2年3組。
咲希は学年が上がり、2年生になっていた。咲希は校内での評判はとても良かった。頭がよくルックスも完璧、さらになんでも言うことを聞いてくれる優しい子と言われていた。しかしそれが他の人に甘えられてしまう原因にもなっていた。
 「咲希!ごめん!私たち部活あるからさ、あと掃除頼んでもいい?」
「うん!いいよ!部活頑張ってね!」
「ありがとう!いつもごめんね!すごく助かる!」
そう言いクラスメイトは教室から走って出ていく。掃除当番になるといつもこうだ。咲希だけ教室に取り残され、1人で教室掃除を行うことになる。だからといって別に咲希は何も感じていなかった。むしろお願いされているのだからやるべきだとすら思っていた。
ガララっ。教室の扉が開き担任の先生が入ってくる。
「あれ?また咲希さん1人でやってるの?班員は?」
「お疲れ様です。みんな部活です」
「えぇー咲希さん押し付けられたってこと?もーサボりじゃん」
「押し付けられたというか、お願いされただけですよ」
「それを押し付けられたっていうんだよ?嫌だったらはっきり嫌って言って良いんだからね?」
「はい。ありがとうございます。でも大丈夫です!いじめられてるわけでもないので」
担任は「そう」とだけ答え、心配そうな顔をする。
その様子を1人のクラスメイトが納得のいかない顔で静かに見つめていた。

 時が少し経ち6月、梅雨に入り気温が落ち着いてきたが湿度が上がってきた。ベタベタとストレスの溜まる気候に加え、学生が嫌いな行事がやってくる。
「あと1週間で定期テストだー!!!」
「やばい…何にもやってない。範囲も知らないしどうしよう」
「こういう時は…咲希!」
2人は声を合わせる。
「咲希〜またいつものやってよ〜」
「放課後のテスト勉強?いいよー」
「さすが!クラスのマドンナで勉強もできるとかさすがだわ〜」
咲希は学校の中でもいつも1位か2位を争っていた。咲希の友達である明音と遥花はこの時期になると必ず咲希に勉強会を開いてもらい定期テストの対策を行っていた。
「ちょっと明音ダラダラしすぎじゃない?せっかく咲希が付き合ってくれてるのに!」
「そういう遥花だってさっきからお菓子ばっかり食べて進んでないじゃん!」
「私は糖分を補給してるだけ!明音とは違ってちゃんと進めてるの!ね?咲希」
「う、うん」
咲希は少し困ったような顔で笑う。
「じゃあ早速ここわかんないから教えてよ」
遥花は数学の教科書を開き椅子ごと咲希の横へと移動する。
「どこ?」
「ここの計算式が…」
こんな調子で放課後の勉強会は進んでいき、気づけば18時。すでに日が傾き始めていた。
「うわ!もうこんな時間か。今回範囲が広いから大変だったなぁ」
「ありがとう咲希!ほんと助かったよ!…明日も頼んでいい?」
「…うん!いいよ!」
「やった!じゃあまた明日ね!」
3人とも充実した時間を過ごしたように見えたが、咲希は明音と遥花の質問に答えていただけで、自分の勉強は全く進んでいなかった。家に帰ってから自分の勉強を進めて、気づけば寝る時間は日付を跨いでいた。そんな日々が1週間続き、咲希は完全に寝不足になっていた。
 そして2日間にわたる定期テストが幕を開けた。咲希は両日共に眠い目をこすりながらテスト用紙と睨めっこをしていた。満足いかないまま各教科のテストが終わっていき、気づけば2日目の5時間目、数学の試験のみとなっていた。
「咲希!どう?あと1教科でやっと終わるね!」
「んーぼちぼちかな」
「さすが!私は難しくてお手上げだよー」
と、頭を抱える明音。
「でもね?咲希が教えてくれたところはちゃんとできたよ!赤点回避は間違いないかなー。さすが私の親友!ありがとね」
「どういたしまして。これで赤点だったらどうしてくれようか」
「え?!」
「冗談だよ。がんばろ」
咲希はニコッと笑った。
数学のテストが終了し、定期テスト全日程が終了した。そして数日後、その結果が返却される。
毎回のように赤点を取っていた明音、遥花は今回、赤点を取ることなく、学年の順位も少し上げ万々歳の結果になったと喜びを爆発させていた。一方の咲希は全て90点以上と素晴らしい成績を叩き出すも浮かない顔をしていた。

 
 「ただいま帰りました」
「おぉ、おかえり。今日テスト返却されたんだろ?机に並べなさい」
母親の低い声に少しびくつきながらテストを並べる。
「国語95点、数学97点、生物基礎92点…」
各教科の点数が読み上げられていく。全ての答案用紙に目を通した後、母親は「はぁ」と大きくため息をついた。
「これで?学年順位は?」
「3位です…」
「3位?!あんたどんな勉強したらそんな順位が取れるの?!ふざけんじゃないわよ!」
ものすごいスピードで机の上のペンが飛んでくる。
「ありえない。お母さんもお父さんもこんな成績取ったことないわ!」
「はい…」
「そもそも最近帰りが遅いと思ってた。どこかで遊んで来てたんじゃないの?!」
「いや、それは友達に勉強を教えてて…」
「口答えするな!友達に勉強を教えてて?じゃあそんな友達とつるむのはやめちまいな!」
「いや、それは…」
「なに?歯向かうつもり?」
「いえ。なんでもありません」
咲希は荒れ果てたリビングに1人立ち尽くしていた。