清雅は菜花家を訪れていた。
美胡を雑に扱っていたという彼女の生家に行くのは躊躇われたが、菜花家の持つ治癒力の異能を知るためには直接聞く方が早いと判断したからだ。
だが、美胡の父と向かい合って座った途端、来たことを後悔した。
「鼓さまが元気になられたということは——あの娘はもう使い物にならなくなったのでしょうか? それで婚約解消しに?」
平然という美胡の父に清雅は顔を顰めた。実の娘を心配する素振りが一切ない。それどころか半笑いで聞く美胡の父は異様だった。
「……なぜそんなにも美胡にひどいことが言えるのだ?」
美胡の父はきょとんとしていた。その素振り一つ一つが癪に触る。
「酷いも何も普通のことでしょう? 姉は我慢して家のために尽くす。あなた様だってそうではないのですか?」
「だからと言って……!」
「美胡よりも妹の亜胡の方が容姿も気立ても良い。それに異能者は一人いれば十分です。だから美胡は家のために働いてもらっているだけ。何がおかしいのでしょうか?」
「……菜花の異能は使うと命が削られると聞いたが」
これ以上美胡本人のことを聞いても意味がないと悟った清雅は、今日ここにきた目的のみを果たすことにした。
治癒力のことを聞かれた美胡の父は「あぁ」と一つ頷く。
「菜花家では代々そう言われていますね。相手に治癒力を使えば、その異能者の命が少しずつ削られていくと」
「ではなぜ私との婚姻を許した。私の元に嫁ぎ異能を使えば娘の命が危ないとは思わなかったのか!?」
冷静に詰め寄りたかった。しかし、美胡の父から話を聞けば聞くほど怒りが湧いてしまう。
「……別にあの娘の命などどうだって良いのです。妹の亜胡さえいれば良いのですから」
「……は」
「菜花の異能を使うと寿命が縮む話ですが、何故かは分かりません。美胡はもうこちらに関係ないので、婚姻を解消しても戻ってくるなとお伝え下さい」
「……婚姻を解消はしない。美胡は私の元に置いておく。失礼する」
この人に何を聞いても意味がない。ただただ腹が立つだけだ。
胸糞悪いまま清雅は菜花家を後にする。
美胡はあの家で、こんな言葉を何度聞かされてきたのだろう。
想像しただけで胸が締め付けられる。
それなのにいつも明るく振る舞おうとしてくれていたのだ。
(必ず助ける)
昨夜初めて見た弱った姿が思い浮かぶ。
もう、悲しい思いを辛い思いをさせたくない。穏やかに幸せに生きて欲しい。
誰かにそんな感情を抱いたのは初めてだった。


