比翼連理の翼を得て

 その日、私は柘榴の腕の中で眠った。
 本当になにもしてこなかったことに驚きつつ、むしろ安心して寝入ってしまった自分はどうかしていると思う。
 思えばここに泊まらせてもらったときも混乱して眠れなかったはずなのにスコンと眠りに落ちてしまったけれど。柘榴の匂いを嗅いでいたら安心しきってすぐに眠ってしまったのはどうかしている。
 どこか眠りが浅く、どれだけしんどくっても、指一本動かせないときでも意識があるのに。ましてや人の体温が近くにあったら落ち着いて眠れなかったはずなのに。それが柘榴を身内認定してしまったからなのか、夜会で怖い思いをしたせいでこいつにすがっているのか、自分でもわかっていなかった。
 私が目が覚めたとき、隣で柘榴がすやすやと眠っていた。眠っていてよだれのひとつでも垂らしてくれていたらよかったのに、全然そういうのもないんだから、反応に困る。

「私、あんたに慣れ過ぎてどうしようと思っているのに。上手く危機管理できなくなっている気がする」

 私は思わず柘榴の鼻を摘まむと、柘榴が眉間に皺を寄せて、口をパカンと開けた。そのまま私は柘榴に囁いた。

「私はあんたの邪魔になりたくないのに。わざわざ帝にまで宣言して、本当によかったの? それに……あんたの実家に言ってくれたから、小百合さんと佐代里さんが派遣された訳で。そこまで勝手してよかったの?」
「……クドい」

 いつものような覇気はなかったものの、柘榴の声がやんわりと返ってきたのに、私は目をパチパチとさせる。柘榴がうっすらと翠色の目を光らせて私を見つめてきたのだ。

「何度も何度も言っているだろう。お前は俺様の番だ。他のに渡すつもりはないし……なによりも俺様の腕の中で安心しきっているのが、お前が俺様を番と認めた証拠だろ。初めて会ったときはあんなに腰が引けていたというのに、今やすっかりと安心しきって身を預けてきて」
「……あんた、起きてたの」
「俺様と朝から睦言を交わしたかったのでは?」
「なっ……! だから、エッチなことはしないったら!」

 私が思わず叫ぶと、柘榴が「だから在学中はそんなことしない!」と顔を真っ赤にして返してくる。

「……睦言はなにも、交歓だけじゃないだろ。ふたりっきりで話し合っても睦言になるだろ。俺様の覚えが悪いか?」
「……いや、合ってるけど。そうなんだけど」
「で、なにを澄子は俺様と語り合いたいんだ?」
「……私があんたのせいで危機管理能力が上手く働かなくなったの、どうしてくれるのと思っただけ。私……卒業したあとも、ちゃんと生きないといけないのに、どうしてくれるのと思っただけで」
「またそれか」

 柘榴はそう言いながら、私の鼻を摘まんだ。私がしたのの意趣返しかと、思わずむっとする。

「俺様の傍にいろ。周りには根回しをしたから問題ない。外で働きたいというのなら、それもかまわんが、できる限り俺様が飛んで迎えに行ける距離でいてほしい。それじゃあ駄目か?」
「駄目というか……やっぱりあんたに迷惑かけてない?」
「俺様がお前がどこかに飛んでいかないかと不安なだけだ」

 本当に。こいつは私のどこを気に入ったんだろう。結局は額にキスをし、そこで話を打ち止めとした。話を逸らされたと判断したのか、柘榴は納得いかなさそうな顔で睨んできたが、なんにも話してくれないからお互い様だと思っておくことにする。
 その日の朝ご飯は、爺やさんが「今日はゆっくりと食べる時間がございますから」と、エッグベネディクトにカップスープ、デザートにはミルクプリンまで用意してくれた。
 マフィンは表面がさっくりして、囓るとしっとりしている。そこにかかった温泉卵にオランディーズソースが濃厚で、それを受け止めたマフィンがずっとおいしい。付け合わせに添えられたベーコンとレタスも濃い味をしっかりと受け止めておいしいんだ。
 カップスープはコンソメスープで、飲むとほっとした味がする。
 そしてデザートのミルクプリンも優しい味がして、本当に最初から最後までおいしくって、休みの日の朝ご飯にちょうどよかった。

「ごちそうさまです……爺やさん本当にありがとうございます。あんまり贅沢覚えたら戻れなくなりそうで……」
「いえいえ。また遊びに来てくださいませ」
「そうだ、あまり卑屈なことを言うな」
「……卑屈というか、わきまえないと駄目って思ってるだけなんだけどな」
「そういうのを卑屈と言うんだ。寮まで送る」
「うん。本当に、ありがとうございました」

 爺やさんにも何度もお礼を言ってから、私は柘榴に座敷牢に送ってもらうことにした。

****

 座敷牢では、既に朝ご飯を終えたらしく、食堂には誰もいない。
 せいぜい今日は休日だから、皆が皆、洗濯機に並んで溜め込んだ洗濯物を済ませているくらいで、終わった子たちは銘々自由時間を過ごしているようだった。
 私が柘榴に「ありがとう」とお礼を言ってから寮に帰ると「澄子ちゃん!」と慌ててつばめちゃんが走ってきた。

「お帰りなさい! 大丈夫だった?」
「大丈夫だったというか……なんか私にはもったいなさ過ぎてよくわからなかったというか。電話ありがとうね。返さないと」
「うん。なにもなかったのならよかったんだ……あの。鶴丸くんが澄子ちゃんにお話したいことがあるって言っているんだけど……大丈夫?」

 私が返した電話を受け取りつつ、つばめちゃんは妙に気遣わしげな態度を取る。普段はのんびりおっとりしている子だから、こうもおろおろしているのは珍しい。

「鶴丸くんが? 私なんかしたっけ」
「うん。図書館まで来て?」
「ええ? うん」

 図書館って。たしか座敷牢の結界の基点だけど、わざわざそこで話をしたいって。
 私はいぶかしげに思いながらも、鶴丸くんに話を聞きに行くことにした。