だって朝食後のお茶を自分と美胡の分二つのお茶を淹れようとしてくれていた。
清雅の気持ちは嬉しいが、ただでさえ忙しい仕事をしている清雅に、余計な手を煩わせてしまっていることが申し訳なくなる。美胡だってずっと具合が悪いわけではないし、自分でできることもあると何度も伝えたが、清雅は手を止めなかった。
「申し訳ございません、ありがとうございます」
差し出された湯呑みを受け取り、美胡は微笑んだ。
「今日は顔色が良さそうだな」
美胡の顔をまじまじと見つめた清雅が柔らかく言う。
「はい、おかげさまで。今日はとても体調が良いのです」
「それは何よりだ」
穏やかな時間、空間。
二人の間に言葉は多くないが、婚約当初に比べて、ゆったりとした心地よいものになっていることは確かだった。
「清雅さま、お願いがあるのですが」
美胡は湯呑みをちゃぶ台に置き改まって清雅を見る。
「なんだ?」
「少しお買い物に行きたいのですが」
「それは構わないが、体調は?」
やや顰めっ面で美胡の顔を覗き込んだり、額に手を当ててくる。美しい顔をグッと近づけられ、見つめられると美胡の体温が上がった。
「いやっ、あの…… 私は元気で……」
「顔が赤いが?」
「こ,これは……」
しどろもどろになりながら清雅から距離を取ろうと試みた。しかし、宝石のような瞳に引き寄せられ動けない。
一人忙しない美胡を見て、清雅の口元が緩んだ。
「あ、あの……」
清雅は戸惑う美胡の頭を撫で,まるで幼子に言い聞かせるように話し出した。
「……悪い。あまりにも可愛くてつい。気をつけて行ってこい」
「ありがとうございます……!」
「くれぐれも気をつけるように」
「はい!」
美胡は大きく頷いた。
今日はすこぶる体調が良い。近頃ずっと家に篭りきりだった為、久しぶりの外出に心が弾む。
この外出が、二人の運命を、美胡の命を大きく動かすことになるとは、この時の美胡はまだ知らなかった。


