水鏡の夫婦の契約結婚

 水卜伯爵――水卜成斎(みうらせいさい)は、書院に座していた。

「当主様、鏡に映し出された男と相違なかったですか」

 秘書は襖の傍らに控えて言う。
 成斎は、深く頷いた。

「よくやったぞ」

 成斎は盆栽に鋏を添わせ、余計な枝を切り落とす。

「久世清崇と小夜が結ばれるなら、水卜家にとって利益が大きい。新しい時代には、新しい力が必要不可欠だ」

 パチンと枝が落ちる。

「無論、それだけではないが」




 ――異能の血に、あやかしの力が加わった異端児。
 幼き小夜は並外れた力を制御できず、よく目まいに襲われた。視界が回転し、立ってはいられない。
 成斎は、布団で横になる小夜の頭を撫でた。

「……小夜。お前のことが心配でならない。私はひそかにお前の先行きを占った」

 成斎は微笑む。

「――小夜は、新時代の男と結婚して幸せになる姿が映った」

 小夜は目を向けた。

「新時代の男?」
「お前がのびのび暮らせるような、この国にはない新しい考えを持った男だった。……そこで小夜はそうだな……なんと言ってよいのか……」

 腕を組みながら、成斎はうなる。

「――新しい言葉で言うと“自由”で幸せそうだった」
「ジユウ……?」

 聞き慣れない言葉に、小夜は目を見張った。

「自分で生き方を選べるという意味だ」
「そんな――そんなことができるのですか!?」

 小夜は布団から飛び起きた。

「ああ、これから、ますますな」

 この国は次期に変わりゆくと――遠くを見る。 

「私、あんなことやこんなこと、たくさんしてみたいことがあるんです」
「安心しなさい。忘れ形見であるお前を、必ず幸せにする。……それがお前の母への供養だ」

 小夜は帝都の街を気ままに歩く姿を思い描いた。流行りのワンピースを百貨店に買いに行く姿、誰にも咎められずに公園で遊ぶ姿……空想は果てしなく広がる。
 ――男との結婚の話は記憶には残らなかった。