コイワズライ

 一郎は震える手で紙を持ちながら、慧と奏に向けて差し出す。何事かと他の教審メンバーたちが集まってくる。それぞれが紙に書かれている内容を理解すると、驚愕で目を見張っていた。

「『交際許可申請書』だと? 認められるわけないだろ!」

 慧が渡した用紙には永島と笹尾の印鑑が押してあり、そこにはこう書かれていた。

 ──私たち、永島慧と笹尾奏の交際を認めていただきたく申請いたします。

「この申請書を教審のみんなに預かっておいてほしいんだ」
「馬鹿なことを!」

 一郎が声を荒らげる。

「受理してもらえるとでも思ったんですか? 申請書は事前に提出するルールです。無断交際がバレそうになってから提出するなんて言語道断だ! 永島先生。あなたがそこまで卑怯だとは思いませんでした」
「そうだな。俺は卑怯だ」

 きっと、不条理なルールだと思いながらもそれに従い、自分の恋愛感情を打ち明けられない生徒もたくさんいるだろう。それに比べるとルールを無視している自分は卑怯だ。しかし、目の前にいる生徒たちには、もう少しこの卑怯な男に付き合ってもらわなければならない。

「交際申請書は事前に提出するルールだと言ったな。なあ東堂、俺はそれを無視しているつもりはない」
「なんですって?」
「俺と笹尾先生の交際について、今この場で審議してもらおうとは思っていない。俺はさっきから『預かっておいてほしい』と言っている」
「……話が見えませんが」
「しばらくの間、俺たちのことを見逃してほしいんだ」

 一郎も他のメンバーも絶句していた。今にも怒り狂いそうな面々に意図を伝えるべく、慧は落ち着け、と片手を上げて制した。

「もちろん、タダでとは言わない」
「取引ですか? 僕たちを馬鹿にしないでください。金に目が眩むとでも?」
「そんなこと思っていないさ。金じゃない。俺はお前たちに、いや学院の生徒みんなに約束する」
「約束?」

 とうとう、きた。学院に入ってからずっと膠着状態だったこの状況を打破する時が、いよいよやってきた。
 慧は小さく息を整え、口を開く。

「交際認可審議会を廃止する」