コイワズライ

 教審の開催時間になり、慧と奏は生徒会室の前に二人で立っていた。慧は上着のポケットに手を入れ、それが入っていることをしっかりと確認すると、落ち着くために小さな一つ息を吐いた。

「緊張してる?」

 慧を覗き込む奏の表情はいつもどおりやわらかく、落ち着いているように見えた。

「緊張してない、といえば嘘になるな」

 遠目から自分たちのことを眺めている生徒たちの視線が刺さる。いつか必ず、奏の隣に堂々と立つ日が来ることを信じていたが、まさかそれが裁きを待つ被告人の立場として叶うことになるとは思わなかった。
 足が震えている。大丈夫だと腹をくくったはずなのに、いざこうして審議の直前になると不安が頭をもたげてくる。
 果たして上手くいくのか。あと数分後にはあっさりと学院を去ることが決まっているのではないか。

「大丈夫だよ」

 奏がそっと手を握ってきた。

「大丈夫」

 野次馬の生徒たちに今の行為が見られてはいなかったか。一瞬そんな不安がよぎったが、それ以上に奏の暖かい手と優しい声色で慧の緊張は解けていった。
 大丈夫だ。
 慧は胸ポケットに差し込んだペン型レコーダーのスイッチを入れる。これから始まる会話はしっかりと録音しておかなければならない。

「行こう」

 奏の前に立ち、慧は生徒会室の扉をノックした。