準備期間を経てついに学校祭当日。各クラスかつてない盛り上がりを見せていた。焼きそばやお化け屋敷、迷路やくじ引きなど普通のお祭りにも引けをとらない出店がたくさんあった。2年3組もメイドカフェ開店に向けて教室の中でファッションショーが行われていた。
「まずは男子の登場だ!」
カーテンが開き、ポーズを決める慎太郎と潤。
「おぉー似合う!慎太郎さすが!」
「潤は何着てもイケメンになるからムカつくな」
潤がメイド姿で登場するとクラスの女子からは黄色い歓声が上がっていた。
「そしてお待ちかね!光輝!」
猫耳をつけたスカート姿の坊主メイドが姿を現すと爆笑が巻き起こった。
「あはは!すね毛が汚ねぇ!」
「え?!そこ?!もっと注目するとこあるだろ!」
「いや、無い」
「おぉぉぉいそんな悲しいこと言うなよ」
「さっ!いよいよ女子のお出ましだぞー!」
カーテンが開きまず最初に登場したのは明音。
さらっとした立ち姿にロングスカートを身につけていた。
「おぉメイドカフェというより王族のメイドって感じだ。さすがかっこいい」
可愛いというよりはかっこいいという声が多かった。
「さぁそして次は遥花!」
光輝と全く同じ格好で登場する遥花。
「なんであんたと同じ格好なのよ!パクってんじゃないわよ!」
「なんで俺がキレられるんだよ!見てないんだからたまたまだろ?そっちがパクったんじゃねぇのか?俺のことが好きすぎて」
遥花にお腹を殴られ、うずくまる光輝。
「そうだ…もう逆らわないようにしよう…みんなも気をつけろ…」
そのまま地面に横たわる。そんな光輝を無視して最後のメイドが登場する。
「さぁそして最後は!咲希!」
カーテンが開くとそこには女神のようなメイドが立っていた。女子からは歓声が上がり、男子は全員が昇天したように言葉を失っていた。
「高校生でここまで可愛くなることあんの?!」
すごいすごいとあっという間に人だかりが出来ていた。
「よし、全員揃ったなーこのクラスでやる最初で最後の学校祭。絶対1位になって、1000円手に入れるぞー!」
「おぉー!!!」
2年3組の学校祭がついに始まる。


 9時になりチャイムが鳴る。それと同時に学校の近所に住んでいる小さい子や他校の生徒などが大量になだれ込んできた。2年3組にも続々とお客さんが入ってきていた。
「いらっしゃいませー!オムライス美味しいですよー!メイドさんと写真撮影もできますよ!どうですかー?」
教室の前で遥花が客引きを行う。
「あ、お兄さんたち!メイドカフェどうですか?!」
遥花が若い男性2人に圧力をかける。
「あ、あぁはい。じゃあ入ります…」
「まいどぉ!」
「あいつの客引きメイドカフェと言うよりラーメン屋じゃね?」
「メイドカフェでまいどぉ!なんて聞いたことないけど」
遥花は可愛さを捨て圧力をかけて客引きを行っていた。
「このオムライス運んどいて〜」
教室の中では咲希がホール担当として配膳を行っていた。男女問わずお客さん全員が咲希に見惚れていた。
メイドカフェのメニューはオムライスや特別ジュースなどいろんな種類があったが、中でも人気だったのは咲希とのツーショット写真だった。
「咲希ー!写真だよー!」
「あ、うん!わかった!」
顔を赤くして恥ずかしがりながらもメイドの格好をするうぶさや単純にルックスで群を抜いていることなど人気にならない理由はなかった。
しかしそれは弊害を生むこともあった。
「ねぇそこのメイドさん!この後俺らと一緒に回らない?なんでも奢ってあげるよ?」
髪を金色に染め、ピアスを開けていかにもな大学生2人が咲希をナンパなしにやってくる。
「あ、いや…」
咲希はうまく断ることができずその場でたじろいでしまう。
「ねぇ良いじゃん行こうよ」
1人が咲希の腕を掴み無理やり連れて行こうとする。
「あの、うち写真撮影はやってますけど、そういうナンパは受け付けてないので。あと触れるの禁止って書いてますよね?」
慎太郎が間に入る。
「なんだてめぇ」
大学生はガンを飛ばしながら距離を詰める。
「ぃよいしょー!」
慎太郎の目の前から突然大学生が消えた。
絡まれている様子を教室から見ていた遥花が飛んできて大学生の1人を張り手でなぎ倒していた。
「え…」
そして間髪入れずにもう1人にも襲いかかる。
「うちの咲希に何してくれとんじゃこらぁぁ!!」
この世のものとは思えないバケモノの逆襲に大学生2人は走って逃げていった。
「ごめんね咲希!一緒にいればよかった!次からは私が守るからね!」
「あ、うん。ありがとう…」
助けてもらった咲希もさすがに戸惑っていた。
「あの…慎太郎くんもありがとう」
「うん。気をつけてね」

 色々あったが学校祭は順調に進んでいる。
咲希とのツーショットのおかげで2年3組は午前中を終わった時点で僅差ではあるが学校内でトップの成績を叩き出していた。
「これ行けるぞ!1000円もらえる!午後も頑張れば余裕だ!」
「メイドさんたちは各自休憩取ってよー!」
「じゃあ私たちも休憩に入ろう」
「あ、じゃあ私も…」
「咲希!写真!」
「あ…」
「あぁ。咲希はしょうがないかもね。休憩なしだな」
午前中から休憩なしのぶっ通しで働いてる咲希。休もうとしても写真撮影をお願いされるため休憩には入れなかった。
 2年3組のメイドカフェは午後も変わらず繁盛していた。各々交代して休憩を取ったり学校祭を楽しんだりしていたが、咲希だけは休むことができずにいた。
「じゃあちょっと俺ら学校祭回ってくるわ。ちょっとしたら戻ってくるね〜」
「あ…うん!わかった!」
「私たちも行ってくるね〜」
「…いってらっしゃい!」
「咲希!写真お願いされてるよ!」
「うん!今行く!」
そうこうしているうちに気づけば学校祭も終盤に差し掛かっていた。
「今うちのクラス何位?」
「わかんない!もうすぐ終わるから売り上げが隠されてる!」
「よし!私が接客に行こう!」
遥花が立ち上がる。
「いらっしゃい!いらっしゃい!かわいい女の子いるよぉ!」
「だからあいつなんなんだ」

 16時。チャイムが鳴り学校祭の終了を知らせる。
「いやー終わった終わった。みんなお疲れ様」
「うちの売上どうかな?」
「午前中までは結構良い順位にいたらしいけど」
丸一日中の接客が終わり、咲希はようやく一休みができた。
「おつかれー!咲希!これでうちのクラスが1位だったら咲希がMVPだね!」
「ふふ。ありがと。でも遥花の呼び込みもすごかったよ」
「なに?いじってるの?」
「ほんとほんとメイドカフェとは思えないもんなー。まぁああいう方が似合ってるけど」
光輝が小馬鹿にしたように笑う。
「てめぇ。ほとんど接客しないで遊んでたろ!」
また遥花と光輝の追いかけっこが始まる。

ピンポンパンポーン。
「ただいまからクラス出し物の売り上げ順位を発表します」
「おぉ!始まるぞー。おい!光輝、遥花静かにしろ」
「第3位 3年5組」
「呼ばれないか」
「まぁ1位狙いだから呼ばれなくて正解だけどね」
「第2位 1年1組」
名前が呼ばれずクラス中に緊張が走る。
「第1位 2年3組」
「よっしゃー!!」
教室はどんちゃん騒ぎ。クラッカーを鳴らす者、余ったジュースで祝杯をあげる者、それぞれの方法で優勝を祝った。
「おい!せっかく優勝したし!実行委員からありがたい言葉をもらおうぜ!」
明音と慎太郎は教壇に立たされ、マイクを手渡される。
「それでは今の気持ちを明音から!」
「えーっと…遥花のおかげで優勝できました!ありがとう!」
「おい!最後の最後まで!」
「ここで遥花からありがたいお言葉をもらいたいと思います!」
教室内が遥花で盛り上がる中、慎太郎はこっそりと教壇を降り、咲希を連れて屋上は来ていた。
「どうしたの?みんな盛り上がってるよ?」
「良いんだ。どうせ遥花と光輝が長い間盛り上げてるから、その後俺に回ってきても話すことなんてねぇよ」
「そっか」
「はい」
慎太郎はビニール袋を咲希に手渡す。
「これは?」
「他のクラスの出し物。もう時間経っちゃってるから食べ物とかは冷たくなってるけど、食べれると思うから」
「え、なんで…」
「……悪かったよ。出し物決めてる時怒鳴ったりして」
「あぁ…ううん。あれは私が意見言わなかったのが悪いし」
「なんで何も言わないんだ?なんか理由でもあんのか?」
「うーん…ずっとそうやって育ってきたからかな?」
慎太郎の表情は納得いってなかった。
「今日もだろ?」
「何が?」
「ずっと接客やってて。みんな学校祭楽しんでるのに1人だけ交代せずに頑張って。写真だって嫌だったんだろ?途中何か言おうとしてたけどやめてたじゃん」
「ちょっと休みたかっただけだよ。それに私が我慢してみんなが楽しめるならそれでいい」
「それは何?みんなにビビってんの?遠慮してんの?」
「そういうわけじゃないけど、でも私が意見を言うことで気を悪くする人がいたら嫌だから」
「遥花と明音は友達じゃないの?」
「友達だけど…」
「そもそも自分の意見を言ったら崩れる関係って友達って言えんの?」
「…わかんない。でもずっとこうするのが正解だと思って生きてきてるから」
「あいつらは多分そういうやつじゃないよ。言えばきっと聞いてくれる。もうすぐ修学旅行だろ?ちょっとは自分の気持ち伝えてみてもいいんじゃない?」
「でもどうやったら…」
「それは自分で考えるんだ」
慎太郎は学校の中へと戻っていった。
自分の意見をいうことが正解なのか、それともそれを飲み込みただの良い子でいるのが正解なのか。咲希の中で今まで自分が歩んできたことのない道を歩んでいる慎太郎が少し羨ましく見えた。