「はあ?」
「生徒の感情を抑えつけるあの馬鹿げた制度を、俺が廃止してみせる」
静寂が流れる。教審メンバー全員、慧が言ったことを飲み込めていなかった。
やっとのことで一郎が訥々と疑問を呈する。
「えっと、永島先生は交認のメンバーですよね? しかも門馬理事長がいないときには代行権限も有しているはずです」
「良く知ってるな」
「いわば交認の№2であるあなたが、理事長に反旗を翻すと?」
「さすが生徒会長。話が早くて助かる」
「信じられるわけがない!」
一郎は吐き捨てた。
「この際だから教えてあげましょう。あなたが裏で何と呼ばれているか。『理事長の傀儡』ですよ。そんなあなたが交認を廃止することなどできるはずがない!」
「信じられないか。まあ当然だな。でも、俺は元々そのために学院に来たんだ。理事長の操り人形になってる今の状態は、俺も面白くないんだよ」
そして、慧はこの学院に来ることになった経緯を話した。ほとんどの生徒が真剣に話を聞き、慧が話し終えると信じると宣言してくれたように静かに頷いていた。
しかし、一郎だけは唇を噛み顔を歪めている。信じても良いという気持ちと慧に対するこれまでの憎悪が葛藤しているように、固く握った拳が震えていた。
「そんなことを言って、とりあえずこの場を切り抜けようとしてるだけじゃないですか?」
「疑い深いな」
慧は苦笑する。しかし同時に、一郎が自分の話に真摯に向き合ってくれているのだと思った。
今回の交渉を持ち出すにあたり、一番恐れていたのは教審側が話に乗ったフリをしてすぐに裏切ることだ。簡単に話を受け入れるようならその危険性は高いと思っていたが、どうやらそれはないと慧は判断する。
「東堂、お前にはこれも預ける」
慧は胸に差していたペン型レコーダーを一郎に渡した。
「これには今の会話が全て録音されている。俺が交認を廃止すると宣言したことも全てだ。俺のことを信じられなくなったら。この音声を公開してくれ。そうすれば俺の首はすぐに飛ぶ」
「永島先生……」
「これは俺たちだけに利がある話じゃない。東堂、お前はさっき『生徒たちが過ごしやすい学院環境を構築する』と言ったな。ここで俺を排除することと交認を廃止すること、どちらが生徒たちにとって過ごしやすい学院になると思う?」
考えるまでもないことだ。慧を裁くことで一部の生徒の留飲は下がるかもしれないが、学院は変わらない。将来入学してくる生徒のことも考えると、どちらの選択をすべきなのかは明らかだ。ただし、もし一郎の慧に対する憎悪が生徒会長としての信念を上回るのであれば交渉は決裂する。
しかし、そうではなかった。
一郎は受け取ったレコーダーと交際申請書を制服のポケットにしまうと、鋭い眼差しで慧に問うた。
「勝算はあるんですか?」
「結局は門馬理事長の考えを変えさせることができるかだ。必ず、とは言えないがその準備はしてきた」
目を閉じ、一郎はしばし黙考していた。やがて立ち上がると周囲のメンバーを見回してから言った。
「本会において、永島慧、笹尾奏、両先生の未認可交際については証拠不十分にて認められない。この判断に異議のあるものはいるか?」
誰からも否定の声がないことを確認すると一郎は淡々と閉会を告げる。
「これにて本日の教職員交際審査部を閉会する」
上手くいった。張り詰めていた緊張が緩み、慧はその場に座り込みそうになるのを何とか堪える。「良かった」と溢した奏の声は少しだけ震えていた。
続々と生徒たちが会議室を出ていく中で、一郎が残っている。
「僕は鍵を閉めるので、先生たちも早く出てください」
「ああ、すまない」
二人は席を立ち生徒会室を出ていく間際、「ありがとう」と一郎に礼を告げる。
一郎はただ一言、「生徒会長ですから」と眼鏡を押し上げた。
「生徒の感情を抑えつけるあの馬鹿げた制度を、俺が廃止してみせる」
静寂が流れる。教審メンバー全員、慧が言ったことを飲み込めていなかった。
やっとのことで一郎が訥々と疑問を呈する。
「えっと、永島先生は交認のメンバーですよね? しかも門馬理事長がいないときには代行権限も有しているはずです」
「良く知ってるな」
「いわば交認の№2であるあなたが、理事長に反旗を翻すと?」
「さすが生徒会長。話が早くて助かる」
「信じられるわけがない!」
一郎は吐き捨てた。
「この際だから教えてあげましょう。あなたが裏で何と呼ばれているか。『理事長の傀儡』ですよ。そんなあなたが交認を廃止することなどできるはずがない!」
「信じられないか。まあ当然だな。でも、俺は元々そのために学院に来たんだ。理事長の操り人形になってる今の状態は、俺も面白くないんだよ」
そして、慧はこの学院に来ることになった経緯を話した。ほとんどの生徒が真剣に話を聞き、慧が話し終えると信じると宣言してくれたように静かに頷いていた。
しかし、一郎だけは唇を噛み顔を歪めている。信じても良いという気持ちと慧に対するこれまでの憎悪が葛藤しているように、固く握った拳が震えていた。
「そんなことを言って、とりあえずこの場を切り抜けようとしてるだけじゃないですか?」
「疑い深いな」
慧は苦笑する。しかし同時に、一郎が自分の話に真摯に向き合ってくれているのだと思った。
今回の交渉を持ち出すにあたり、一番恐れていたのは教審側が話に乗ったフリをしてすぐに裏切ることだ。簡単に話を受け入れるようならその危険性は高いと思っていたが、どうやらそれはないと慧は判断する。
「東堂、お前にはこれも預ける」
慧は胸に差していたペン型レコーダーを一郎に渡した。
「これには今の会話が全て録音されている。俺が交認を廃止すると宣言したことも全てだ。俺のことを信じられなくなったら。この音声を公開してくれ。そうすれば俺の首はすぐに飛ぶ」
「永島先生……」
「これは俺たちだけに利がある話じゃない。東堂、お前はさっき『生徒たちが過ごしやすい学院環境を構築する』と言ったな。ここで俺を排除することと交認を廃止すること、どちらが生徒たちにとって過ごしやすい学院になると思う?」
考えるまでもないことだ。慧を裁くことで一部の生徒の留飲は下がるかもしれないが、学院は変わらない。将来入学してくる生徒のことも考えると、どちらの選択をすべきなのかは明らかだ。ただし、もし一郎の慧に対する憎悪が生徒会長としての信念を上回るのであれば交渉は決裂する。
しかし、そうではなかった。
一郎は受け取ったレコーダーと交際申請書を制服のポケットにしまうと、鋭い眼差しで慧に問うた。
「勝算はあるんですか?」
「結局は門馬理事長の考えを変えさせることができるかだ。必ず、とは言えないがその準備はしてきた」
目を閉じ、一郎はしばし黙考していた。やがて立ち上がると周囲のメンバーを見回してから言った。
「本会において、永島慧、笹尾奏、両先生の未認可交際については証拠不十分にて認められない。この判断に異議のあるものはいるか?」
誰からも否定の声がないことを確認すると一郎は淡々と閉会を告げる。
「これにて本日の教職員交際審査部を閉会する」
上手くいった。張り詰めていた緊張が緩み、慧はその場に座り込みそうになるのを何とか堪える。「良かった」と溢した奏の声は少しだけ震えていた。
続々と生徒たちが会議室を出ていく中で、一郎が残っている。
「僕は鍵を閉めるので、先生たちも早く出てください」
「ああ、すまない」
二人は席を立ち生徒会室を出ていく間際、「ありがとう」と一郎に礼を告げる。
一郎はただ一言、「生徒会長ですから」と眼鏡を押し上げた。
