ひとりのじかん

朝食の時間。
お兄ちゃんがテレビを見ている。お母さんがキッチンに立っている。いつも通りだった。
「おはよう」
母が言った。
「……おはよう」
私は椅子に座る。
この間までなら、お母さんとの間には重たい空気があった。でも、少しずつ変わってきている。
まだ以前のようには話せない。けれど、お母さんはもう、朝から学校の話をしなくなった。
「今日は……出かけるの?」
お母さんが聞いた。
「……うん」
「数日前と同じ?」
「たぶん」
お母さんは少し驚いた顔をした。
「そっか」
それだけ。
「……誰と?」
その質問に、私は箸を止めた。
「……友達」
「男の子?」
「……っ」
思わずむせた。
視界の横でお兄ちゃんが吹き出す。
「母さん、いきなり聞くなよ」
「だって……」
「違うから」
私は早口で言った。
「別に、そういうのじゃないから」
「そう?」
お母さんが面白おかしく笑う。
「……何」
「いや、何でもない」
「……」
私は味噌汁を誤って一気に飲んだ。熱い。舌を火傷した。
でも、それどころではなかった。
顔が熱い。
「……男の子ってだけで、なんでそうなるの」
小さく呟いた…が、お兄ちゃんは聞き逃さなかった。
「誰だよ?」
「知らない」
「名前は?」
「……迅」
「へえ」
「だから、何もないから」
「まだ何も聞いてないけど」
「……もういい」
私は顔を伏せた。
お母さんも笑っている。
なんだか悔しい。
でも――。
嫌ではなかった。