胸の中で泣き続ける美胡はとてもか弱く見えた。
普段の明るさも強引さも皆無で、小さく震えている姿に、ずっと我慢していたことが伝わり胸が痛む。
(美胡、お前は何に苦しんでいるんだ)
震える背中を撫で続けると徐々に落ち着き、美胡は胸から顔を離した。
「申し訳ございません……」
目は赤くなり、涙声になりながら謝罪をする美胡の肩に優しく手を置き目線を合わせた。
「美胡、お前が一人で苦しみを抱えている姿を見るのは辛い。私たちは夫婦なんだ。手を差し伸べることを許して欲しい。お前は何を隠しているんだ?」
美胡はしばらくの間視線を彷徨わせていた。だが、こちらが真っ直ぐに美胡を見続け頑なに譲らないことがわかると下を向きながらぼそぼそと話し出した。
「……清雅さまは私の持つ治癒力のことはどのくらいご存知ですか?」
「病や怪我を治す菜花家に代々伝わる異能だということくらいだな」
「はい、この力は菜花に伝わる特殊な異能です。ですが、人々の病や怪我を治すためには、代償がいるのです」
「代償……」
「それは、治癒力の異能を使う者の命です」
「……は」
「私の寿命はもうすぐ尽きてしまうでしょう」
清雅は耳を疑った。治癒力を使うためには異能者の命が犠牲になる……だと?
ということは美胡は異形にやられた清雅を治すためにかなりの力を——命を使ったことになるのではないか。
清雅は美胡からゆっくり離れると額に手を当てた。
「私は美胡から命を吸い取ってしまっていたのだな……」
声が出にくい。衝撃から喉が震えて声が出せなかった。
頭に中が真っ白になる。
あの明るさの裏に、こんなに大きな重荷を背負っていたなんて誰が想像しただろう。美胡はたった一人でこの大きすぎる荷物を持っていたというのか。
「すまない、美胡。私のせいでお前が……」
「清雅さま、違います。私は……ずっと生家では我慢を強いられてきました。『姉だから』という理由で。ですが、ここに嫁いでからは、清雅さまも涼子さんも私自身を見てくれ、心配して下さいました」
「……」
「寿命が長くないことはここに来る前からなんとなく気付いておりました。ですので、最後に清雅さまのお役に立てて、穏やかに過ごせて、私はとても幸せです」
目や鼻を赤くして、力無く笑う美胡を見ているだけで、胸が張り裂けそうになった。清雅は再び美胡を胸の中に収める。
「そんなことを言うな。お前が私のそばからいなくなるなど許さない」
「で、ですが、こればかりは……」
「私がなんとかしよう。ありとあらゆる手を使い、お前の命を繋ぎ止められないか方法を探す。だから、美胡はお前自身を大切にしてくれ」
「……どうしてっ。私は清雅さまを治癒する務めを果たさなくてはっ…… 自身のことなどどうだって……」
「契約などどうだって良い。美胡、私にはお前が必要だ」
「私なんて……」
じわりと胸元があたたかくなる。
鼻を啜る音がくぐもって聞こえてきた。
「お前の優しさに私は救われていたんだな……」
美胡が打ち明けてくれた事実が重くのしかかる。
だが、まだ何か手を尽くす方法があるかもしれない。
(死なせない。私が必ず守る)
清雅は美胡の頭を撫でながら、心の中で決意を固めるのだった。


