渡真利くんが笑いながら言うのに、私はポカンと口を開けてしまった。渡真利くんが柘榴を友達として見ていると言っていたけど、度を超えてやしないかと。
「なんなの? 渡真利くん。そういうの度が過ぎてない?」
「そんなことないよ? 幻想種、貴族間の関係がむっちゃ面倒くって、友達あんまできへんねん。せやから友達大事にしとるだけやで?」
「そうなの?」
私が横の柘榴を見ると、「まあなー」と腕を組んだ。
「というより、俺様に先に言え。いくらなんでも、人の番にちょっかいかけたら、友達とはいえど俺様だって怒る」
「堪忍なあ、柘榴くん。でも澄子ちゃんがヘマして柘榴くんが迷惑被るようなんも嫌やったから。柘榴くん放っとくと過保護になりよるから、それで澄子ちゃん安心しきって寝首かかれたらコトやん」
「寝首かかれるって……そんな大袈裟な」
「大袈裟ちゃうで? 僕らやって、幻想種やからって、同じ幻想種のこと全部は把握できてへんもん」
そうきっぱりと言い切る渡真利くんの物言いに、私はヒュンと冷たいものを覚えた。それに柘榴は溜息をつく。
「脅し過ぎだ、渡真利」
「でも番にしたんやから、さっさと自寮に連れ帰ったほうがええやろ? なにかまととぶっとんねん、女の子を座敷牢に放っておいて」
「なっ……!? いくら番にしたとはいえど、了承もなしにそういうのはなしだろ!?」
それに柘榴は顔を真っ赤にする。
……柘榴の寮って、たしかひとり暮らし用のあれだよね。一応柘榴も爺やさんと暮らしているみたいだから、ひとりではないとはいえど……。
そんなところでふたりで一緒に暮らせって、それもう同棲じゃない!? そういうのはさすがに早いと思う!
私も思わず「なんでそんなこと言うの渡真利くん!」と悲鳴を上げたものの、さっきから次々と爆弾発言をする渡真利くんは溜息交じりに返す。
「一応言うておくとな、澄子ちゃん。自分、ほんまに危機感あらへんから、なにかあったときはすぐに柘榴くんに頼るか、柘榴くんにも頼れへんときは自分で対処するしかないねん。ほんまに注意だけはしときぃや」
「……それって、他の幻想種から狙われるってこと? でも。私ニワトリだけど? ニワトリが番になったからって、いったいなにがそんなに問題あるのか……」
「んー。柘榴くん、言うてないねんな?」
「言ってどうする。澄子を困らせるだけだ。それに、澄子になにかあったときの対策はちゃんとしている」
「そっか」
おいおいおいおい。私の話なのに、なんで私に内緒話するかな、このふたりは。
私は思わず柘榴を睨んだ。
「私、なんの説明も受けてないから、本当になにがなんだかわからないんですけど!?」
「とりあえず、俺様の番になったから、渡真利がお前のことを気にかけてるってわかればいいだろ」
「というか、そもそも! 味方面してるけど、渡真利くんだって幻想種じゃない! 私を狙わない理由ってなんなの!?」
「ええ、言わなあかん?」
「なんか呪われるし、ファーストキス終わるし、なんか勝手に内緒話されるし、正直不愉快なんですけど! せめてあんたが私に試験以上のちょっかいかけない理由くらいは教えて!」
そう主張したら、渡真利くんときたら、うっすらと頬を染めてもじもじして、ボソッと答えた。
「だって、地元に好きな子おるから、番いらんもん」
私は思わず柘榴を見た。
「渡真利くんのこれ、本当?」
「んん? たしか渡真利、実家のメイドさんに十年単位でアタックしているにもかかわらず、身分とか魔力あるなしとかでずっと避けられ続けてるって聞いてる。俺様、それはよくわからなかったんだけどなあ。まあ、今はなんとなく理解できる」
「言わんでええやろう、僕のことは!?」
渡真利くんの悲鳴に、私はやっと納得した。
「そっかあ。渡真利くんの好きな人はニワトリどころか魔法の素養がない人だから、余計に私に気を遣ってくれてたのかあ。そうかあ。そうかあ……まあ、今回は柘榴が助けてくれたから、一応礼は言っとく。いろいろと心配してくれてありがとう」
「うん。まあ、僕はほんまに、ふたりにこれ以上はちょっかいかけんけど。でも」
そう言いながら渡真利くんは続けた。
「幻想種って、番に対する執着凄まじいねん。ほんま、気ぃ付けや。柘榴くんも澄子ちゃんも」
「わかってる。俺様は必ず澄子を守る」
「だから、ふたりでわかった気にならないで! 結局私のなにがどう幻想種から狙われてるか訳わからないんですけど!」
解呪は成功したものの、結局渡真利くんの警告の理由も、柘榴が私のなにに対して気を遣っているのかも、結局はわからず終いだった。
****
渡真利くんとは一旦別れを告げ、私は柘榴に連れられて座敷牢へと帰る。
「大袈裟だよ。そもそも委員会だったんでしょう? 委員会を抜け出して私を寮まで送る必要あったの?」
「渡真利の警告も、俺様はいろいろ思うところがあったからな」
「そうなの? でも番っていうの、私にはいまいちわからないんだけど……私の今まで知っていた番っていうのは、そこまで一蓮托生のイメージがなかったから」
「そりゃな。連理学園の番は、あくまで本来の番の真似事だからな。互いの魔力を互いに補い合えっていう。比翼連理の番というのは、そこまで融通の利くもんじゃない。幻想種が番申し込みをするなんていうのは、魂の伴侶を求めることだからな」
「……あんた、私のなにをそこまで気に入ったの。あんたは私の根性を見込んだって言っていたけど」
そりゃ貴族からしてみりゃ、私みたいななんも持ってない孤児が物珍しく見えるだろうけど。でも貴族以外からも、私の生き方はガツガツし過ぎてスマートじゃないって嫌われてるし、それは仕方ないよなと思う。
家族もない。お金もない。魔力はなくした。こんなよくわからない生き物が後生大事に魔法学校にすがりついていたら、普通の人は正気を疑う。
私は本当にないない尽くしだからこそ、柘榴が私の根性を気に入った意味がわからない。そんな中、柘榴は困った顔をして腕を組んでいた。
「ちょっと……柘榴?」
「俺様はお前に誤解されたくない。俺様がお前を気に入ったのは、通り過ぎた際のお前が根性のある女だからだ。だが……」
「なによ」
「他の幻想種がお前のことをそう見ているとは限らん。少なくとも、お前の前の番のような扱いではないだろう」
「うん……?」
つまりはあれか。柘榴は私と番になった経由と幻想種が私を狙う理由が違うし、渡真利くんが心配しているのは後者と。
そしてその内容をなぜか私に教えたがらない、と。
「意味わからないんだけど。ところで柘榴。私と契約して、あんたのクラスに支障はないの?」
「問題ない。魔法に関する授業は俺たちのクラスだとほぼほぼ自習だからな。だからお前のクラスの実践授業に参加しても問題ない」
「ほんっとうに幻想種って最初から魔法習っているんだね……その辺りがさっぱりなんだけど」
「幻想種っていうのは、現実を浸食する存在だからな」
「……なんかそんなこと、授業でもちらっと習った気がするけど」
この国の国生み神話でも、さらっとそんな話はあったような気がする。
現実を浸食する幻想種が、なにもない国を幻想で浸食し、魔法を満たしたから生まれたと。貴族が今も昔もものすっごく身分が高くってお金があるのは、この国の成り立ちと幻想種の存在が密接に関わっているからだと。
歴史の授業でさらっと習うけれど、詳しい話は鶴丸くんみたいに幻想種について興味ある子じゃなかったら調べないんじゃないかな。
そうこう言っている間に、座敷牢が見えてきた。
「それじゃあね、ここまで送ってくれてありがとう。あんたもあんまり委員会サボって怒られないようにね」
「問題ないだろ。どうせ家の代表面した連中のご機嫌伺いしなきゃいけないからな。帝だったらいざ知らず、他の連中の顔色を伺う意味がわからん」
「またそんなこと言って。でもありがとね」
私はそう手を振って別れたのだ。
「なんなの? 渡真利くん。そういうの度が過ぎてない?」
「そんなことないよ? 幻想種、貴族間の関係がむっちゃ面倒くって、友達あんまできへんねん。せやから友達大事にしとるだけやで?」
「そうなの?」
私が横の柘榴を見ると、「まあなー」と腕を組んだ。
「というより、俺様に先に言え。いくらなんでも、人の番にちょっかいかけたら、友達とはいえど俺様だって怒る」
「堪忍なあ、柘榴くん。でも澄子ちゃんがヘマして柘榴くんが迷惑被るようなんも嫌やったから。柘榴くん放っとくと過保護になりよるから、それで澄子ちゃん安心しきって寝首かかれたらコトやん」
「寝首かかれるって……そんな大袈裟な」
「大袈裟ちゃうで? 僕らやって、幻想種やからって、同じ幻想種のこと全部は把握できてへんもん」
そうきっぱりと言い切る渡真利くんの物言いに、私はヒュンと冷たいものを覚えた。それに柘榴は溜息をつく。
「脅し過ぎだ、渡真利」
「でも番にしたんやから、さっさと自寮に連れ帰ったほうがええやろ? なにかまととぶっとんねん、女の子を座敷牢に放っておいて」
「なっ……!? いくら番にしたとはいえど、了承もなしにそういうのはなしだろ!?」
それに柘榴は顔を真っ赤にする。
……柘榴の寮って、たしかひとり暮らし用のあれだよね。一応柘榴も爺やさんと暮らしているみたいだから、ひとりではないとはいえど……。
そんなところでふたりで一緒に暮らせって、それもう同棲じゃない!? そういうのはさすがに早いと思う!
私も思わず「なんでそんなこと言うの渡真利くん!」と悲鳴を上げたものの、さっきから次々と爆弾発言をする渡真利くんは溜息交じりに返す。
「一応言うておくとな、澄子ちゃん。自分、ほんまに危機感あらへんから、なにかあったときはすぐに柘榴くんに頼るか、柘榴くんにも頼れへんときは自分で対処するしかないねん。ほんまに注意だけはしときぃや」
「……それって、他の幻想種から狙われるってこと? でも。私ニワトリだけど? ニワトリが番になったからって、いったいなにがそんなに問題あるのか……」
「んー。柘榴くん、言うてないねんな?」
「言ってどうする。澄子を困らせるだけだ。それに、澄子になにかあったときの対策はちゃんとしている」
「そっか」
おいおいおいおい。私の話なのに、なんで私に内緒話するかな、このふたりは。
私は思わず柘榴を睨んだ。
「私、なんの説明も受けてないから、本当になにがなんだかわからないんですけど!?」
「とりあえず、俺様の番になったから、渡真利がお前のことを気にかけてるってわかればいいだろ」
「というか、そもそも! 味方面してるけど、渡真利くんだって幻想種じゃない! 私を狙わない理由ってなんなの!?」
「ええ、言わなあかん?」
「なんか呪われるし、ファーストキス終わるし、なんか勝手に内緒話されるし、正直不愉快なんですけど! せめてあんたが私に試験以上のちょっかいかけない理由くらいは教えて!」
そう主張したら、渡真利くんときたら、うっすらと頬を染めてもじもじして、ボソッと答えた。
「だって、地元に好きな子おるから、番いらんもん」
私は思わず柘榴を見た。
「渡真利くんのこれ、本当?」
「んん? たしか渡真利、実家のメイドさんに十年単位でアタックしているにもかかわらず、身分とか魔力あるなしとかでずっと避けられ続けてるって聞いてる。俺様、それはよくわからなかったんだけどなあ。まあ、今はなんとなく理解できる」
「言わんでええやろう、僕のことは!?」
渡真利くんの悲鳴に、私はやっと納得した。
「そっかあ。渡真利くんの好きな人はニワトリどころか魔法の素養がない人だから、余計に私に気を遣ってくれてたのかあ。そうかあ。そうかあ……まあ、今回は柘榴が助けてくれたから、一応礼は言っとく。いろいろと心配してくれてありがとう」
「うん。まあ、僕はほんまに、ふたりにこれ以上はちょっかいかけんけど。でも」
そう言いながら渡真利くんは続けた。
「幻想種って、番に対する執着凄まじいねん。ほんま、気ぃ付けや。柘榴くんも澄子ちゃんも」
「わかってる。俺様は必ず澄子を守る」
「だから、ふたりでわかった気にならないで! 結局私のなにがどう幻想種から狙われてるか訳わからないんですけど!」
解呪は成功したものの、結局渡真利くんの警告の理由も、柘榴が私のなにに対して気を遣っているのかも、結局はわからず終いだった。
****
渡真利くんとは一旦別れを告げ、私は柘榴に連れられて座敷牢へと帰る。
「大袈裟だよ。そもそも委員会だったんでしょう? 委員会を抜け出して私を寮まで送る必要あったの?」
「渡真利の警告も、俺様はいろいろ思うところがあったからな」
「そうなの? でも番っていうの、私にはいまいちわからないんだけど……私の今まで知っていた番っていうのは、そこまで一蓮托生のイメージがなかったから」
「そりゃな。連理学園の番は、あくまで本来の番の真似事だからな。互いの魔力を互いに補い合えっていう。比翼連理の番というのは、そこまで融通の利くもんじゃない。幻想種が番申し込みをするなんていうのは、魂の伴侶を求めることだからな」
「……あんた、私のなにをそこまで気に入ったの。あんたは私の根性を見込んだって言っていたけど」
そりゃ貴族からしてみりゃ、私みたいななんも持ってない孤児が物珍しく見えるだろうけど。でも貴族以外からも、私の生き方はガツガツし過ぎてスマートじゃないって嫌われてるし、それは仕方ないよなと思う。
家族もない。お金もない。魔力はなくした。こんなよくわからない生き物が後生大事に魔法学校にすがりついていたら、普通の人は正気を疑う。
私は本当にないない尽くしだからこそ、柘榴が私の根性を気に入った意味がわからない。そんな中、柘榴は困った顔をして腕を組んでいた。
「ちょっと……柘榴?」
「俺様はお前に誤解されたくない。俺様がお前を気に入ったのは、通り過ぎた際のお前が根性のある女だからだ。だが……」
「なによ」
「他の幻想種がお前のことをそう見ているとは限らん。少なくとも、お前の前の番のような扱いではないだろう」
「うん……?」
つまりはあれか。柘榴は私と番になった経由と幻想種が私を狙う理由が違うし、渡真利くんが心配しているのは後者と。
そしてその内容をなぜか私に教えたがらない、と。
「意味わからないんだけど。ところで柘榴。私と契約して、あんたのクラスに支障はないの?」
「問題ない。魔法に関する授業は俺たちのクラスだとほぼほぼ自習だからな。だからお前のクラスの実践授業に参加しても問題ない」
「ほんっとうに幻想種って最初から魔法習っているんだね……その辺りがさっぱりなんだけど」
「幻想種っていうのは、現実を浸食する存在だからな」
「……なんかそんなこと、授業でもちらっと習った気がするけど」
この国の国生み神話でも、さらっとそんな話はあったような気がする。
現実を浸食する幻想種が、なにもない国を幻想で浸食し、魔法を満たしたから生まれたと。貴族が今も昔もものすっごく身分が高くってお金があるのは、この国の成り立ちと幻想種の存在が密接に関わっているからだと。
歴史の授業でさらっと習うけれど、詳しい話は鶴丸くんみたいに幻想種について興味ある子じゃなかったら調べないんじゃないかな。
そうこう言っている間に、座敷牢が見えてきた。
「それじゃあね、ここまで送ってくれてありがとう。あんたもあんまり委員会サボって怒られないようにね」
「問題ないだろ。どうせ家の代表面した連中のご機嫌伺いしなきゃいけないからな。帝だったらいざ知らず、他の連中の顔色を伺う意味がわからん」
「またそんなこと言って。でもありがとね」
私はそう手を振って別れたのだ。



