アネトリのオキナイ

 朝顔もまだ、寝ぼけたまま。
 鈍い紫色の夜明けの空。
 重たいまぶた。寝ぼけまなこ。
 鈍い頭を、どうにか働かせようと。
 窓に、あごをくっつけて上の空。
 夜明けの赤色を待つ。
 太陽が昇ってきたので。
 私も背伸びをする。
 胸を開いて、肩を後ろから上へと回す。
 頭の上で手を組んで、それから。
 手を。上へ。上へ。上へ。上へ。
 息を吸いながら。伸ばす。
 両腕がぴったりと耳を塞ぐ。
 手を離して、腕を円を描くように。
 息を吐きながら。下ろす。
 誰も聞いていないラジオ体操。
 第二は省略。
 私は窓とカーテンの間から。
 朝として出ていく。
 晴れやかな気持ちで。

 姉の部屋。
 姉は胸を大きく上下させ、まだぐっすり。
 忍び込んだ私は、姉の枕元にあるスマホを。
 眠っている姉の顔に、光がかからないよう。
 ゆっくりと、持ち上げる。
 暗証番号でロックされているけれど。
 そんなことは構わない。
 私はただ、画面を上から下へスワイプする。
 出てきた画面の。時計。のマークを。
 タップする。
 アラームの画面。
 寝坊しないよう。
 三分おきに、セットしている目覚まし。
 オン。を表す緑のところを。 
 タップタップタップ。
 種をまいているみたい。
 そう思った。
 まき終わった後。スマホは。
 姉の眠る、ふかふかの土へとかえした。

 顔を洗って歯を磨いて。
 朝ごはんを食べて。
 歯を磨いて。
 メイクをしていると男の子には。
 分からないくらいの、お化粧をして。
 制服に着替えて。
 私は家を出る。
 姉と彼の待ち合わせ場所へは。
 家から十分。
 彼が遅れて来ることを。
 ちょっと期待していたんだけれど。
 待ち合わせの時間。
 それよりも早く。
 彼は来ていた。
「おはようございます。先輩」
「あれ、美樹ちゃん。お姉ちゃんは?」
「それが、実は…………、」
 夜明けの空にまいた種は。
 姉に根を伸ばしていた。



「朝練。遅れちゃいますよ。先輩」