澄子から「幻想種について再調査したい」という申し出の許可を得て、鶴丸とつばめは授業の合間を縫っては図書館で司書に頼んで幻想種関連の古書を引っ張り出してきての調査を行っていた。
つばめは実家の魔道具屋に置いてある防音装置を取り出すと、それを作動させた。ただでさえ古書を広げたら他の図書館利用者たちに煙たい顔をされるのだから、番同士で会話しながら作業をする際には、どうしても防音魔法が必要だったが、この番はふたり揃って魔法が苦手な以上、魔道具に頼るしかない。ちなみにカンニングは禁止だが、魔道具の使用は連理学園でも普通に認められていた。
「ところで……鶴丸くん、この間の真智ちゃんと鳳くんの決闘を見て、なにをそこまで疑問に思ったの? たしかに澄子ちゃんはいくらなんでもニワトリにしては幻想種を周りに集め過ぎとは思うけど」
「はい。それどころか幻想種でもなかなか見ない托卵だの羽化だのの変わった現象も確認できました。そんな珍しい光景を確認できるとは、僕も幻想種の研究をはじめてから、人伝手に聞いたことはあっても、実際に確認できたことはありませんでしたからね。これはすごいことです」
「でも……たしかに澄子ちゃんが幻想種を集めるのはすごいことだけれど。これって偶然じゃないの? 鳳くんはそもそも実家のことを考えたら、よっぽどのことがない限り番契約なんて申し込まないけど、澄子ちゃんがたまたまフリーになったから声かけたって言っているし」
「まずそこで疑問に思ったんですよ」
「ええ? 澄子ちゃんに鳳くんが声をかけたところ?」
「違います。もっと根本的な問題です」
鶴丸の指摘に、つばめは顎に手を当て思案する。
「……番を解消したのは、魔力がなくなった事故からって聞いたけれど」
「はい、そこです。これ、本当に事故だったのかと疑問に思ったんですが、澄子さん周りに次々と幻想種が現れるまで確信が持てませんでした」
「……まさか」
そもそも澄子は、フリーにならない限り、次の番と契約はできない。そもそも連理学園で番契約の解消なんて、よっぽど互いの性格の不一致があったか、番が退学や休学でもして、これ以上番関係を維持できないと判断されない限りは、惰性で卒業までしているものだ。
鶴丸が頷いた。
「はい。澄子さんをフリーになった件の事故ですが……あれ本当に事故だったのかと疑問に思ったんです」
「で、でも……魔力が急になくなるなんて、そんなことはありえるの?」
「はい。普通だったら片翼がなくなって魔力が維持できなくなることはありえません。僕たちみたいに魔法が不得手な人間でも、魔力の放出や片翼の維持くらいはできますからね。ですから、その事故自体は、本当は事故ではなく、事件だったのではと、そう思ったんです」
澄子の魔力消失事故が、事故ではなく事件だったとしたら。話は大きく変わってくる。
事件だったとしたら、犯人がいるはずなのだから。
ずっと澄子の周りになにかと集まってくる幻想種……彼等は一般庶民では手も足も出ないほど権力も財力もあり、下手なことをすれば、一般庶民なんて簡単に息の根を止められる。
羽化するまで全く誰も幻想種だと気付くことのできなかった真智はともかく、なにかと澄子の顔を見にやってくる柘榴が基本的に偉そうなだけで心が広いから忘れがちだが、彼等は同じ学校にいなければ本来は話しかけることすら躊躇われるような貴族という立ち位置なのだ。
自然とつばめの声が震える。
「で、でもこれ……幻想種がなにか動くようなことが起こってるってことで……それ、調査して大丈夫なことなの? 澄子ちゃんもそうだけれど、まず私たちが大丈夫なの?」
「この調査は慎重に進めます。幸いなことに、僕が幻想種について研究調査していることはもう皆には触れ回っていますし、それでつばめさんを巻き込んでいることも皆知っている話ですから、そのあたりは問題ないと思います」
「それ本当にないのかな!?」
「防音魔法の結界を破るような魔法は、幻想種でも限られていますから、そこは問題ありません。ただ、澄子さんの魔力喪失事件を追っているということだけは、僕とつばめさんだけの話としておきましょう」
「……でも、それって。澄子ちゃんが許可してくれたからとはいえど、他に澄子ちゃんの元番の月谷くんあたりに話を聞くっていうのは、できないのかな?」
つばめは震えながらも意見を言う。それに鶴丸はメガネのブリッジに触れながら返す。
「こちらなんですが、月谷くんに尋ねても、真相まで辿り着くのは難しいかもわかりません」
「でも……月谷くんもその事件の当事者だよね? 澄子ちゃんの元番だし……」
「それなんですが。彼が事件の犯人から揺すぶりをかけられている可能性がありますから」
「……それは」
「はい。僕はこの一連の事件、幻想種がかかわっているんじゃないかと疑っているんです」
つばめは鶴丸の言い出したことに、ガクガクと震えていた。
自分の実家から持ってきた防音装置が、頼むから幻想種にもちゃんと効いてほしい。お願いだから悟られないでほしい。
そう思わなければやっていられなかった。
****
学校の図書館。
私はそこの中にある自習室で課題を広げて勉強していた。私は全く魔法が使えなくなった以上は、座学だけは落とす訳にはいかなかった。
幻想種だけのい組は私たち一般庶民がいるろ組以降とは授業内容が違うらしく、終わる時間もちょっとだけずれている。貴族って、私たちが思っている以上に覚えないといけないこと、やらないといけないカリキュラムが多くって大変らしい。
そこに連れて行かれた真智ちゃん、幻想種の常識を叩き込まれるところから再スタートらしいんだけど大丈夫なんだろうか。
そんなことを考えながら、今日の課題を終える。今日の課題は魔法史を読むために使われる魔法専用文字三種類の書き取りだ。時代や禁則事項によって文字が違うから、全部覚えないと古文書なんてまず読めないから大変だ。書き取りを終えたところで、柘榴が足早に「澄子」と声をかけてきた。
私は課題を鞄に片付けながら顔を上げた。
「お帰りなさい。今日は比較的早かったのね」
「まあな。前に言っていたこと覚えているか?」
「ええっと……どれのことだっけ?」
「夜会に出てくれないかという誘いだ」
「あー……言っていたね、そういえば。でも私、なにを着ていけばいいの? 制服?」
「学生は本来それが正装だ」
よかったあと、私は息を吐いた。服がダサイというのが原因で、社交界でまで訳のわからんやっかみを受けたらどうしようかと思った。
私がひとりで心底ほっとしていたら、「だが」と私のセーラー服を見た。真っ黒なセーラー服に赤いリボンタイ。
……もしかしなくっても、一般庶民だと見た目でわかるとまずいのか。
「俺様がお前に服を見繕ってもいいか?」
「いいっていうか……なにを買うの?」
「ドレスだ」
「ド……」
そりゃ私だって見たことはあるけれど、全部他人事のように思っていたから期待と思ったことが一度も無い。
なによりも、そんな服を見繕う的なお金は私は持っていない。
「無理……無理無理無理。そんなお金持ってない!」
「俺様の都合でお前を拘束する以上、買うのは俺様だが?」
「そういうことすぐ言うから!」
思わず悲鳴を上げたら、カウンターで作業をしていた司書さんから、短く「お静かに」と言われたので、私は口を抑えてカウンターに頭を下げると、いそいそと図書館を出てからやっと口を開いた。
「……私、あんたにそこまでしてもらう権利ないよ」
「だから言っただろう。俺様はお前の時間をいただく以上は、その時間に見合ったものを支払わないといけない。そもそも俺様の都合に合わせる以上、その時間のための服飾をこちらが支払うのは当然では?」
「ああ言えばこう言うなあ……でも、まあわかった」
さすがに私も、毎日送り迎えをしてもらっているから、これ以上逆らうのも気が引けた。
他の女子たちとも私は本当は喧嘩なんかしたくないし、わざわざ陰口を叩かれたくない。今は陰口を叩かれないし、座敷牢でも率先して当番をしているから普通に生活できているし、そこそこ気楽に生活できているのだ。
今の生活を守ってもらっている以上は、柘榴を立てるべきだろう。
私の言葉に、柘榴は「本当か?」とパッと顔を明るくさせると、私を抱えて飛びはじめた。
「じゃあ服飾店に向かうか」
「ちょっと待って……今から? 学校の外? 外出届とか必要じゃない?」
「問題ない。今日来ているはずだからな」
「なにが」
「テーラーだ」
それに私は「グゲエ」と悲鳴を上げた。
テーラーは仕立て屋さんのことだけど。まさか一回の夜会のために、ドレス一着仕立てるとか正気か!? 私は「おーろーしーてー!!」と悲鳴を上げた。
「なんでだ、夜会に出てくれると今了承したばかりだろ」
「聞いてない! 服をイチから仕立てるとか、今初めて聞いたから! 一般庶民は一回の夜会のためにドレスを一着仕立てるなんて経済感覚では生きてないの!」
「問題ないだろ。もしもお前が気に入ったのなら、そのドレスを部屋着にでもすればいい」
「夜会用ドレスを部屋着にして生活する奴がどこの世界にいますか! 貴族でも多分そんな非常識な人いないから!」
私がジタバタしている間に、だんだんと建物が見えてきた。
連理学園の敷地は、ぐるっと城壁で取り囲まれている。その城壁は外部業者や学校に授業参観に来た保護者が出入りする場所になっている。教科書を売りに来た本屋さんとか、購買部の備品を卸しに来た業者さんとかも出入りしている。そして業者が来ているということは、その幻想種が贔屓にしているというテーラーもここに来ている訳だ。
私も城壁には春休み期間に教科書を買いに行ったとき以来全然足を運んでいなかったけれど、柘榴が慣れた足取りで歩くのに着いていったら、見るからにエレガントな職人さんがいた。
「おや、鳳様。いらっしゃいませ。普段は学生服で夜会に参加ですのに」
「ああ。今日は番のドレスを見繕ってもらいに来た」
「おや……それはそれは、ご婚約おめでとうございます」
「まだ番になったばかりだ。あまり表で言いふらすなよ。澄子、この男は腕がいい。見てもらえ」
「ああ、はい」
そのテーラーさんはメーターで私の身長や3サイズを測り、私の肌を見ながら「この肌の色と鳳様と番ならば、青がお似合いかと思いますがいかがですか?」と尋ねられる。
私は「まあ、それで」と言いながら、サイズを測り終え、カウンセリングを終了させた。
「それでは鳳様、明日にはできます」
「そうか、頼んだぞ」
「えっ、早い」
思わず声を上げると、柘榴が教えてくれた。
「あの手の服は職人の魔法でいくらでもできる」
「魔道士でもオートクチュールの服を一気に縫う魔法なんて、かなり時間がかかると思うけど……」
「だから職人なんだ」
なるほど。魔法ってすごい。
魔法の基礎知識だけ現在進行形で頭に叩き込んでいる最中の私は、素直に感心してしまった。
つばめは実家の魔道具屋に置いてある防音装置を取り出すと、それを作動させた。ただでさえ古書を広げたら他の図書館利用者たちに煙たい顔をされるのだから、番同士で会話しながら作業をする際には、どうしても防音魔法が必要だったが、この番はふたり揃って魔法が苦手な以上、魔道具に頼るしかない。ちなみにカンニングは禁止だが、魔道具の使用は連理学園でも普通に認められていた。
「ところで……鶴丸くん、この間の真智ちゃんと鳳くんの決闘を見て、なにをそこまで疑問に思ったの? たしかに澄子ちゃんはいくらなんでもニワトリにしては幻想種を周りに集め過ぎとは思うけど」
「はい。それどころか幻想種でもなかなか見ない托卵だの羽化だのの変わった現象も確認できました。そんな珍しい光景を確認できるとは、僕も幻想種の研究をはじめてから、人伝手に聞いたことはあっても、実際に確認できたことはありませんでしたからね。これはすごいことです」
「でも……たしかに澄子ちゃんが幻想種を集めるのはすごいことだけれど。これって偶然じゃないの? 鳳くんはそもそも実家のことを考えたら、よっぽどのことがない限り番契約なんて申し込まないけど、澄子ちゃんがたまたまフリーになったから声かけたって言っているし」
「まずそこで疑問に思ったんですよ」
「ええ? 澄子ちゃんに鳳くんが声をかけたところ?」
「違います。もっと根本的な問題です」
鶴丸の指摘に、つばめは顎に手を当て思案する。
「……番を解消したのは、魔力がなくなった事故からって聞いたけれど」
「はい、そこです。これ、本当に事故だったのかと疑問に思ったんですが、澄子さん周りに次々と幻想種が現れるまで確信が持てませんでした」
「……まさか」
そもそも澄子は、フリーにならない限り、次の番と契約はできない。そもそも連理学園で番契約の解消なんて、よっぽど互いの性格の不一致があったか、番が退学や休学でもして、これ以上番関係を維持できないと判断されない限りは、惰性で卒業までしているものだ。
鶴丸が頷いた。
「はい。澄子さんをフリーになった件の事故ですが……あれ本当に事故だったのかと疑問に思ったんです」
「で、でも……魔力が急になくなるなんて、そんなことはありえるの?」
「はい。普通だったら片翼がなくなって魔力が維持できなくなることはありえません。僕たちみたいに魔法が不得手な人間でも、魔力の放出や片翼の維持くらいはできますからね。ですから、その事故自体は、本当は事故ではなく、事件だったのではと、そう思ったんです」
澄子の魔力消失事故が、事故ではなく事件だったとしたら。話は大きく変わってくる。
事件だったとしたら、犯人がいるはずなのだから。
ずっと澄子の周りになにかと集まってくる幻想種……彼等は一般庶民では手も足も出ないほど権力も財力もあり、下手なことをすれば、一般庶民なんて簡単に息の根を止められる。
羽化するまで全く誰も幻想種だと気付くことのできなかった真智はともかく、なにかと澄子の顔を見にやってくる柘榴が基本的に偉そうなだけで心が広いから忘れがちだが、彼等は同じ学校にいなければ本来は話しかけることすら躊躇われるような貴族という立ち位置なのだ。
自然とつばめの声が震える。
「で、でもこれ……幻想種がなにか動くようなことが起こってるってことで……それ、調査して大丈夫なことなの? 澄子ちゃんもそうだけれど、まず私たちが大丈夫なの?」
「この調査は慎重に進めます。幸いなことに、僕が幻想種について研究調査していることはもう皆には触れ回っていますし、それでつばめさんを巻き込んでいることも皆知っている話ですから、そのあたりは問題ないと思います」
「それ本当にないのかな!?」
「防音魔法の結界を破るような魔法は、幻想種でも限られていますから、そこは問題ありません。ただ、澄子さんの魔力喪失事件を追っているということだけは、僕とつばめさんだけの話としておきましょう」
「……でも、それって。澄子ちゃんが許可してくれたからとはいえど、他に澄子ちゃんの元番の月谷くんあたりに話を聞くっていうのは、できないのかな?」
つばめは震えながらも意見を言う。それに鶴丸はメガネのブリッジに触れながら返す。
「こちらなんですが、月谷くんに尋ねても、真相まで辿り着くのは難しいかもわかりません」
「でも……月谷くんもその事件の当事者だよね? 澄子ちゃんの元番だし……」
「それなんですが。彼が事件の犯人から揺すぶりをかけられている可能性がありますから」
「……それは」
「はい。僕はこの一連の事件、幻想種がかかわっているんじゃないかと疑っているんです」
つばめは鶴丸の言い出したことに、ガクガクと震えていた。
自分の実家から持ってきた防音装置が、頼むから幻想種にもちゃんと効いてほしい。お願いだから悟られないでほしい。
そう思わなければやっていられなかった。
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学校の図書館。
私はそこの中にある自習室で課題を広げて勉強していた。私は全く魔法が使えなくなった以上は、座学だけは落とす訳にはいかなかった。
幻想種だけのい組は私たち一般庶民がいるろ組以降とは授業内容が違うらしく、終わる時間もちょっとだけずれている。貴族って、私たちが思っている以上に覚えないといけないこと、やらないといけないカリキュラムが多くって大変らしい。
そこに連れて行かれた真智ちゃん、幻想種の常識を叩き込まれるところから再スタートらしいんだけど大丈夫なんだろうか。
そんなことを考えながら、今日の課題を終える。今日の課題は魔法史を読むために使われる魔法専用文字三種類の書き取りだ。時代や禁則事項によって文字が違うから、全部覚えないと古文書なんてまず読めないから大変だ。書き取りを終えたところで、柘榴が足早に「澄子」と声をかけてきた。
私は課題を鞄に片付けながら顔を上げた。
「お帰りなさい。今日は比較的早かったのね」
「まあな。前に言っていたこと覚えているか?」
「ええっと……どれのことだっけ?」
「夜会に出てくれないかという誘いだ」
「あー……言っていたね、そういえば。でも私、なにを着ていけばいいの? 制服?」
「学生は本来それが正装だ」
よかったあと、私は息を吐いた。服がダサイというのが原因で、社交界でまで訳のわからんやっかみを受けたらどうしようかと思った。
私がひとりで心底ほっとしていたら、「だが」と私のセーラー服を見た。真っ黒なセーラー服に赤いリボンタイ。
……もしかしなくっても、一般庶民だと見た目でわかるとまずいのか。
「俺様がお前に服を見繕ってもいいか?」
「いいっていうか……なにを買うの?」
「ドレスだ」
「ド……」
そりゃ私だって見たことはあるけれど、全部他人事のように思っていたから期待と思ったことが一度も無い。
なによりも、そんな服を見繕う的なお金は私は持っていない。
「無理……無理無理無理。そんなお金持ってない!」
「俺様の都合でお前を拘束する以上、買うのは俺様だが?」
「そういうことすぐ言うから!」
思わず悲鳴を上げたら、カウンターで作業をしていた司書さんから、短く「お静かに」と言われたので、私は口を抑えてカウンターに頭を下げると、いそいそと図書館を出てからやっと口を開いた。
「……私、あんたにそこまでしてもらう権利ないよ」
「だから言っただろう。俺様はお前の時間をいただく以上は、その時間に見合ったものを支払わないといけない。そもそも俺様の都合に合わせる以上、その時間のための服飾をこちらが支払うのは当然では?」
「ああ言えばこう言うなあ……でも、まあわかった」
さすがに私も、毎日送り迎えをしてもらっているから、これ以上逆らうのも気が引けた。
他の女子たちとも私は本当は喧嘩なんかしたくないし、わざわざ陰口を叩かれたくない。今は陰口を叩かれないし、座敷牢でも率先して当番をしているから普通に生活できているし、そこそこ気楽に生活できているのだ。
今の生活を守ってもらっている以上は、柘榴を立てるべきだろう。
私の言葉に、柘榴は「本当か?」とパッと顔を明るくさせると、私を抱えて飛びはじめた。
「じゃあ服飾店に向かうか」
「ちょっと待って……今から? 学校の外? 外出届とか必要じゃない?」
「問題ない。今日来ているはずだからな」
「なにが」
「テーラーだ」
それに私は「グゲエ」と悲鳴を上げた。
テーラーは仕立て屋さんのことだけど。まさか一回の夜会のために、ドレス一着仕立てるとか正気か!? 私は「おーろーしーてー!!」と悲鳴を上げた。
「なんでだ、夜会に出てくれると今了承したばかりだろ」
「聞いてない! 服をイチから仕立てるとか、今初めて聞いたから! 一般庶民は一回の夜会のためにドレスを一着仕立てるなんて経済感覚では生きてないの!」
「問題ないだろ。もしもお前が気に入ったのなら、そのドレスを部屋着にでもすればいい」
「夜会用ドレスを部屋着にして生活する奴がどこの世界にいますか! 貴族でも多分そんな非常識な人いないから!」
私がジタバタしている間に、だんだんと建物が見えてきた。
連理学園の敷地は、ぐるっと城壁で取り囲まれている。その城壁は外部業者や学校に授業参観に来た保護者が出入りする場所になっている。教科書を売りに来た本屋さんとか、購買部の備品を卸しに来た業者さんとかも出入りしている。そして業者が来ているということは、その幻想種が贔屓にしているというテーラーもここに来ている訳だ。
私も城壁には春休み期間に教科書を買いに行ったとき以来全然足を運んでいなかったけれど、柘榴が慣れた足取りで歩くのに着いていったら、見るからにエレガントな職人さんがいた。
「おや、鳳様。いらっしゃいませ。普段は学生服で夜会に参加ですのに」
「ああ。今日は番のドレスを見繕ってもらいに来た」
「おや……それはそれは、ご婚約おめでとうございます」
「まだ番になったばかりだ。あまり表で言いふらすなよ。澄子、この男は腕がいい。見てもらえ」
「ああ、はい」
そのテーラーさんはメーターで私の身長や3サイズを測り、私の肌を見ながら「この肌の色と鳳様と番ならば、青がお似合いかと思いますがいかがですか?」と尋ねられる。
私は「まあ、それで」と言いながら、サイズを測り終え、カウンセリングを終了させた。
「それでは鳳様、明日にはできます」
「そうか、頼んだぞ」
「えっ、早い」
思わず声を上げると、柘榴が教えてくれた。
「あの手の服は職人の魔法でいくらでもできる」
「魔道士でもオートクチュールの服を一気に縫う魔法なんて、かなり時間がかかると思うけど……」
「だから職人なんだ」
なるほど。魔法ってすごい。
魔法の基礎知識だけ現在進行形で頭に叩き込んでいる最中の私は、素直に感心してしまった。



