ひとりのじかん

家に帰ってからも、私はなかなか眠れなかった。
布団に入って目を閉じても、頭の中には今日の出来事が次々と浮かんでくる。
迅と話したこと。笑ったこと。海で過ごした時間。そして、ずっと避け続けていた『学校』という言葉。
直接言ってなくても、意識させられた。
私は寝返りを打った。枕に顔を埋める。
「……学校、か」
小さく呟く。その言葉だけで、胸の奥が少し重くなる。
やっぱり怖い。考えただけで、あの頃の教室が頭に浮かぶ。
笑い声。視線。何気ない言葉。誰かがこちらを見ている気がして、落ち着かなくなった廊下。教室の扉を開けるだけで、心臓が速くなった朝。
思い出したくない。
そう思った。
でも、今日は、いつもと少し違った。迅と話したからだ。
私は、今まで誰にも話せなかったことを、少しだけ話した。
全部じゃない。ほんの少しだけ。
それでも、自分の口から過去のことを話したのは、初めてだった。
話してみて思った。
私はずっと、頭の中だけで同じことを繰り返していたのかもしれない。
どうして学校に行けなくなったんだろう。何が怖かったんだろう。私は何が嫌だったんだろう。
考えて。苦しくなって。やめて。また考えて。そして、何も分からないまま一日が終わる。ずっと、その繰り返しだった。
私はゆっくり身体を起こした。
時計を見る。もう夜遅い。
机の上には、ノートが一冊置いてある。
最近、中学での事を書いている物だ。
…しばらくそれを見つめた後、私は布団を被った。
今日は結構疲れた。眠たい。
それに…。明日になったら、自分自身に向き合う決意も固まるだろう。
今日あった事を何度も思い出しては噛み締める。
繰り返しているうちに、私は既に眠っていた。