コイワズライ

「それでは、本日の交際認可審議会を開催いたします」

 玲央と心菜を退学させてから一週間。
 この日は未認可の交際を裁くのではなく、正式に申請を上げてきた二人の生徒について審議することになっていた。

「本日の申請者である二年A組の熊谷政志(くまがいまさし)、同じく二年A組の三枝由里(さえぐさゆり)について、これまでの本校における学業成績を私から述べさせていただきます。まずは熊谷から。一年時の中間考査は受験者176名の内、総合順位は95位。最初は中位を下回る成績でしたが、その後の結果を確認すると──」

 慧が淡々と説明するのを当事者の二人は余裕の笑みを浮かべながら、周囲の審議員たちは「早く終われ」と退屈そうな表情で聞いていた。
 今日は特に議論の余地がないというのが審議員全員の共通認識だった。申請書を受理してから一週間。各審議員が当該生徒の成績推移等に目を通してから今日の交認に臨んでいる。
 政志は入学した当初こそ百番近い順位だったが今は概ね四十番台、由里は三十から五十番台に位置していることが多く、二人の成績に大きな乖離は見られない。これが例えば、一方が一桁台の常連では駄目で、逆に二人ともが最下位争いをしているようなら認可される。
 優秀かどうかではない。
二人の「レベル」がどれだけ近い水準にあるか。
偏差値が二十違うと話が通じないと言われたりするが、話が通じないといずれ関係は破綻する。最初から関係が破綻すると見込まれるような交際は認めない。そのような考えに基づいて交認は生徒の恋心を淡々と裁いていく。

「説明は以上になります。二人とも、何か発言したいことはあるか?」

 慧に話を振られた二人だったが、「良いから早く認可しろ」と言わんばかりに「お願いします」と一言発しただけだった。

「審議員の皆さんから何か質問はありますか?」

 誰も何も言わない。中央に鎮座する審議会長の早智枝も発言しないことで、認可は下りたも同然だった。後は進行役である慧が早智枝に話を振り、早智枝の口から結論を言い渡すだけ。しかし、

「……熊谷、ちょっと訊いても良いか?」

 全員の視線が慧に集まる。誰もが終わると思っていたところに慧が質問したことで皆が虚を突かれていた。

「最近バスケ部の練習を休みがちだと聞いているが、理由はなんだ?」
「それは、何か今関係あるんですか?」

 きっと政志だけではない、他の全員も同じことを思っているのだろう。皆が訝しげに慧を見る中、早智枝は話を遮るでもなく事態を静観している。

「答えてくれないか? 体調不良というわけでもないみたいだが」

 渋々といった様子で政志が答える。

「えっと、少し勉強時間を増やしたくて」
「じゃあ休んでいる間はずっと勉強してるってことか?」
「まあ、たまに息抜きで動画見たりはしますけど」
「なるほどな。じゃあ、今度は三枝に訊きたい。昨日、家に着いたのは何時だ?」

 急に話を振られたことで由里は少し動揺していたが、落ち着いて昨日の記憶を手繰り寄せると「七時半くらいです」と答えた。

「吹奏楽部は毎日そんな感じか?」
「はい。大体は」
「大変だな。毎日遅く帰って、それから飯を食って風呂に入って勉強して、か。それで今の成績は立派だよ」
「あの、何が言いたいんですか?」

 睨みつけてくる政志に向かって、慧は大仰に両手を上げる。

「そんな怖い顔するなよ。ただ、熊谷はバスケが好きだろ? その好きなものを犠牲にしてでも勉強して成績を上げて、三枝と一緒になろうとしてる。本当に三枝のことが好きなんだなって確認したかっただけだ」

 慧の言葉を聞き安堵したのか、政志の表情が緩んでいく。
 これ以上、この場を荒らすのは得策ではないと、慧は言いたいことを飲み込んだ。

 ──本当にこの二人は同じ「レベル」なのか。

 部活を犠牲にしている政志と余力を残している由里。成績は同じくらいでも、この二人の学業におけるポテンシャルには開きがあるだろう。どちらかが何かを犠牲にして相手のレベルに合わせようとすることは、将来、無理が生じないだろうか。もし、努力して同じ「レベル」になったのだから問題ないというのであれば、それはもはや成績を重視した判断ではなく、後先考えない愛に対する情熱を評価したことになるのではないか。そしてそれは、交認の理念と矛盾しているように思える。
 やはり、表面上の成績だけで教師が判断するのは無理があると、慧は確信する。しかし、この場でそれを突きつけるのは、まだ早い。

「皆さんから他になければ、審議会長。結論をお願いします」

 こうして、二人の交際は無事認可された。