コイワズライ

「どうしてバレたんだろ?」

 青野市内にある高層マンションの一室で、慧はパソコンの画面を通して奏と向き合っている。面談の時に澄花から脅されたことを教えると、奏は焦りよりも、「何故交際していることがバレたのか」ということを気にしていた。
 澄花の言うとおり、慧は同僚の現代文教師である奏と一年前から交際している。年齢は奏の方が二歳上だったが、光栄学院には慧と同時に赴任したため同期だった。
 同期といえども教える科目も受け持つ学年も違うため、最初の内は会話をすることもあまりなかった。それが二年前に初めて同じ学年の担任を受け持ったことで徐々に接する機会が増え、悩み相談や他愛もない愚痴を交わし合っているうちに仲を深めた。互いに恋愛経験が少ないこともあって、気持ちを確かめ合うまでに一年の時間を要した。

「何か証拠とか見せられたの?」
「それは、見せられてないけど」

 証拠なんてあるはずがなかった。
 慧と奏が交際を始めてから学院の中以外で同じ空間にいたのは、たった一度。県外にある奏の実家に遊びに行った時だけだった。その時も一緒に移動したわけではなく、先に帰省した奏を後から慧が追いかけ、青野市に帰る時も先に慧が帰り、奏は玄関まで見送りにくることすらしなかった。
 それでも、芸能人であれば週刊誌の記者に尾行されて交際が発覚するのかもしれないが、自分たちはただの一教師である。自分たちにそこまで執着するメリットがある者はいないだろう。

「それって、上手くごまかせたんじゃない?」

 たしかに、澄花はネオン街で抱き合っている写真や車中でキスをしている写真を突きつけてきたわけではない。何となく自分たちが付き合っていることに確信を持っていたような気はするが、カマをかけてきた可能性も否定はできない。

「ごめん。いきなり奏の名前が出てきたから頭が回らなくなった」

 慧は当時の情けない自分の姿を思い出して苦笑する。澄花の脅迫に上手く対応することができず、「少し考えさせてくれ」と答えて話を打ち切った。奏との交際を白状したも同然だ。

「まあ事実だし、焦っちゃうよね。私だってその場にいたら絶対頭真っ白になるよ」

 奏は優しい。いつも慧を気遣い、寄り添ってくれる。

「でも、どうするの? 藤咲さんの要求を受け入れる?」
「いや、そういうわけにはいかないよ」

 自分が交認を崩壊させようとしていることは、奏にも話していない。交認において、理事長に次ぐ№2の立場にある自分が、特定の生徒のために便宜を図るという、制度に背くような態度を取ることはできなかった。

「でもそれだと、教審にバラされちゃうんでしょ?」

 奏の言うとおりだった。そしてそれは、光栄学院からの追放を意味した。
 光栄学院には交認という生徒の交際を審議する組織があるように、教職員同士の交際を審議する組織も存在する。それが生徒会の役員で構成される「教職員交際審議部」、通称「教審」と呼ばれる組織だった。