宵闇の夜明け ―無人島で拾った運命の断片―

カチカチ、と規則正しいタイピング音が止まる。


26歳のサキは、眼鏡のブリッジを押し上げ、深く椅子にもたれかかった。
あの夏の島から、もう九年が経つ。


カイトとは、本土に戻ってから少しだけ特別な時間を過ごしたけれど、やがてそれぞれの進路へと分かれていった。今では、彼がどこでどんな風に笑っているのかも知らない。


けれど、私は今でも、体の中にあの時の「熱」を飼っている。


恋愛相談の記事を書くとき、私はいつも、あの日体内で感じた「焼けつくような感覚」を思い出す。


「好き」という言葉は、安っぽい。


本当に人を動かすのは、言葉にできない秘密であり、理屈を超えて混じり合った熱の記憶だ。


私は、昼間は地味な事務職として、書類の山に埋もれて生きている。誰も私が、かつて無人島で一人の少年と運命を分け合ったなんて思いもしないだろう。


それでいいのだ。秘密があるからこそ、私は強くなれる。


私はnoteの公開ボタンを押した。


タイトルは、『秘密は、あなたを輝かせる熱になる』。


窓の外では、東京の夜空に、あの時と同じ星たちが静かに瞬いている。


私は明日も、眼鏡をかけ、内向的な自分を演じながら、心の中にある「あの三日間の太陽」を糧に生きていく。


(了)