「どうしてあんなすぐ俺にバレるようなことをした?」
慧の詰問に画面の向こうの顔はうつむいてしまった。
「教えてくれ、奏」
リークされた写真を見て一郎は置き配だと言っていたが、それはありえない。慧は配達員からとはいえ、直接プレゼントを受け取ることで奏が喜ぶと考え、置き配指定はしなかった。そして、予定した時間通りに奏に届けられたことはECサイトからの通知で確認している。つまり犯人はプレゼントを届けた宅配業者か、それを受け取った本人しかいない。悪趣味な宅配業者がいたとしても、それが学院の生徒であり、生徒会室に侵入して写真を置いたということは考えにくい。そうなると、答えは一つしかなかった。
あれは奏が自分で玄関前に置き、それを撮影したものだ。
慧は写真を見てすぐにピンときた。そして、それが正解だということは奏の反応が物語っている。
「今のままは、嫌だったから」
もし機器の性能が悪かったら音は拾えなかっただろう。奏の声は消え入りそうなほどにか細かった。
「怖かった。こんなことをしたらどうなるのかって。でも、慧くんとの関係をこのままの状態で続けていくのはそれ以上に怖かった。いつか気持ちが離れてしまうんじゃないかって。わがままを言っているのはわかるけど、もっと一緒にいたい」
「奏……」
「四六時中ベタベタしたいとかじゃないの。ちょっと買い物したりとか一緒に外でご飯を食べたりとか、せめて誕生日とかクリスマスとか特別な日だけでも。でも、今はそれもできない」
わかっていた。奏が今の関係をもどかしく思っていることは。
「前に私の実家に来てもらったことがあるでしょ?」
「ああ」
「すごく、楽しかった」
特別なことをしたわけではない。両親に挨拶をして一緒に夕飯を食べ、酒を酌み交わしながら将来の話をした。
──結婚したいと思っています。
酔っていたこともあり、これまで口にしたことのなかった思いを打ち明けた。奏の父親に何か言われるかとも思ったがそれはなく、母親と二人、優しく受け止めてくれた。
──先に私に言ってよ。
文句を言う奏の目が潤んでいたのを見て、慧は絶対に二人で幸せになると決めた。
「慧くんは教審に認めてもらえないからって申請をしてこなかったけど、私は別に認めてもらえなくても良いと思ってる。認めてもらえなくったって、無視して付き合ってればいいじゃない。今だって無断で付き合ってるんだし。それでバレて辞めることになっても構わない。私たち二人のことを、何も知らない人たちに決められるのが嫌なの」
慧は頷いた。
奏の言うとおりだ。ちょっとしたデートも特別な日のお祝いも、画面越しではなく温もりを感じながらともに過ごしたい。奏が言ったことはほとんど慧の気持ちを代弁している。ただ一つを除いて。
「ごめん、奏。今は学院を辞めるわけにはいかない」
「……そう。そんなに収入とか学院のブランドが大事なんだ」
失望の色を見せた奏に、慧は慌てて首を振る。
「違う。そうじゃないんだ」
慧はこれまで奏に話していなかったことを全て話した。自分は最初から教師を志していたわけではなく、光栄学院に入ることが目的だったこと。そしてその理由。早智枝の考えを改めさせることで交認を廃止する。それを直哉と約束したこと。
慧が話している間、奏は黙って聞いてくれた。
「どうして、今まで教えてくれなかったの? 私が理事長に告げ口するとでも思った?」
奏は少し怒っているようだった。
「巻き込みたくなかったんだ」
本心だ。
奏に話したらきっと協力すると言ってくれる。しかし、それが上手くいかなかった時、奏まで学院での立場を悪くするのではないかと危惧した。
しかし、それも含めて奏には全てを話すべきだった。
「本当にごめん」
パソコンの前で頭を下げるが、しばらくの間、奏からの返答はなかった。
ようやく口を開いた時、奏は「ごめん」と謝罪の言葉を口にした。
「どうして奏が謝るんだ?」
「慧くんは私よりも、学院での立場とかそういうステータスみたいなものの方が大事だと思ってた。でも、そんなわけないよね。慧くんと普段話していれば違うってわかるのに。ごめん。私の感情的な行動のせいで、慧くんは目的を果たせないかもしれない」
「おいおい、俺たちが退学する前提で話さないでくれよ」
「え?」
「たしかにピンチには違いないけど、俺はまだ諦めてないぞ」
「でも」
「考えがあるんだ」
慧は自らの作戦を奏に伝えた。上手くいく確証はない。これには一郎たち生徒会のメンバーにも対立から一転、協力してもらう必要がある。もしかしたら、協力するフリをして裏切られるかもしれない。
それでも、奏は頷いた。
「わかった。私も協力する」
「良いのか?」
「慧くんから言い出しておいて、それはないでしょ?」
奏は笑顔だった。
「ありがとう」
絶対に奏とともに光栄学院に残る。そして目的も必ず達成する。失敗しても何とかなるという弱気な気持ちは追い払った。
慧の詰問に画面の向こうの顔はうつむいてしまった。
「教えてくれ、奏」
リークされた写真を見て一郎は置き配だと言っていたが、それはありえない。慧は配達員からとはいえ、直接プレゼントを受け取ることで奏が喜ぶと考え、置き配指定はしなかった。そして、予定した時間通りに奏に届けられたことはECサイトからの通知で確認している。つまり犯人はプレゼントを届けた宅配業者か、それを受け取った本人しかいない。悪趣味な宅配業者がいたとしても、それが学院の生徒であり、生徒会室に侵入して写真を置いたということは考えにくい。そうなると、答えは一つしかなかった。
あれは奏が自分で玄関前に置き、それを撮影したものだ。
慧は写真を見てすぐにピンときた。そして、それが正解だということは奏の反応が物語っている。
「今のままは、嫌だったから」
もし機器の性能が悪かったら音は拾えなかっただろう。奏の声は消え入りそうなほどにか細かった。
「怖かった。こんなことをしたらどうなるのかって。でも、慧くんとの関係をこのままの状態で続けていくのはそれ以上に怖かった。いつか気持ちが離れてしまうんじゃないかって。わがままを言っているのはわかるけど、もっと一緒にいたい」
「奏……」
「四六時中ベタベタしたいとかじゃないの。ちょっと買い物したりとか一緒に外でご飯を食べたりとか、せめて誕生日とかクリスマスとか特別な日だけでも。でも、今はそれもできない」
わかっていた。奏が今の関係をもどかしく思っていることは。
「前に私の実家に来てもらったことがあるでしょ?」
「ああ」
「すごく、楽しかった」
特別なことをしたわけではない。両親に挨拶をして一緒に夕飯を食べ、酒を酌み交わしながら将来の話をした。
──結婚したいと思っています。
酔っていたこともあり、これまで口にしたことのなかった思いを打ち明けた。奏の父親に何か言われるかとも思ったがそれはなく、母親と二人、優しく受け止めてくれた。
──先に私に言ってよ。
文句を言う奏の目が潤んでいたのを見て、慧は絶対に二人で幸せになると決めた。
「慧くんは教審に認めてもらえないからって申請をしてこなかったけど、私は別に認めてもらえなくても良いと思ってる。認めてもらえなくったって、無視して付き合ってればいいじゃない。今だって無断で付き合ってるんだし。それでバレて辞めることになっても構わない。私たち二人のことを、何も知らない人たちに決められるのが嫌なの」
慧は頷いた。
奏の言うとおりだ。ちょっとしたデートも特別な日のお祝いも、画面越しではなく温もりを感じながらともに過ごしたい。奏が言ったことはほとんど慧の気持ちを代弁している。ただ一つを除いて。
「ごめん、奏。今は学院を辞めるわけにはいかない」
「……そう。そんなに収入とか学院のブランドが大事なんだ」
失望の色を見せた奏に、慧は慌てて首を振る。
「違う。そうじゃないんだ」
慧はこれまで奏に話していなかったことを全て話した。自分は最初から教師を志していたわけではなく、光栄学院に入ることが目的だったこと。そしてその理由。早智枝の考えを改めさせることで交認を廃止する。それを直哉と約束したこと。
慧が話している間、奏は黙って聞いてくれた。
「どうして、今まで教えてくれなかったの? 私が理事長に告げ口するとでも思った?」
奏は少し怒っているようだった。
「巻き込みたくなかったんだ」
本心だ。
奏に話したらきっと協力すると言ってくれる。しかし、それが上手くいかなかった時、奏まで学院での立場を悪くするのではないかと危惧した。
しかし、それも含めて奏には全てを話すべきだった。
「本当にごめん」
パソコンの前で頭を下げるが、しばらくの間、奏からの返答はなかった。
ようやく口を開いた時、奏は「ごめん」と謝罪の言葉を口にした。
「どうして奏が謝るんだ?」
「慧くんは私よりも、学院での立場とかそういうステータスみたいなものの方が大事だと思ってた。でも、そんなわけないよね。慧くんと普段話していれば違うってわかるのに。ごめん。私の感情的な行動のせいで、慧くんは目的を果たせないかもしれない」
「おいおい、俺たちが退学する前提で話さないでくれよ」
「え?」
「たしかにピンチには違いないけど、俺はまだ諦めてないぞ」
「でも」
「考えがあるんだ」
慧は自らの作戦を奏に伝えた。上手くいく確証はない。これには一郎たち生徒会のメンバーにも対立から一転、協力してもらう必要がある。もしかしたら、協力するフリをして裏切られるかもしれない。
それでも、奏は頷いた。
「わかった。私も協力する」
「良いのか?」
「慧くんから言い出しておいて、それはないでしょ?」
奏は笑顔だった。
「ありがとう」
絶対に奏とともに光栄学院に残る。そして目的も必ず達成する。失敗しても何とかなるという弱気な気持ちは追い払った。
