玉依姫の事情

 その村には、『御寮さん』と呼ばれる一族がいた。本来の苗字は全く違う。その土地の代官か領主の末裔、果ては天女を嫁にした一族だと語る住民もいるが、定かではない。御寮さんの家は、閉鎖的な田舎特有の力関係の上の方にいる。専ら御寮さんと呼ばれる女子生徒もそんな環境下で育てばさぞかし我儘で高慢な性格になりそうだが、本人は口数も自己主張も控えめな大人しい性格だった。男子に混じってボールを蹴っていそうな活発な見た目をしているが、実際はクラスの中心人物とその友人達を騒ぐの離れた場所からぼんやり眺めたり本を読んでいる。
 都会から赴任してきた千曲にとっては、やや特殊な身の上である事以外はほとんど印象の薄い子供だった。可も不可もなく田舎の教師を勤めていた千曲が頭を悩ませているのは、本職の事から少し逸れている。
 世間とは狭いもので、御寮さんの娘の叔父というのが、千曲の高校時代の友人だった。お互い当時住んでいた場所から離れた大学に進学した為、直接顔を合わせたのは最近である。友人はあるスポーツに関する姪の才能を見抜き、もっと本格的な指導を受けられて練習ができる学校に通わせたいようだ。怪我で叶えられなかった夢を姪に託したいのだろう。御寮さんの母(友人の姉)は娘に現代的な知見を積ませたいので概ね賛成のようだが、この土地の祭りの大トリである巫女舞が終わってからの方がいいと意見のすり合わせが上手くいっていないようだ。
 協力してくれと頭を下げられても、イジメや家庭内暴力ならともかく一生徒の家庭事情に口なんか出せるか。最悪村八分もあり得るぞ。というか、御寮さんにはまず一般人には見えない何かと人前で会話する習慣を止めさせた方がいいんじゃないのか。