真智ちゃんは私の言葉に、目をパチクリとさせた。
「……そう?」
「うん。私もさすがに貴族がなに考えてるのか知らないけど」
一般庶民には一般庶民の悩みがあるように、貴族には貴族の悩みがあるんだと思う。柘榴があんまりにも自信満々俺様キャラなせいで、こちらからだとなんにもわからないから、あくまで私の想像だけれど。
ところで。
「まだ新学期までもうしばらくあるから、もうちょっと悩もうと思ってるけど。真智ちゃんは? 番いないんでしょう?」
「うん……」
真智ちゃんは曖昧な顔をして笑った。
「私の番、怪我して退学しちゃったから……だから私もと組送りになっちゃった訳で」
「あれ、それ大丈夫なの?」
「私がいけなかったんだよ。私が体弱いから、相手におんぶに抱っこでさ」
そう彼女がしょんぼりしていたら、私はなんにも言えなくなってしまった。
動物の番と違い、連理学園での番は関係解消があっさりとし過ぎているのだ。私みたいに魔力がなくなったりとか、事故が原因で退学なんて、残念だけれど連理学園だったらそこまで珍しくない。
私の方もだけれど、真智ちゃんもちゃんと番が見つかればいいのに。
真智ちゃんは「私、体調が悪いから、いつも一番最後にお風呂もらっているから。先入ってきてね」と薦められ、私は女風呂に浸かりに行ってから、寝ることにした。
ただ寮を引っ越しただけなはずなのに。今日は一日いろんなことがあり過ぎて上手く頭でまとめられないや。
柘榴のことどうしようとか、番を探すのどうしようとか、寮の細々とした当番ちゃんとやらないととか、もういろいろとある。
頭がごちゃごちゃしたら、ひとまずは寝てから考える。
そう思うことにした。
****
座敷牢は年季がある寮だ。いや、それは綺麗なたとえ過ぎる。
「あーまーもーりー……!!」
引っ越して早々、大雨のせいで寮室だけでなく、廊下も食堂も雨漏りで水浸しだらけだ。私たちは慌てて雨漏り対策にブリキのバケツを並べ、濡れた場所は雑巾がけしていた。
「座敷牢で雨漏りしないの、図書館だけなんだよね……」
「そうなの!? というか、年季入った本ばかりあるんだから、そりゃそうなるのか……」
「うん。大昔の結界魔法が完璧過ぎて、未だに破られたことがないんだ」
今日の朝の掃除当番の私とつばめちゃんは、慌てて雨漏りの始末をし、終わった頃には朝ご飯が冷め切っていた。今日の朝ご飯は麦ご飯に卵焼きに味噌汁。温かったらもっとおいしかっただろうご飯は、冷え切っているとやや寂しい。
バケツを交換しつつ、私はつばめちゃんになんとはなしに話をしてみた。
「……柘榴についてどうしようと、ずっと悩んでる」
「ふうん……あくまで私はだけれど、鳳くん思っているよりいい人そうとは思ったかな」
「そう……?」
まあ、そっか。偉そうなしゃべり方している割には、別に横暴でもないし、私のことを馬鹿にするようなことも言ってこない。少なくとも育ちがいいんだろうなとは思った。
つばめちゃんは「あくまで私の意見だから、参考程度に留めてね」と言い置いてから、口を開いた。
「幻想種とか貴族とかって、結構一般庶民をシンプルに下に見てたりするから、少なくとも鳳くんからはそれはなかったなあと思ったんだよね」
「そっかあ……まあ、あいつはいい奴だとは私も思ったんだよ。まだちょっとしゃべっただけで、そんなこと決めつけていいのかはわからないけど。でもさあ。そんな貴族だろう人が、なんで私に求婚してきたのか、そこだけはわからない」
「それはそう……でも、これもあくまで私の思い付きだけど」
「うん」
つばめちゃんは私のほうをじぃーっと見つめた。
「シンプルにひと目惚れって線はないの?」
「ブッフォ!?」
思わずむせて、全身を使って咳をする。それに隣でつばめちゃんはあわあわとしはじめた。
「ちょっ……大丈夫澄子ちゃん!?」
「ゲホッゲホッ……ない! さすがにそれはないよっ!? だって幻想種だよ? 貴族だよ? いくらしがらみがないからって、私が孤児だって調べを付けもなお声をかけてくるなんて、なんか裏がないかって思わないかな!?」
「うーん……さすがにそればかりは私もわからないかな」
そうふたりで食堂の流しに食器を浸け、もうしばらくしたら食器を洗いはじめようかと言っていたときだった。
「なんじゃこりゃ!? 廊下に水溜まりできてるじゃねえか!!」
そう叫び声が聞こえた。
私はその声に「ヒャン」と悲鳴を上げる。つばめちゃんはその様子に口元に手を当てた。
「健気だね、鳳くん」
「ちょっと……雨降ってるでしょう!? なんでこんな日に来たの!?」
「おう澄子。番契約はあれだ。通い婚だと渡真利《とまり》が言ってた」
「誰だよトマリって!」
「俺様のダチだが」
この俺様に友達いたのかと、勝手に面食らう。
びしょびしょに濡れていたら可哀想だから、乾いているタオルでも探してきてやろうかと思ったのに、柘榴は全く濡れてはいなかったのに拍子抜けした。手元を見たら傘すらない。
「……傘もなしにどうやって森ん中まで入ってきたの?」
「雨なんて自分ひとりだったら結界魔法でどうにかなるだろ」
「ああ……」
貴族すごいなと、素直に感心してしまった。結界魔法は座敷牢の図書館とか国立博物館みたいに、ひとつの場所に固定すれば数百年でも持つような物が張れるけれど、雨とか川とか移動しながら結界を維持するのは技量がいる。
柘榴はなんだこいつとは思うものの、普通に腕のある魔道士なのだろうと感嘆したんだ。
「でも雨の中来られても……こっちはずっと雨漏りの始末をしてるのに」
「というか、こんな雨漏りしていたら、おちおち寝ることだってできねえだろ。修繕くらいしろよ」
「……あんた、思っているよりまともなこと言えるんだね?」
「なにを、澄子。俺様が寛容だからいいものの、さすがに失礼が過ぎるぞ」
私たちがしゃべっていると、後ろから見ていたつばめちゃんがポツンと言う。
「なんというか、澄子ちゃんと鳳くん。気が合うね? 夫婦漫才みたい」
「どこが!? なにが!?」
「澄子が許可出せば普通に夫婦になるんだがな」
「そんな漫才みたいなノリで求婚なんか成立すると思うなよ!?」
「でもそんなに澄子ちゃんが心配なら、座敷牢の屋根とかどうにかしてくれればいいのに。うち、連理学園の中でも重要ポジションのはずなのに、図書館以外の場所、ちっとも気を遣われてないから」
つばめちゃんのひと言に、柘榴は私のほうを見てきた。
「なによ」
「おい澄子。ここの寮の雨漏りがなくなったら喜ぶか?」
「んん? そりゃまあ。嬉しいけど。これじゃいつ教科書やノート駄目になるかわからないし。畳が濡れたら乾くまで時間かかるし、布団だって湿気ったら困るし」
「そうか、嬉しいんだな。喜ぶんだな。わかった」
言うだけ言うと、柘榴は「帰る!」と言ってそのまま元来た道を帰ってしまった。
前の中、バサバサと大きく羽を羽ばたかせて飛んでいるけれど、本当にどんな魔法の組み立て方をしているのか、全く濡れていなかった。
「はあ……柘榴、貴族とは言ってたけど、本当にすごい魔道士だったんだね。ますますわかんないや、私にわざわざ番申し込みしてきたの」
「なんだか可愛げがあるように見えてきたけどねえ」
つばめちゃんに言われたことで、なにやら飛んでいってしまったけれど。なにする気だろう。屋根が直ったら万々歳ではあるけれど、修繕工事なんてはじめようものなら、中に住んでいる私たちどうすればいいんだろう。
柘榴の意図がさっぱりわからず、私たちはしばらく窓の外を眺めていた。
****
昼ご飯に焼きそばを食べ、また廊下をモップがけしようかとつばめちゃんと真智ちゃんと話しているときだった。
「すみません、山内寮はこちらでよろしいでしょうか?」
「はい?」
寮長が困った顔で、座敷牢の玄関でしゃべっている。私たちが玄関に顔を出してみると、ローブに着物姿の男性たちがいた……あれ。
「……魔法修繕師?」
そりゃ工事せず、魔法で全部なんでもかんでも直せればうるさくないし、中に住んでいる私たちだって工事の間追い出されずに済むけれど。
でもそんな人たちはだいたい予定が埋まっていて、連理学園の校舎の方だったらいざ知らず、いくら連理学園の前身とはいえども座敷牢のほうになんか来ないだろう。
「ええ……魔法修繕師なんて、数年単位で予定が埋まってるんじゃ……なんでうちに?」
「……どう考えても柘榴のせいとは思うけど。あいつ、貴族のコネ使いやがった?」
「すごい、鳳くん太っ腹」
「……つばめちゃん、なんというか鳳くんに甘過ぎない? 澄子ちゃんもそんな感嘆に絆されちゃ駄目だよ、だって幻想種だよ? 貴族だよ? 私たちに逆らうなって見せしめしているのかもしれないじゃない」
「うん……そうかもしれないけどさ」
寮長はあわあわしながら魔法修繕師さんを座敷牢内に入れると、その人は「ふんふん」と言いながら、真っ直ぐに図書館の方へと向かった……あれ?
「あの……図書館は昔ながらの結界のおかげで、雨漏れ全然関係ないんですけど……」
つばめちゃんが思わず言うと、魔法修繕師さんがにこにこと笑った。
「いえ、それだけしっかりしている結界ならば、そこを核として、拡張すれば、この山内寮全体も覆えますよ。まずは雨漏りを一旦止めてから、修繕作業に入ろうかと」
そう言いながら、魔法修繕師さんは図書館に入ると、手に持っていた荷物を広げた。
羽が入っていて、それを並べて、魔力を流し込んで結界をどんどんと拡張していく。これが屋根を伝っていったおかげで、雨漏りは見事止まった。
「すごい……」
「そういう職業ですから。それじゃあ、修繕をはじめますね」
そう言いながら魔法修繕師さんが、ペタペタと座敷牢各所を回って修繕してくれた。てっきりもっと魔法で加工するのかと思っていたら、魔法修繕師さんいわく「ここは元々年季の入った寮ですから、魔力が篭もっています。そこの流れをよくすれば、自然と素材も若返りますし、その若返った素材の魔力を流し込めば、自然と形が直るのです」と教えてくれた。
一応一年時で理論は習っているものの、それを実践するのは骨が折れるのに、それをなんなくやって、魔法修繕師さんは帰っていった。
なんということでしょう。
床が抜けそうで当たり前だった薄くなっていた床板が蘇り、走っても踏み外して破れる恐れがなくなりました。部屋の個室ひとつひとつの畳が若返り、青くて瑞々しいい草の香りがします。
屋根も直った、これで食事中に濡れる心配をしなくてもいい。
「すごかったねえ……魔法修繕師さん」
「でも……本当にあんな人、雇うとなったら一時間につきどれくらいかかったんだろう」
真智ちゃんの言葉に、私は柘榴になんのお礼をするべきなんだろうと、困り果てることとなってしまった。
「……そう?」
「うん。私もさすがに貴族がなに考えてるのか知らないけど」
一般庶民には一般庶民の悩みがあるように、貴族には貴族の悩みがあるんだと思う。柘榴があんまりにも自信満々俺様キャラなせいで、こちらからだとなんにもわからないから、あくまで私の想像だけれど。
ところで。
「まだ新学期までもうしばらくあるから、もうちょっと悩もうと思ってるけど。真智ちゃんは? 番いないんでしょう?」
「うん……」
真智ちゃんは曖昧な顔をして笑った。
「私の番、怪我して退学しちゃったから……だから私もと組送りになっちゃった訳で」
「あれ、それ大丈夫なの?」
「私がいけなかったんだよ。私が体弱いから、相手におんぶに抱っこでさ」
そう彼女がしょんぼりしていたら、私はなんにも言えなくなってしまった。
動物の番と違い、連理学園での番は関係解消があっさりとし過ぎているのだ。私みたいに魔力がなくなったりとか、事故が原因で退学なんて、残念だけれど連理学園だったらそこまで珍しくない。
私の方もだけれど、真智ちゃんもちゃんと番が見つかればいいのに。
真智ちゃんは「私、体調が悪いから、いつも一番最後にお風呂もらっているから。先入ってきてね」と薦められ、私は女風呂に浸かりに行ってから、寝ることにした。
ただ寮を引っ越しただけなはずなのに。今日は一日いろんなことがあり過ぎて上手く頭でまとめられないや。
柘榴のことどうしようとか、番を探すのどうしようとか、寮の細々とした当番ちゃんとやらないととか、もういろいろとある。
頭がごちゃごちゃしたら、ひとまずは寝てから考える。
そう思うことにした。
****
座敷牢は年季がある寮だ。いや、それは綺麗なたとえ過ぎる。
「あーまーもーりー……!!」
引っ越して早々、大雨のせいで寮室だけでなく、廊下も食堂も雨漏りで水浸しだらけだ。私たちは慌てて雨漏り対策にブリキのバケツを並べ、濡れた場所は雑巾がけしていた。
「座敷牢で雨漏りしないの、図書館だけなんだよね……」
「そうなの!? というか、年季入った本ばかりあるんだから、そりゃそうなるのか……」
「うん。大昔の結界魔法が完璧過ぎて、未だに破られたことがないんだ」
今日の朝の掃除当番の私とつばめちゃんは、慌てて雨漏りの始末をし、終わった頃には朝ご飯が冷め切っていた。今日の朝ご飯は麦ご飯に卵焼きに味噌汁。温かったらもっとおいしかっただろうご飯は、冷え切っているとやや寂しい。
バケツを交換しつつ、私はつばめちゃんになんとはなしに話をしてみた。
「……柘榴についてどうしようと、ずっと悩んでる」
「ふうん……あくまで私はだけれど、鳳くん思っているよりいい人そうとは思ったかな」
「そう……?」
まあ、そっか。偉そうなしゃべり方している割には、別に横暴でもないし、私のことを馬鹿にするようなことも言ってこない。少なくとも育ちがいいんだろうなとは思った。
つばめちゃんは「あくまで私の意見だから、参考程度に留めてね」と言い置いてから、口を開いた。
「幻想種とか貴族とかって、結構一般庶民をシンプルに下に見てたりするから、少なくとも鳳くんからはそれはなかったなあと思ったんだよね」
「そっかあ……まあ、あいつはいい奴だとは私も思ったんだよ。まだちょっとしゃべっただけで、そんなこと決めつけていいのかはわからないけど。でもさあ。そんな貴族だろう人が、なんで私に求婚してきたのか、そこだけはわからない」
「それはそう……でも、これもあくまで私の思い付きだけど」
「うん」
つばめちゃんは私のほうをじぃーっと見つめた。
「シンプルにひと目惚れって線はないの?」
「ブッフォ!?」
思わずむせて、全身を使って咳をする。それに隣でつばめちゃんはあわあわとしはじめた。
「ちょっ……大丈夫澄子ちゃん!?」
「ゲホッゲホッ……ない! さすがにそれはないよっ!? だって幻想種だよ? 貴族だよ? いくらしがらみがないからって、私が孤児だって調べを付けもなお声をかけてくるなんて、なんか裏がないかって思わないかな!?」
「うーん……さすがにそればかりは私もわからないかな」
そうふたりで食堂の流しに食器を浸け、もうしばらくしたら食器を洗いはじめようかと言っていたときだった。
「なんじゃこりゃ!? 廊下に水溜まりできてるじゃねえか!!」
そう叫び声が聞こえた。
私はその声に「ヒャン」と悲鳴を上げる。つばめちゃんはその様子に口元に手を当てた。
「健気だね、鳳くん」
「ちょっと……雨降ってるでしょう!? なんでこんな日に来たの!?」
「おう澄子。番契約はあれだ。通い婚だと渡真利《とまり》が言ってた」
「誰だよトマリって!」
「俺様のダチだが」
この俺様に友達いたのかと、勝手に面食らう。
びしょびしょに濡れていたら可哀想だから、乾いているタオルでも探してきてやろうかと思ったのに、柘榴は全く濡れてはいなかったのに拍子抜けした。手元を見たら傘すらない。
「……傘もなしにどうやって森ん中まで入ってきたの?」
「雨なんて自分ひとりだったら結界魔法でどうにかなるだろ」
「ああ……」
貴族すごいなと、素直に感心してしまった。結界魔法は座敷牢の図書館とか国立博物館みたいに、ひとつの場所に固定すれば数百年でも持つような物が張れるけれど、雨とか川とか移動しながら結界を維持するのは技量がいる。
柘榴はなんだこいつとは思うものの、普通に腕のある魔道士なのだろうと感嘆したんだ。
「でも雨の中来られても……こっちはずっと雨漏りの始末をしてるのに」
「というか、こんな雨漏りしていたら、おちおち寝ることだってできねえだろ。修繕くらいしろよ」
「……あんた、思っているよりまともなこと言えるんだね?」
「なにを、澄子。俺様が寛容だからいいものの、さすがに失礼が過ぎるぞ」
私たちがしゃべっていると、後ろから見ていたつばめちゃんがポツンと言う。
「なんというか、澄子ちゃんと鳳くん。気が合うね? 夫婦漫才みたい」
「どこが!? なにが!?」
「澄子が許可出せば普通に夫婦になるんだがな」
「そんな漫才みたいなノリで求婚なんか成立すると思うなよ!?」
「でもそんなに澄子ちゃんが心配なら、座敷牢の屋根とかどうにかしてくれればいいのに。うち、連理学園の中でも重要ポジションのはずなのに、図書館以外の場所、ちっとも気を遣われてないから」
つばめちゃんのひと言に、柘榴は私のほうを見てきた。
「なによ」
「おい澄子。ここの寮の雨漏りがなくなったら喜ぶか?」
「んん? そりゃまあ。嬉しいけど。これじゃいつ教科書やノート駄目になるかわからないし。畳が濡れたら乾くまで時間かかるし、布団だって湿気ったら困るし」
「そうか、嬉しいんだな。喜ぶんだな。わかった」
言うだけ言うと、柘榴は「帰る!」と言ってそのまま元来た道を帰ってしまった。
前の中、バサバサと大きく羽を羽ばたかせて飛んでいるけれど、本当にどんな魔法の組み立て方をしているのか、全く濡れていなかった。
「はあ……柘榴、貴族とは言ってたけど、本当にすごい魔道士だったんだね。ますますわかんないや、私にわざわざ番申し込みしてきたの」
「なんだか可愛げがあるように見えてきたけどねえ」
つばめちゃんに言われたことで、なにやら飛んでいってしまったけれど。なにする気だろう。屋根が直ったら万々歳ではあるけれど、修繕工事なんてはじめようものなら、中に住んでいる私たちどうすればいいんだろう。
柘榴の意図がさっぱりわからず、私たちはしばらく窓の外を眺めていた。
****
昼ご飯に焼きそばを食べ、また廊下をモップがけしようかとつばめちゃんと真智ちゃんと話しているときだった。
「すみません、山内寮はこちらでよろしいでしょうか?」
「はい?」
寮長が困った顔で、座敷牢の玄関でしゃべっている。私たちが玄関に顔を出してみると、ローブに着物姿の男性たちがいた……あれ。
「……魔法修繕師?」
そりゃ工事せず、魔法で全部なんでもかんでも直せればうるさくないし、中に住んでいる私たちだって工事の間追い出されずに済むけれど。
でもそんな人たちはだいたい予定が埋まっていて、連理学園の校舎の方だったらいざ知らず、いくら連理学園の前身とはいえども座敷牢のほうになんか来ないだろう。
「ええ……魔法修繕師なんて、数年単位で予定が埋まってるんじゃ……なんでうちに?」
「……どう考えても柘榴のせいとは思うけど。あいつ、貴族のコネ使いやがった?」
「すごい、鳳くん太っ腹」
「……つばめちゃん、なんというか鳳くんに甘過ぎない? 澄子ちゃんもそんな感嘆に絆されちゃ駄目だよ、だって幻想種だよ? 貴族だよ? 私たちに逆らうなって見せしめしているのかもしれないじゃない」
「うん……そうかもしれないけどさ」
寮長はあわあわしながら魔法修繕師さんを座敷牢内に入れると、その人は「ふんふん」と言いながら、真っ直ぐに図書館の方へと向かった……あれ?
「あの……図書館は昔ながらの結界のおかげで、雨漏れ全然関係ないんですけど……」
つばめちゃんが思わず言うと、魔法修繕師さんがにこにこと笑った。
「いえ、それだけしっかりしている結界ならば、そこを核として、拡張すれば、この山内寮全体も覆えますよ。まずは雨漏りを一旦止めてから、修繕作業に入ろうかと」
そう言いながら、魔法修繕師さんは図書館に入ると、手に持っていた荷物を広げた。
羽が入っていて、それを並べて、魔力を流し込んで結界をどんどんと拡張していく。これが屋根を伝っていったおかげで、雨漏りは見事止まった。
「すごい……」
「そういう職業ですから。それじゃあ、修繕をはじめますね」
そう言いながら魔法修繕師さんが、ペタペタと座敷牢各所を回って修繕してくれた。てっきりもっと魔法で加工するのかと思っていたら、魔法修繕師さんいわく「ここは元々年季の入った寮ですから、魔力が篭もっています。そこの流れをよくすれば、自然と素材も若返りますし、その若返った素材の魔力を流し込めば、自然と形が直るのです」と教えてくれた。
一応一年時で理論は習っているものの、それを実践するのは骨が折れるのに、それをなんなくやって、魔法修繕師さんは帰っていった。
なんということでしょう。
床が抜けそうで当たり前だった薄くなっていた床板が蘇り、走っても踏み外して破れる恐れがなくなりました。部屋の個室ひとつひとつの畳が若返り、青くて瑞々しいい草の香りがします。
屋根も直った、これで食事中に濡れる心配をしなくてもいい。
「すごかったねえ……魔法修繕師さん」
「でも……本当にあんな人、雇うとなったら一時間につきどれくらいかかったんだろう」
真智ちゃんの言葉に、私は柘榴になんのお礼をするべきなんだろうと、困り果てることとなってしまった。



