コイワズライ

 放課後まで、時間はあっという間に過ぎた。
 交認開始予定時刻の十五分前。慧が対決の場となる会議室に向かって廊下を歩いていると、正面から奏が歩いてきた。
 最後に奏と言葉を交わしたい。そう思ったが止めた。すれ違う時も、普通の同僚教師がするように互いに会釈をして別々の方向に向かっていく。

 ──明日は必ず勝つ。

 昨夜。
 部活動に青春を懸ける高校生のように、慧は画面の向こうの奏に向かって決意を示した。触れ合うことができない寂しさを文明の利器で埋めるのは今日で終わり。明日からは互いの体温や息づかいを感じる距離に居られる。
 慧がそう言うと奏は首を横に振った。

 ──私のことは、今は良いの。今は宮本くんと藤咲さん、生徒たちのことを一番に考えて上げて。

 やはり奏は優しい、と慧は自分が好きになったことを誇らしく思うと同時に、奏に自分を押し殺させていることを申し訳なく思った。
 明日からの一番の目標は、奏のワガママを引き出すことかもしれない。