23:59 - 恋はいつも、あと1分だった。-

終電まで、あと2分。

彼女は改札の前で立ち止まった。

「じゃあね。」

いつも通りの言葉。

いつも通りの笑顔。

だけど今日だけは、何かが違った。

この春、彼女は地元へ帰る。

もう、こうして会えることはない。

分かっていたはずなのに、何も言えなかった。

友達のままでいたかったわけじゃない。

嫌われるのが怖かっただけだ。

改札を抜けようとする彼女の背中を見つめる。

今ならまだ間に合う。

名前を呼べばいい。

たったそれだけなのに。

発車ベルが鳴る。

人の流れが動き出す。

彼女は振り返らない。

終電まで、あと一分。

「――またね。」

結局、僕が言えたのはその一言だけだった。

彼女は笑って手を振る。

そして改札の向こうへ消えた。

その背中を見送りながら、僕は知った。

本当に伝えたかった言葉は、最後まで言えなかったのだと。