***
「着いたぞ」
玲一の声にハッと顔を上げ、窓の外を見る。
私の知っている景色はなく、代わりにあったのは、私の家よりも数倍大きい洋館だった。
「ここが、玲一の家?」
「そうだ。物凄い宮殿のような家を想像していたなら、すまなかったな」
「その逆よ。私の家と同じくらいの大きさだと思っていたわ。…結構素敵な家なのではなくて?」
フッと玲一に微笑む。
すると、玲一は一瞬驚いたような顔をし、私と同じようにフッと微笑んだ。
「悪女に褒められるとは、思っていなかった。……まぁ、俺は藍子が悪女だとも思っていなかったがな」
「へぇ、どうして?」
「悪女が人の病を治すなんて、そんな情けをかけるとは思わないからだ」
「…そう」
…今のところ、好きになれるかどうかは分からないけれど、仲良くはなれそうな雰囲気ね。
玲一は扉の取手に手をかけたものの、一向に開ける気配がない。
「どうかして?」
私が尋ねると、急に玲一がこちらを振り向き、私の肩を掴んで少し後ろに下がらせた。
「すまない、少しだけ下がっててもらえないか」
「?…ええ」
玲一がバッと勢いよく扉を開ける。
その瞬間ーー。
ばしゃー!
私の上に、いきなり水が降ってき、上から下まで全身が一瞬でびしょ濡れになった。
……は?
今何が起こったの?
顔の水を手で払ってから前を見ると、玲一がぽかーんと口を開け、信じられないとでも言うような顔をしていた。
ちょっと、信じられないのはこっちよ!
「…玲一、これは一体どういうこーー」
「っしゃあ〜!引っかかった!」
急に扉の向こうから元気な声が聞こえてきた。
見るとガッツポーズをしている男の子がこちらに向かって歩いてきていた。
歳は……十五、六くらいかしら?
男の子は、こちらを見てケラケラ笑っている。
「いや〜兄ちゃんはいつまで経っても、俺のイタズラに引っかからない上に、逆に俺が返り討ちにされてるから、流石に諦めようと思ったけど…ついにこの日が来たぜ、ひゃっほ〜!お、お…」
ぴょんぴょん飛び跳ねていた男の子だが、私と目が合った瞬間、ぴたっと固まった。
みるみる内に顔は青ざめていき、ガタガタと震えながらも、口を開いた。
「ま、まさか…お、俺のイタズラに引っ掛かったのは、…兄ちゃんじゃなくて、兄ちゃんの、花嫁…?」
「ええ、その通りよ。…私は、あなたの事許——」
「ごめんなさーーい‼︎」
先ほどまでの笑顔はどこへ行ったのやら、今度は急に大泣きし始めた。
さらに玲一に涙と鼻水まみれの顔を擦り付け、すがり付いた。
「おい、玲斗!」
「どうしよう、兄ちゃん、俺やっちゃったよ〜」
「だからやめろと言ったのに…」
玲一ははあ、とため息をつく。
「なあ、藍子。本当に申し訳ないんだが、玲斗を——」
「許すわ」
「「え?」」
玲一と玲斗が揃ってポカンと口を開ける。
「あなた、玲斗、で合ってるかしら?」
玲斗の肩が、ビクッと跳ね上がる。
「は、はい!」
「人の話は最後まで聞きなさい。さっき私は、あなたの事を許すと言おうとしたのよ」
「え…そ、それホントか?」
「ええ、本当よ。京極家の侍女どもが用意した服なんて、早く脱ぎたいと思っていたところだし。それに、服なんてすぐに乾くでしょう?」
私が言い終わると同時に、玲斗の目は大きく見開かれ、輝きが増す。
ゆっくりと玲一から離れると、私に向かってひざまずいた。
「お姉様、あの——」
「姉ちゃんで良いわよ」
「え?」
「まあ、何でもいいわ。玲斗が呼びやすい名にしたら?それと、私はさっきのふざけた態度の方が好きよ」
私はフッと微笑む。
玲斗は立ち上がり、すっと手を出してきた。
私と目が合い、ニカっと笑った。
「姉ちゃん許してくれてありがとう!あ、あとごめんなさい。んじゃ改めて、俺、玲斗ってんだ。今日からよろしくな!」
「ええ、こちらこそ」
私は玲斗の手をとり、握手を交わした。
「着いたぞ」
玲一の声にハッと顔を上げ、窓の外を見る。
私の知っている景色はなく、代わりにあったのは、私の家よりも数倍大きい洋館だった。
「ここが、玲一の家?」
「そうだ。物凄い宮殿のような家を想像していたなら、すまなかったな」
「その逆よ。私の家と同じくらいの大きさだと思っていたわ。…結構素敵な家なのではなくて?」
フッと玲一に微笑む。
すると、玲一は一瞬驚いたような顔をし、私と同じようにフッと微笑んだ。
「悪女に褒められるとは、思っていなかった。……まぁ、俺は藍子が悪女だとも思っていなかったがな」
「へぇ、どうして?」
「悪女が人の病を治すなんて、そんな情けをかけるとは思わないからだ」
「…そう」
…今のところ、好きになれるかどうかは分からないけれど、仲良くはなれそうな雰囲気ね。
玲一は扉の取手に手をかけたものの、一向に開ける気配がない。
「どうかして?」
私が尋ねると、急に玲一がこちらを振り向き、私の肩を掴んで少し後ろに下がらせた。
「すまない、少しだけ下がっててもらえないか」
「?…ええ」
玲一がバッと勢いよく扉を開ける。
その瞬間ーー。
ばしゃー!
私の上に、いきなり水が降ってき、上から下まで全身が一瞬でびしょ濡れになった。
……は?
今何が起こったの?
顔の水を手で払ってから前を見ると、玲一がぽかーんと口を開け、信じられないとでも言うような顔をしていた。
ちょっと、信じられないのはこっちよ!
「…玲一、これは一体どういうこーー」
「っしゃあ〜!引っかかった!」
急に扉の向こうから元気な声が聞こえてきた。
見るとガッツポーズをしている男の子がこちらに向かって歩いてきていた。
歳は……十五、六くらいかしら?
男の子は、こちらを見てケラケラ笑っている。
「いや〜兄ちゃんはいつまで経っても、俺のイタズラに引っかからない上に、逆に俺が返り討ちにされてるから、流石に諦めようと思ったけど…ついにこの日が来たぜ、ひゃっほ〜!お、お…」
ぴょんぴょん飛び跳ねていた男の子だが、私と目が合った瞬間、ぴたっと固まった。
みるみる内に顔は青ざめていき、ガタガタと震えながらも、口を開いた。
「ま、まさか…お、俺のイタズラに引っ掛かったのは、…兄ちゃんじゃなくて、兄ちゃんの、花嫁…?」
「ええ、その通りよ。…私は、あなたの事許——」
「ごめんなさーーい‼︎」
先ほどまでの笑顔はどこへ行ったのやら、今度は急に大泣きし始めた。
さらに玲一に涙と鼻水まみれの顔を擦り付け、すがり付いた。
「おい、玲斗!」
「どうしよう、兄ちゃん、俺やっちゃったよ〜」
「だからやめろと言ったのに…」
玲一ははあ、とため息をつく。
「なあ、藍子。本当に申し訳ないんだが、玲斗を——」
「許すわ」
「「え?」」
玲一と玲斗が揃ってポカンと口を開ける。
「あなた、玲斗、で合ってるかしら?」
玲斗の肩が、ビクッと跳ね上がる。
「は、はい!」
「人の話は最後まで聞きなさい。さっき私は、あなたの事を許すと言おうとしたのよ」
「え…そ、それホントか?」
「ええ、本当よ。京極家の侍女どもが用意した服なんて、早く脱ぎたいと思っていたところだし。それに、服なんてすぐに乾くでしょう?」
私が言い終わると同時に、玲斗の目は大きく見開かれ、輝きが増す。
ゆっくりと玲一から離れると、私に向かってひざまずいた。
「お姉様、あの——」
「姉ちゃんで良いわよ」
「え?」
「まあ、何でもいいわ。玲斗が呼びやすい名にしたら?それと、私はさっきのふざけた態度の方が好きよ」
私はフッと微笑む。
玲斗は立ち上がり、すっと手を出してきた。
私と目が合い、ニカっと笑った。
「姉ちゃん許してくれてありがとう!あ、あとごめんなさい。んじゃ改めて、俺、玲斗ってんだ。今日からよろしくな!」
「ええ、こちらこそ」
私は玲斗の手をとり、握手を交わした。

