あの子は泣いていた。

お兄ちゃんが通学、お母さんが出社した頃、私はようやく一息つくことが出来た。昼間だが妙に薄暗い部屋に安心感を覚える。
父は東京に単身赴任している。だから、今家には私一人しかいない。
わざわざ暑苦しい外に出なくてもいい。誰にも干渉されない。周りに気をつかう必要もない。ただ毎日を繰り返し過ごす日々、『ひとりのじかん』。この状態に安心感…。
馬鹿馬鹿しい。こんな事に安堵してしまう自分が情けなく思ってくる。
不登校。
いつからだろうか、私は学校に行かなくなった。いや、『行けなくなった』と言う方が正しい。
外に出ることも怖い。赤の他人がいる環境に吐き気もする。人が発するコトバが恐ろしい。
1人じゃないといけない気がする。それが私にとって、さらには周りとっても一番気が楽なのだ。


「……いや、まだ分からへんよ。」
「いや、絶対そうや!」
「パッケージに虎が描いてあるからって、コーンフレークとは限らないやん。もしかしたら、タイガーマスクのプロマイドかもしれないやん。」
「タイガーマスクのプロマイド、お茶碗持って腕組んでるか? そんなプロマイド売ってへんわ!」
「あははっ!」

思考を放棄したかのようにぼーっとしながらテレビを見ていた。淡々とボケてはツッコむを繰り返す漫才師達の声だけが、リビングに響く。面白いのだろう。テレビに映る人達はみんな笑っている。
…私も、この人達のようにまた心の底から笑える日が来るのだろうか。