颯太と澄花は校内でもほとんどの時間を一緒に過ごすようになった。二人が話しているところをこれまでは誰も見たことがなく、生徒や教師は皆、最初のうちは驚いていた。しかしすぐに慣れたのか、いつの間にか二人は光栄学院のベストカップルと呼ばれるようになった。
十月に行われた文化祭で慧が麗奈と一緒に校内を巡回していると、模擬店の食べ歩きをしていた二人と出くわした。
「お、ベストカップルじゃないか」
「やめてください」
慧が茶化すと颯太は面倒くさそうにしていたが、澄花は満更でもなさそうだった。
「良かったね、藤咲さん」
麗奈が優しく話しかけると、澄花は満面の笑みで頷いた。
「ケイ先生のおかげだよ。ありがとう」
「いや、俺の力じゃない。藤咲が行動したからだよ」
「お、謙虚になったねー。カナデ先生と付き合って変わったなー」
このこのー、と冷やかしてくる澄花に「からかうんじゃない」と注意をする。
「ねー、颯太くん。颯太くんもそう思わない?」
「ん? まあそうだね。たまに浮かれている感じがするのは、少し気持ち悪いけど」
「お前らな、教師を馬鹿にしてんのか?」
「そんなことないよ。ちゃんと感謝してます」
澄花の言葉に颯太も真剣な顔で頷いていた。感謝されるのは素直に嬉しい。でも、それ以上に二人の笑顔を見ていると、胸の内がじわりと温かくなる。
「じゃあ、僕たちはこれで。まだ回りたいところもたくさんあるので」
「それじゃあね!」
やばい間に合わないかも、と慌てて走り出した澄花に颯太が呆れながらついていった。
周りの文化祭を楽しむ声はまだまだ続いているのに、二人がいなくなった途端、急に場が静かになった気がした。
「センパイ、良いことしましたね」
「尊敬したか?」
「はい。さすがお兄ちゃん」
自分が慧の従妹だと知ってから、麗奈はたまにふざけて「お兄ちゃん」と呼ぶ。気持ち悪いからやめろと言ってもやめないので、最近は言わせたままにしている。
「でも本当に、二人ともずっと一緒にいてほしいですね」
麗奈の消え入るような願いは誰にも届くことはない。
文化祭が終わってすぐ、颯太は一ヶ月間入院することになった。家で恋愛ドラマを見ていた時に急に呼吸が荒くなり、救急車で運ばれた。
慧は澄花とともに見舞いに行ったが、「心が乱れてはいけないので」と医者にとめられて会うことができなかった。
退院して登校してきた颯太は、髪が抜け落ちていた。薬の副作用だと聞いたが、栞はそんなことはなかったはずだと直哉に訊くと、栞は病院に運ばれた時に鎮静剤を投与していたくらいで、基本的には延命治療をしていなかったと教えられた。
美しいままで生を終えたかった栞と、最期まで足掻こうとしている颯太。どちらが正しいということはない。
冬になって降雪が少ない青野市に珍しく雪が降った日を最後に、颯太はもう学校に来ることはなくなった。
十月に行われた文化祭で慧が麗奈と一緒に校内を巡回していると、模擬店の食べ歩きをしていた二人と出くわした。
「お、ベストカップルじゃないか」
「やめてください」
慧が茶化すと颯太は面倒くさそうにしていたが、澄花は満更でもなさそうだった。
「良かったね、藤咲さん」
麗奈が優しく話しかけると、澄花は満面の笑みで頷いた。
「ケイ先生のおかげだよ。ありがとう」
「いや、俺の力じゃない。藤咲が行動したからだよ」
「お、謙虚になったねー。カナデ先生と付き合って変わったなー」
このこのー、と冷やかしてくる澄花に「からかうんじゃない」と注意をする。
「ねー、颯太くん。颯太くんもそう思わない?」
「ん? まあそうだね。たまに浮かれている感じがするのは、少し気持ち悪いけど」
「お前らな、教師を馬鹿にしてんのか?」
「そんなことないよ。ちゃんと感謝してます」
澄花の言葉に颯太も真剣な顔で頷いていた。感謝されるのは素直に嬉しい。でも、それ以上に二人の笑顔を見ていると、胸の内がじわりと温かくなる。
「じゃあ、僕たちはこれで。まだ回りたいところもたくさんあるので」
「それじゃあね!」
やばい間に合わないかも、と慌てて走り出した澄花に颯太が呆れながらついていった。
周りの文化祭を楽しむ声はまだまだ続いているのに、二人がいなくなった途端、急に場が静かになった気がした。
「センパイ、良いことしましたね」
「尊敬したか?」
「はい。さすがお兄ちゃん」
自分が慧の従妹だと知ってから、麗奈はたまにふざけて「お兄ちゃん」と呼ぶ。気持ち悪いからやめろと言ってもやめないので、最近は言わせたままにしている。
「でも本当に、二人ともずっと一緒にいてほしいですね」
麗奈の消え入るような願いは誰にも届くことはない。
文化祭が終わってすぐ、颯太は一ヶ月間入院することになった。家で恋愛ドラマを見ていた時に急に呼吸が荒くなり、救急車で運ばれた。
慧は澄花とともに見舞いに行ったが、「心が乱れてはいけないので」と医者にとめられて会うことができなかった。
退院して登校してきた颯太は、髪が抜け落ちていた。薬の副作用だと聞いたが、栞はそんなことはなかったはずだと直哉に訊くと、栞は病院に運ばれた時に鎮静剤を投与していたくらいで、基本的には延命治療をしていなかったと教えられた。
美しいままで生を終えたかった栞と、最期まで足掻こうとしている颯太。どちらが正しいということはない。
冬になって降雪が少ない青野市に珍しく雪が降った日を最後に、颯太はもう学校に来ることはなくなった。
