「……もう一度言ってくれるか?」
「だから、一年は充電期間に当てたいんですよ」
何回も言わせないでください、意地悪なんだからあ、と藤咲澄花は妙に艶っぽい声で慧に反論した。
「ダメですか?」
「ダメだ」
「えー、なんで?」
「なんでじゃない。充電期間って、お前はアイドル活動でもしてるのか?」
「それがしてないんですよ、残念ながら。こーんなにカワイイのに。私って結構、アイドルっぽいビジュだと思いません?」
「申し訳ないが俺にはどのアイドルも同じ顔に見えるんだ」
「えー。ケイ先生って意外とオジさん? 三十歳くらいですよね。もしかして年齢詐称?」
慧はうんざりする。オジさんと言われたことにではない。澄花と話していると、どうにもペースが掴めなかった。
「あのな、藤咲。高校を卒業したら、進学なり就職なりあるいは浪人なり、みんなそれぞれ次の道で頑張るんだ。目標が叶わなくて充電期間に入る人間もたしかにいるかもしれないが、最初から充電しようとするのは褒められたものじゃないな」
「そう言われたって、やる気が起きないんですもん」
「なんでだよ?」
「なんでもです。来年の四月は私、やる気がなくなる予定なんです」
「それは、前にお前が言っていた『未来が視える』ことが関係しているのか?」
「お、ご明察。さすが、ケイ先生」
「褒められても嬉しくないんだが」
困ったな、と慧は頭を掻いた。
澄花も颯太同様、今年初めて担任する生徒だ。颯太と違ってT大を目標にするにはほど遠く、成績はほとんど下位、調子が良い時で中位に食い込めるかといった程度。幼い頃に父を病気で亡くし、母親と二人で暮らしてきた。決して金銭的に恵まれた家庭で育ったとは言えないが、それを理由に素行不良ということはなく、二年生の担任から引き継いだのは「掴みどころのない子」というだけ。
実際、いわゆる不良のような振る舞いは見られないが、四月の進路相談で面と向かって話すと、引き継ぎどおり相当な変わり者であることがわかった。
大学に行く気も就職する気もない。果ては「未来が視えるんです」などと言い出す始末。口には出さないが、少しネジが外れているのではないかと慧は思っている。
「で? お前が視える未来には一体どんな厄災が起こるんだ?」
「簡単には教えられません。あとすみません。白状すると『未来が視える』はちょっと盛りすぎました」
澄花は唐突にブレザーのポケットからスマートフォンを取り出す。細い指が流れるように画面を滑ったかと思うと、慧の目の前に一人の少女の画像が突きつけられた。見たことのない顔だったが、芸能人の宣材写真であることは何となくわかった。
「この人、知ってますか?」
「知らないな」
「え、超有名なのに。先生、本当にオジさんなんですね。まあ、いいや。この子は五年前に大人気アイドルグループのオーディションを受けて合格して、すぐにセンターを勝ち取った天才アイドルです。私もメッチャ推してて。でも一年前に急に活動休止を発表したんです。男と付き合ってるんじゃないかとか妊娠したんじゃないかとか、もしかして薬物でもやってるんじゃないかとか、色んな噂が飛び交ったんですけど、結局真実はわからないまま。今では話題になることも少なくなりました」
「なるほど」
ありがちな話だな、と慧は思った。
「で? それがどうかしたのか?」
何故そんな芸能ゴシップを急に言い出すのか。話の繋がりが見えない。
すると澄花は何でもないことのように、ポツリと言った。
「今日、死にます」
「は?」
「この子は今日、死ぬんです」
「だから、一年は充電期間に当てたいんですよ」
何回も言わせないでください、意地悪なんだからあ、と藤咲澄花は妙に艶っぽい声で慧に反論した。
「ダメですか?」
「ダメだ」
「えー、なんで?」
「なんでじゃない。充電期間って、お前はアイドル活動でもしてるのか?」
「それがしてないんですよ、残念ながら。こーんなにカワイイのに。私って結構、アイドルっぽいビジュだと思いません?」
「申し訳ないが俺にはどのアイドルも同じ顔に見えるんだ」
「えー。ケイ先生って意外とオジさん? 三十歳くらいですよね。もしかして年齢詐称?」
慧はうんざりする。オジさんと言われたことにではない。澄花と話していると、どうにもペースが掴めなかった。
「あのな、藤咲。高校を卒業したら、進学なり就職なりあるいは浪人なり、みんなそれぞれ次の道で頑張るんだ。目標が叶わなくて充電期間に入る人間もたしかにいるかもしれないが、最初から充電しようとするのは褒められたものじゃないな」
「そう言われたって、やる気が起きないんですもん」
「なんでだよ?」
「なんでもです。来年の四月は私、やる気がなくなる予定なんです」
「それは、前にお前が言っていた『未来が視える』ことが関係しているのか?」
「お、ご明察。さすが、ケイ先生」
「褒められても嬉しくないんだが」
困ったな、と慧は頭を掻いた。
澄花も颯太同様、今年初めて担任する生徒だ。颯太と違ってT大を目標にするにはほど遠く、成績はほとんど下位、調子が良い時で中位に食い込めるかといった程度。幼い頃に父を病気で亡くし、母親と二人で暮らしてきた。決して金銭的に恵まれた家庭で育ったとは言えないが、それを理由に素行不良ということはなく、二年生の担任から引き継いだのは「掴みどころのない子」というだけ。
実際、いわゆる不良のような振る舞いは見られないが、四月の進路相談で面と向かって話すと、引き継ぎどおり相当な変わり者であることがわかった。
大学に行く気も就職する気もない。果ては「未来が視えるんです」などと言い出す始末。口には出さないが、少しネジが外れているのではないかと慧は思っている。
「で? お前が視える未来には一体どんな厄災が起こるんだ?」
「簡単には教えられません。あとすみません。白状すると『未来が視える』はちょっと盛りすぎました」
澄花は唐突にブレザーのポケットからスマートフォンを取り出す。細い指が流れるように画面を滑ったかと思うと、慧の目の前に一人の少女の画像が突きつけられた。見たことのない顔だったが、芸能人の宣材写真であることは何となくわかった。
「この人、知ってますか?」
「知らないな」
「え、超有名なのに。先生、本当にオジさんなんですね。まあ、いいや。この子は五年前に大人気アイドルグループのオーディションを受けて合格して、すぐにセンターを勝ち取った天才アイドルです。私もメッチャ推してて。でも一年前に急に活動休止を発表したんです。男と付き合ってるんじゃないかとか妊娠したんじゃないかとか、もしかして薬物でもやってるんじゃないかとか、色んな噂が飛び交ったんですけど、結局真実はわからないまま。今では話題になることも少なくなりました」
「なるほど」
ありがちな話だな、と慧は思った。
「で? それがどうかしたのか?」
何故そんな芸能ゴシップを急に言い出すのか。話の繋がりが見えない。
すると澄花は何でもないことのように、ポツリと言った。
「今日、死にます」
「は?」
「この子は今日、死ぬんです」
