意味を理解するのに時間を要した。そして、その意味に気がつき、慧と颯太が舌打ちをしたのはほぼ同時だった。澄花はまだ理解していないようだが、不穏な空気は感じ取っているのか、怯えた目で颯太の様子をうかがっている。
「もし仮に『光栄学院の優秀な生徒たちが恋愛においても真面目で一途だから』というのであれば先ほどあなたが示した『認可されたカップルの破局割合』はもっと低くならなければいけません。つまりこれは光栄学院の生徒全員に当てはまるのではなく、『交認で否決されたカップル』にのみ当てはまることなのです。さて、永島先生。答えてください。それらのカップルが結婚に至る割合が多いというのは、良いことですか? 悪いことですか?」
お二人でも良いですよ、と早智枝は颯太と澄花にも回答を求めるが、二人とも答えられない。
「もしかしたら、交認で否決することによって『絶対に離れない!』という反骨心が芽生えるのかもしれませんね。それであれば、今度からより審査基準を厳しくしましょうか。生徒のためになるなら、ねえ、永島先生?」
やられた。まさか、交認を廃止するために歳月をかけて全国各地の関係者から収集したデータを逆手に取られることになるとは思わなかった。
「覚えていますよ、永島先生。私があなたに学院のために最適な選択をしてくださいと言った時、あなたはこう言いました。『それが生徒たちにとっても最適な選択であれば良い』と。まさにあなたが示してくれました。交認は学院と生徒、それぞれにとって最適な選択を提示することができる組織だと」
何か、ないか。早智枝の理屈を覆せる何かが。しかし、どれだけ考えても慧の頭に逆転の一手は浮かんでこない。
負ける。
慧はそう思った。
大好きなはずの祖母を貶めることを知りながら送り出してくれた麗奈の決意は。
かつて光栄学院で学んだ、そして今も学んでいる数多くの生徒たちの声は。
自分を信じて待ってくれている奏の気持ちは。
その全てが、無駄になる。
澄花は不安そうに目を泳がせている。颯太は少しだけ呼吸が乱れ、さり気なくではあるが胸に手を当てている。薬の効果が切れかかっているのかもしれない。
せめて、二人だけでも何とかしなければ。こうなった以上、自分がこのあと処分を下されることは確実だ。そうなる前に土下座してでも、二人の交際だけは認めさせる。颯太は不本意かもしれないが、コイワズライのことを話して同情を誘ったって良い。二人が一緒にいられる残り少ない時間を勝ち取ることが、自分に残された唯一の道だ。
慧は席を立ち、早智枝の前に歩みを進める。余裕の笑みを湛える早智枝の前で膝をつき、頭を地につけようとしたその時だった。
会議室のドアが音を立て、勢い良く開いた。
「何してんだ、慧」
ああ、来てくれたのか。振り返らなくてもわかる。栞が倒れた時と同じ。慧がどうして良いかわからなくなった時、必ず現れる。
「直哉……」
早智枝は眉をひそめ、突然現れた息子を睨んでいた。
「もし仮に『光栄学院の優秀な生徒たちが恋愛においても真面目で一途だから』というのであれば先ほどあなたが示した『認可されたカップルの破局割合』はもっと低くならなければいけません。つまりこれは光栄学院の生徒全員に当てはまるのではなく、『交認で否決されたカップル』にのみ当てはまることなのです。さて、永島先生。答えてください。それらのカップルが結婚に至る割合が多いというのは、良いことですか? 悪いことですか?」
お二人でも良いですよ、と早智枝は颯太と澄花にも回答を求めるが、二人とも答えられない。
「もしかしたら、交認で否決することによって『絶対に離れない!』という反骨心が芽生えるのかもしれませんね。それであれば、今度からより審査基準を厳しくしましょうか。生徒のためになるなら、ねえ、永島先生?」
やられた。まさか、交認を廃止するために歳月をかけて全国各地の関係者から収集したデータを逆手に取られることになるとは思わなかった。
「覚えていますよ、永島先生。私があなたに学院のために最適な選択をしてくださいと言った時、あなたはこう言いました。『それが生徒たちにとっても最適な選択であれば良い』と。まさにあなたが示してくれました。交認は学院と生徒、それぞれにとって最適な選択を提示することができる組織だと」
何か、ないか。早智枝の理屈を覆せる何かが。しかし、どれだけ考えても慧の頭に逆転の一手は浮かんでこない。
負ける。
慧はそう思った。
大好きなはずの祖母を貶めることを知りながら送り出してくれた麗奈の決意は。
かつて光栄学院で学んだ、そして今も学んでいる数多くの生徒たちの声は。
自分を信じて待ってくれている奏の気持ちは。
その全てが、無駄になる。
澄花は不安そうに目を泳がせている。颯太は少しだけ呼吸が乱れ、さり気なくではあるが胸に手を当てている。薬の効果が切れかかっているのかもしれない。
せめて、二人だけでも何とかしなければ。こうなった以上、自分がこのあと処分を下されることは確実だ。そうなる前に土下座してでも、二人の交際だけは認めさせる。颯太は不本意かもしれないが、コイワズライのことを話して同情を誘ったって良い。二人が一緒にいられる残り少ない時間を勝ち取ることが、自分に残された唯一の道だ。
慧は席を立ち、早智枝の前に歩みを進める。余裕の笑みを湛える早智枝の前で膝をつき、頭を地につけようとしたその時だった。
会議室のドアが音を立て、勢い良く開いた。
「何してんだ、慧」
ああ、来てくれたのか。振り返らなくてもわかる。栞が倒れた時と同じ。慧がどうして良いかわからなくなった時、必ず現れる。
「直哉……」
早智枝は眉をひそめ、突然現れた息子を睨んでいた。
