お飾り妻は、氷の旦那様に甘やかされる。

「旦那様、離婚していただきます」

私は初対面の旦那様に離婚届を突き付ける。旦那様は、険しかった顔が変わることなく、淡々とこちらへ来る。

「すまないが、離婚することはできない」

私は、離婚届を握る手に力が入る。


旦那様が帰ってくると聞いたのは、二日前のことだった。一年以上、帰ってこなかった旦那様に話すことができる絶好のチャンスだ。私はずっと前から心に決めていたことがある。

それは、『離婚』することだ。

 なんと、最近知ったのだが、母が私に財産を残していた。しかも、額はそこまで贅沢しなければ、生きていけるほどだった。そして、女中たちの目を搔い潜り、お屋敷から逃げ出しあるカフェで働いていた。そこは、おじいさんとおばあさんが営業しているほのぼのとした常連さんがたくさんなお店だった。ご夫婦の計らいでこれからも働かせてくれるそうだ。

離婚さえ、成立すればいい。

それさえ、うまくいけばいい。

鈴は「そんな簡単に物事は運びませんよ?」と言っていたが、そんなことは知っている。

私の人生がその例。

私の願いは『平穏に暮らすこと』。

それだけだ。



そして、今彼に離婚届を突き付けているところだった。

「なぜですか。私たち、結婚してから一度も会っていませんよね?というか、初対面なはずですが?」

「あと一年だけ契約結婚してほしい」

「一年、ですか」

一年、短くも長い一年。

「あと一年あれば、仕事も落ち着くし、円満に離婚できる。君だって親に何か言われるのはいやだろう?」

そうなのだ。この離婚に当たって一番、難関なのが「親」だった。父はこの人と繋がりを持ちたくて私を嫁がせているゆえ、勝手に離婚すれば、どうなるかわからない。

もしかしたら、他のところにまた嫁がされるかもしれない。それか、あの屋敷の使用人として使われるか。

わからないことばかりだ。

百歩譲って、屋敷の使用人はまだいい。だが、他のところにまた嫁がされるのは困る。

バツイチなんてただでさえ、傷物なのにそんなやつを妻にするということは、それほどやばいやつなのだ。

どんな扱いされるのか、想像するだけで吐き気がする。

「わかりました。あと一年だけの妻ですがよろしくお願いします」

「こちらこそ、すまないがよろくしくたのむ」

どんな人だろうと思っていいたが、案外悪い人ではないのだろう。

この人なら、悪い方向に行かず円満に離婚できそうだ。