私が柘榴の腕の中にいる中、一応確認する。
「真智ちゃんはちゃんと今の戦いが終わったら話をしたいけど……あんたは大丈夫なの?」
「なにがだ」
「……私、あんたの近くにいて平気? 重くない?」
柘榴はあまりにも私をたやすく抱えているし、全く不安にならないくらいにしっかりしているから、余計に無理してないか気になった。それに柘榴は「はんっ」と笑った。
「問題ない。そもそも澄子は軽過ぎるし、俺様の魔力を侮るな。これくらい平気だ」
「……別に軽いこともないんだけどな。あと、私を抱えてて、あんたは邪魔じゃない?」
「それも問題ない。そもそも相手だって、お前との契約更新が目的なのだから、お前には危害を加えない。そして俺様としても、決闘している中で第三者にお前をかっさらわれる心配をしないで済むから、現状のほうがマシだ」
「……決闘の最中にわざわざ乱入してくる人なんているのかな。でもわかった。なら後のことはあんたに任せる」
「おう、任された」
そう言いながら、柘榴は手に火を纏った。
なんでもいいけど、私を守護する魔法はボヤ騒ぎを起こしたというのに、柘榴は火を使っていても森を焼かないんだ。
対して真智ちゃんの風は、次から次へと森の梢や幹を傷付けていき、明日あたりにでも学園側からクレームが入るんじゃないかとヒヤヒヤする。
幼少期から魔力制御を学んできた貴族と、羽化するまでは一般庶民と変わらなかった托卵の子。幻想種でも、育ちでここまで変わるんだと唖然とする。
それはさておいて。真智ちゃんが繰り出してくるかまいたちを柘榴はいなしつつも、真智ちゃんへ一切反撃をしない。私としては真智ちゃんが怪我しないからありがたいけど。
「なによ……反撃しなくっても余裕だと言いたいの?」
真智ちゃんがイラッとした顔をしながら、風を手に纏わせている。手にふたつガンドレッドのように風を纏わせてこちらに突進してくるのを、柘榴は炎のベールをつくって牽制し、風を打ち消してしまう。
……あれだ、竜巻は基本的に空気中の水分が温められることで発生させるから、熱で水分を飛ばしてしまったら消えてしまうんだ。
あまりにも文字通りの片手間でやるのを、真智ちゃんは歯噛みして怒鳴る。
「なによ! こちらを馬鹿にして……!」
「馬鹿にはしてない。だが、羽化したばかりでお前の魔力はまだ体に馴染んでいない。いくら幻想種とはいえど、あまり派手に魔力を消耗したら最悪死ぬぞ?」
柘榴は淡々とそう言い切る。
ああ。私は思わず柘榴の表情を見た。
柘榴が一度も真智ちゃんに向かって攻撃しなかったのは、真智ちゃんが幻想種になりたてだから、魔力が馴染むのを待っていてくれたんだ。
魔法の強さは魔力の制御によって変わってくる。当然ながら生まれたときから膨大な魔力を制御する方向で育てられる貴族だと、魔力の制御も練度も高いけれど……一般庶民はそもそも魔法学校に入らないことには魔力の制御法を学ばないから、そこまで制御も練度もできない。せいぜい、魔力を放出しまくったら魔法が使えるというのを、魔力があるのを発見したら習う程度で。
今の真智ちゃんは、羽化したてでホルモンバランスも滅茶苦茶で……自分の膨大な魔力に酔っている状態だから。こんなところで魔力を使い切ったら。
私が真智ちゃんのほうを見たら、真智ちゃんは柘榴のほうを睨み付けた。
「なによ! なにも知らない癖に。なにもかも持ち合わせているのに、番までかっさらうの? 冗談じゃない……!」
「貴様がなにを抱えているかまでは、俺様も知らん。だが、澄子に断られた方と、澄子に受け入れてもらった方。その違いが今だ。お前は選ばれなかった。それだけだ」
「なによ!」
「真智ちゃん!」
私はどう言えば真智ちゃんの怒りを抑えられるのかがわからなかったものの、声をかけることしか思いつかなかった。
なにをそこまで私にこだわったのか、私だって知らないけど。でも座敷牢に来てからずっと世話になっていた事実だけは変わらない。
「あのね、私は真智ちゃんに死んでほしくない! そもそも、どうして私と番契約したかったの!?」
「だって……だって、欲しかったんだもん」
「欲しかったって……」
「なにも持ってなくっても……魔力がなくっても、座敷牢に引っ越してきて本当に教科書と少しばかりの私服以外なにも持っていなくっても、背筋真っ直ぐな澄子ちゃんが綺麗だったから……欲しかったんだもんっ」
それはあまりに切実な言葉だった。
もしも。もしも私が柘榴から番申し込みの内容を聞いていなかったら、今の言葉で間違いなく番契約していただろうと思う。
でも。私は既に柘榴から番申し込みの際に、彼から理由を聞いている。
「……ごめんね、真智ちゃん。その言葉は嬉しい。でもね、先に私、柘榴から似たような言葉を聞いているんだ」
私にはなにもない。魔力もない、家族もない、お金もない。ないない尽くしの私に「根性がある」と柘榴が言ってくれた言葉が、私には響いたんだ。
順番が逆だったら結果は違うかもしれないけれど……今の私の番は柘榴だ。
それに、真智ちゃんは泣いた。
「うっ……うううっ……うううううっ……いや、いやいやいや、いや……認めな……認めない……認めないからぁああああああああああ!!」
途端に風が膨張した。
座敷牢の窓縁がミチミチと鳴り響き、このままだと飛ばされてしまいそう……いくら柘榴の爺やさんが修繕魔法を使ってくれているとはいえど、限度ってものがあるでしょう!?
それに柘榴が「ちっ」と舌打ちをした。
「魔力切れまで待つつもりだったがな……一発で決着を付けないと爺やが修繕した魔法すらもたない。澄子、やってもいいな?」
「……っ」
私は座敷牢のほうに振り返った。
そりゃもう、座敷牢の面々は大騒ぎしながら対処しようとしている。全員が全員、いわゆる落ちこぼれであり、いくら知識はあっても、実践魔法がほとんど使えない子ばかりだ。このままだったら、間違いなく座敷牢が潰れる。
「……真智ちゃんごめん。柘榴、お願い」
「わかった」
そう言いながら、柘榴は大きく翼を羽ばたかせた。
炎の翼が、真智ちゃんの膨張する風の勢いをどんどんと殺していく。それに真智ちゃんは魔力を込めて抗うけれど、魔力の精度は柘榴のほうが強い。どんどんと風は削れていき……やがて、真智ちゃんの全身を覆っていた魔力が、完全に解けてしまった。
「あ……ら?」
そのまま真智ちゃんが森の中に落ちていく。
私はそれに柘榴の髪を引っ掴んだ。
「お願い柘榴、真智ちゃんを、助けて!」
「ほんっとうに甘いな、澄子は。まあ、そのほうが澄子らしい。森の中を飛ぶから、舌を噛むなよ」
「うん……うぐっ……!」
柘榴は今まで、本当に加減してくれていたんだというくらいの猛スピードで森の中をすり抜けていった。
途中で髪が梢や枝に引っかかり、ブチブチと毛根が千切れていくけれど、それよりも真智ちゃんがどこかの木に突き刺さっていないかのほうが心配だった。
「真智ちゃん! 真智ちゃん……!」
「おい、もう決闘は終わったはずだ、こちらも決闘が終わった以上は手出しをする気はない」
ふたりで真っ黒な森を捜し回る。幸いというべきか、柘榴の翼の赤々とした光のおかげで、かろうじて光源はあるから、視界がかろうじて開けていた。
やがて、木の枝にスウェットが引っかかってかろうじて無事な真智ちゃんを見つけた。
「真智ちゃん……!」
「……うう、失敗。しちゃった……」
「降ろすぞ」
真智ちゃんはぐったりとしていた。これはもう、魔力が枯渇しかかっているから、もう魔法が使えない奴だ。
柘榴は黙って炎の翼を一本引っこ抜くと、それを手の中で練りはじめた。
「それ……」
「言っておくが、俺様はまだお前を信用した訳じゃない。澄子の寝込みを襲ったことそのものについては全く許してはないからな。だが、澄子が助けてという以上は助ける。それだけだ」
柘榴が練り上げたのは、霊薬……そっか、元々柘榴は鳳凰の両翼だから。鳳凰の羽は霊薬の材料になるとされるほどの貴重なものであり、帝の守護者を務める家系な以上は、治癒魔法やそれに値する魔法を会得しているのは当たり前の話だった。
真智ちゃんがボロボロな中、柘榴は黙って霊薬を真智ちゃんの口に突っ込んだ。
「うう……まずい……」
「良薬口に苦しだ。我慢して飲め……」
「……おかしな人、澄子ちゃんを奪い合うライバルを消すチャンスだったのに、それを不意にするなんて……私、これで助けてもらったなんて思わないわよ?」
「やかましい。俺様は澄子の意を汲んだまでだ。礼は澄子にでも言ってやれ」
「そう……澄子ちゃん」
「……私、なにもしてない。そもそも、私は真智ちゃんが言うほど格好いい人間とは思ってないよ。そうじゃないと生きられなかっただけだから」
今だって、なんで私のために柘榴と真智ちゃんが決闘しているんだと納得できてないんだから。それに真智ちゃんはクスクスと笑った。
「だって、自分のことで精一杯の人って、自分のこと以外どうでもいいのよ? 本当に。自分の保身が第一なんだから」
「……それはよくわかる。私だって、柘榴に番契約申し込まれても保身に走ってなかなか承諾しなかったし」
「でも澄子ちゃんあれでしょう? どうせ座敷牢の皆に迷惑かかるのヤダって思ったでしょう? 私の帰る場所なのに座敷牢壊しかけた私とは大違い」
「そこまで言うことなのかな……」
私はそこまで褒められるほど上等の人間とは思えないけれど、その気持ちだけは受け取っておこうと思った。
そんな中、森の中にガサガサと音が響いた。
「夜中に決闘とは何事ですか……!!」
先生たちだった。
どうも座敷牢の子たちがこのままだと座敷牢が壊されると判断したから、宿直の先生を呼び出したらしい。
結果として、真智ちゃんと私が同室なのはまずいに加えて、真智ちゃんが幻想種に羽化した以上は幻想種の教育受けさせないとまずいということで、そのまま連行されることとなってしまった。
そして私はというと。
寮室はボロボロだし、バケツの水をひっくり返したからびしょ濡れで、とてもじゃないけど眠れる状態じゃなかった。
「どうしよう……」
「澄子ちゃん、私の部屋来る?」
心配したつばめちゃんに言われたものの。つばめちゃんの部屋も狭いのに、これ以上狭くなったら寝返りも打てなくなっちゃう。
私が渋っていたら「なら澄子」と柘榴が言う。
「俺の寮に来るか?」
「…………はあ?」
思わず声が出てしまった。
「真智ちゃんはちゃんと今の戦いが終わったら話をしたいけど……あんたは大丈夫なの?」
「なにがだ」
「……私、あんたの近くにいて平気? 重くない?」
柘榴はあまりにも私をたやすく抱えているし、全く不安にならないくらいにしっかりしているから、余計に無理してないか気になった。それに柘榴は「はんっ」と笑った。
「問題ない。そもそも澄子は軽過ぎるし、俺様の魔力を侮るな。これくらい平気だ」
「……別に軽いこともないんだけどな。あと、私を抱えてて、あんたは邪魔じゃない?」
「それも問題ない。そもそも相手だって、お前との契約更新が目的なのだから、お前には危害を加えない。そして俺様としても、決闘している中で第三者にお前をかっさらわれる心配をしないで済むから、現状のほうがマシだ」
「……決闘の最中にわざわざ乱入してくる人なんているのかな。でもわかった。なら後のことはあんたに任せる」
「おう、任された」
そう言いながら、柘榴は手に火を纏った。
なんでもいいけど、私を守護する魔法はボヤ騒ぎを起こしたというのに、柘榴は火を使っていても森を焼かないんだ。
対して真智ちゃんの風は、次から次へと森の梢や幹を傷付けていき、明日あたりにでも学園側からクレームが入るんじゃないかとヒヤヒヤする。
幼少期から魔力制御を学んできた貴族と、羽化するまでは一般庶民と変わらなかった托卵の子。幻想種でも、育ちでここまで変わるんだと唖然とする。
それはさておいて。真智ちゃんが繰り出してくるかまいたちを柘榴はいなしつつも、真智ちゃんへ一切反撃をしない。私としては真智ちゃんが怪我しないからありがたいけど。
「なによ……反撃しなくっても余裕だと言いたいの?」
真智ちゃんがイラッとした顔をしながら、風を手に纏わせている。手にふたつガンドレッドのように風を纏わせてこちらに突進してくるのを、柘榴は炎のベールをつくって牽制し、風を打ち消してしまう。
……あれだ、竜巻は基本的に空気中の水分が温められることで発生させるから、熱で水分を飛ばしてしまったら消えてしまうんだ。
あまりにも文字通りの片手間でやるのを、真智ちゃんは歯噛みして怒鳴る。
「なによ! こちらを馬鹿にして……!」
「馬鹿にはしてない。だが、羽化したばかりでお前の魔力はまだ体に馴染んでいない。いくら幻想種とはいえど、あまり派手に魔力を消耗したら最悪死ぬぞ?」
柘榴は淡々とそう言い切る。
ああ。私は思わず柘榴の表情を見た。
柘榴が一度も真智ちゃんに向かって攻撃しなかったのは、真智ちゃんが幻想種になりたてだから、魔力が馴染むのを待っていてくれたんだ。
魔法の強さは魔力の制御によって変わってくる。当然ながら生まれたときから膨大な魔力を制御する方向で育てられる貴族だと、魔力の制御も練度も高いけれど……一般庶民はそもそも魔法学校に入らないことには魔力の制御法を学ばないから、そこまで制御も練度もできない。せいぜい、魔力を放出しまくったら魔法が使えるというのを、魔力があるのを発見したら習う程度で。
今の真智ちゃんは、羽化したてでホルモンバランスも滅茶苦茶で……自分の膨大な魔力に酔っている状態だから。こんなところで魔力を使い切ったら。
私が真智ちゃんのほうを見たら、真智ちゃんは柘榴のほうを睨み付けた。
「なによ! なにも知らない癖に。なにもかも持ち合わせているのに、番までかっさらうの? 冗談じゃない……!」
「貴様がなにを抱えているかまでは、俺様も知らん。だが、澄子に断られた方と、澄子に受け入れてもらった方。その違いが今だ。お前は選ばれなかった。それだけだ」
「なによ!」
「真智ちゃん!」
私はどう言えば真智ちゃんの怒りを抑えられるのかがわからなかったものの、声をかけることしか思いつかなかった。
なにをそこまで私にこだわったのか、私だって知らないけど。でも座敷牢に来てからずっと世話になっていた事実だけは変わらない。
「あのね、私は真智ちゃんに死んでほしくない! そもそも、どうして私と番契約したかったの!?」
「だって……だって、欲しかったんだもん」
「欲しかったって……」
「なにも持ってなくっても……魔力がなくっても、座敷牢に引っ越してきて本当に教科書と少しばかりの私服以外なにも持っていなくっても、背筋真っ直ぐな澄子ちゃんが綺麗だったから……欲しかったんだもんっ」
それはあまりに切実な言葉だった。
もしも。もしも私が柘榴から番申し込みの内容を聞いていなかったら、今の言葉で間違いなく番契約していただろうと思う。
でも。私は既に柘榴から番申し込みの際に、彼から理由を聞いている。
「……ごめんね、真智ちゃん。その言葉は嬉しい。でもね、先に私、柘榴から似たような言葉を聞いているんだ」
私にはなにもない。魔力もない、家族もない、お金もない。ないない尽くしの私に「根性がある」と柘榴が言ってくれた言葉が、私には響いたんだ。
順番が逆だったら結果は違うかもしれないけれど……今の私の番は柘榴だ。
それに、真智ちゃんは泣いた。
「うっ……うううっ……うううううっ……いや、いやいやいや、いや……認めな……認めない……認めないからぁああああああああああ!!」
途端に風が膨張した。
座敷牢の窓縁がミチミチと鳴り響き、このままだと飛ばされてしまいそう……いくら柘榴の爺やさんが修繕魔法を使ってくれているとはいえど、限度ってものがあるでしょう!?
それに柘榴が「ちっ」と舌打ちをした。
「魔力切れまで待つつもりだったがな……一発で決着を付けないと爺やが修繕した魔法すらもたない。澄子、やってもいいな?」
「……っ」
私は座敷牢のほうに振り返った。
そりゃもう、座敷牢の面々は大騒ぎしながら対処しようとしている。全員が全員、いわゆる落ちこぼれであり、いくら知識はあっても、実践魔法がほとんど使えない子ばかりだ。このままだったら、間違いなく座敷牢が潰れる。
「……真智ちゃんごめん。柘榴、お願い」
「わかった」
そう言いながら、柘榴は大きく翼を羽ばたかせた。
炎の翼が、真智ちゃんの膨張する風の勢いをどんどんと殺していく。それに真智ちゃんは魔力を込めて抗うけれど、魔力の精度は柘榴のほうが強い。どんどんと風は削れていき……やがて、真智ちゃんの全身を覆っていた魔力が、完全に解けてしまった。
「あ……ら?」
そのまま真智ちゃんが森の中に落ちていく。
私はそれに柘榴の髪を引っ掴んだ。
「お願い柘榴、真智ちゃんを、助けて!」
「ほんっとうに甘いな、澄子は。まあ、そのほうが澄子らしい。森の中を飛ぶから、舌を噛むなよ」
「うん……うぐっ……!」
柘榴は今まで、本当に加減してくれていたんだというくらいの猛スピードで森の中をすり抜けていった。
途中で髪が梢や枝に引っかかり、ブチブチと毛根が千切れていくけれど、それよりも真智ちゃんがどこかの木に突き刺さっていないかのほうが心配だった。
「真智ちゃん! 真智ちゃん……!」
「おい、もう決闘は終わったはずだ、こちらも決闘が終わった以上は手出しをする気はない」
ふたりで真っ黒な森を捜し回る。幸いというべきか、柘榴の翼の赤々とした光のおかげで、かろうじて光源はあるから、視界がかろうじて開けていた。
やがて、木の枝にスウェットが引っかかってかろうじて無事な真智ちゃんを見つけた。
「真智ちゃん……!」
「……うう、失敗。しちゃった……」
「降ろすぞ」
真智ちゃんはぐったりとしていた。これはもう、魔力が枯渇しかかっているから、もう魔法が使えない奴だ。
柘榴は黙って炎の翼を一本引っこ抜くと、それを手の中で練りはじめた。
「それ……」
「言っておくが、俺様はまだお前を信用した訳じゃない。澄子の寝込みを襲ったことそのものについては全く許してはないからな。だが、澄子が助けてという以上は助ける。それだけだ」
柘榴が練り上げたのは、霊薬……そっか、元々柘榴は鳳凰の両翼だから。鳳凰の羽は霊薬の材料になるとされるほどの貴重なものであり、帝の守護者を務める家系な以上は、治癒魔法やそれに値する魔法を会得しているのは当たり前の話だった。
真智ちゃんがボロボロな中、柘榴は黙って霊薬を真智ちゃんの口に突っ込んだ。
「うう……まずい……」
「良薬口に苦しだ。我慢して飲め……」
「……おかしな人、澄子ちゃんを奪い合うライバルを消すチャンスだったのに、それを不意にするなんて……私、これで助けてもらったなんて思わないわよ?」
「やかましい。俺様は澄子の意を汲んだまでだ。礼は澄子にでも言ってやれ」
「そう……澄子ちゃん」
「……私、なにもしてない。そもそも、私は真智ちゃんが言うほど格好いい人間とは思ってないよ。そうじゃないと生きられなかっただけだから」
今だって、なんで私のために柘榴と真智ちゃんが決闘しているんだと納得できてないんだから。それに真智ちゃんはクスクスと笑った。
「だって、自分のことで精一杯の人って、自分のこと以外どうでもいいのよ? 本当に。自分の保身が第一なんだから」
「……それはよくわかる。私だって、柘榴に番契約申し込まれても保身に走ってなかなか承諾しなかったし」
「でも澄子ちゃんあれでしょう? どうせ座敷牢の皆に迷惑かかるのヤダって思ったでしょう? 私の帰る場所なのに座敷牢壊しかけた私とは大違い」
「そこまで言うことなのかな……」
私はそこまで褒められるほど上等の人間とは思えないけれど、その気持ちだけは受け取っておこうと思った。
そんな中、森の中にガサガサと音が響いた。
「夜中に決闘とは何事ですか……!!」
先生たちだった。
どうも座敷牢の子たちがこのままだと座敷牢が壊されると判断したから、宿直の先生を呼び出したらしい。
結果として、真智ちゃんと私が同室なのはまずいに加えて、真智ちゃんが幻想種に羽化した以上は幻想種の教育受けさせないとまずいということで、そのまま連行されることとなってしまった。
そして私はというと。
寮室はボロボロだし、バケツの水をひっくり返したからびしょ濡れで、とてもじゃないけど眠れる状態じゃなかった。
「どうしよう……」
「澄子ちゃん、私の部屋来る?」
心配したつばめちゃんに言われたものの。つばめちゃんの部屋も狭いのに、これ以上狭くなったら寝返りも打てなくなっちゃう。
私が渋っていたら「なら澄子」と柘榴が言う。
「俺の寮に来るか?」
「…………はあ?」
思わず声が出てしまった。



