コイワズライ

「そうですか」

 放課後、生徒指導室に澄花を呼び出した。図書室での颯太との会話を伝え、申請書に同意はしてくれないのではないかという慧の率直な意見をぶつけた。
 澄花にいつものおちゃらけた様子はなく、しばらくの間俯いて黙っていた。

「このままだと交認に辿り着くことすらできないな。どうする?」

 ──俺に協力したら宮本を説得してやるぞ。

 そう言って取り込んでやろうと、慧は直前まで思っていた。しかし、

「他に俺ができることはあるか?」

 本気で落ち込んでいる澄花を見て、そんな言葉はどこかに消えた。澄花たちを巻き込んで交認廃止へのきっかけを掴む。そう目論んでいたのは事実だが、それ以上に教師として目の前にいる生徒に寄り添わなければ行けないと思った。
 もしかしたら、これは澄花にとって最後の願いかもしれないのだから。

「嫌いとか言ってませんでしたか、宮本くん。私のこと」

 澄花が上目遣いで問う。

「言ってなかったぞ」

 嘘ではない。しかし、好きという言葉も聞いていない。二人が本当はどういう関係なのか、実際のところはわかっていない。

「なあ藤咲、お前たちは一体どういう関係なんだ?」
「それは……」
「俺は交認のメンバーだし、信用できないかもしれない。だが、現段階でお前たちが未認可で交際をしているという事実はないと判断している。交認は交際という事実に口を挟めても、互いの気持ちに口を挟むことはできないと俺は解釈している。だから、良かったら話してくれないか。もしかしたら、二人の関係を好転させることができるかもしれない。まあ、あまり期待されても困るけどな」

 グラウンドから運動部の活気ある声が聞こえる。まだだ、もっと声を出せ、と吹奏楽部の演奏がそれを後押しする。光栄学院の部活動は決して盛んとは言えず、あくまでも勉強の合間の息抜きくらいに考えている生徒がほとんどだ。それでも、そこで築き上げた人間関係があり、青春がある。
 目の前にいる藤咲澄花という少女はどんな青春を送ってきたのか。部活や勉強に力を入れているわけでもなく、友人もいない。そんな少女が、おそらくは高校生活において初めて自分の望みを口にした。しかも、教師を脅迫してまでその望みを叶えようとしている。諦めろで片付けて良いことではない。

「ケイ先生」

 しばしの沈黙の後、ようやく澄花が口を開いた。

「なんだ?」
「私と颯太くんは──」

 校内放送のアナウンスが流れたのはその時だった。

『三年C組担任の永島先生』

 放送部女子生徒の凛とした声が告げる。

『大至急、生徒会室までお越しください』

 生徒会室と聞いて、一人の生徒の顔が浮かぶ。きっと碌なことは起きない。

『繰り返します。三年C組担任の永島先生。大至急、生徒会室までお越しください』